【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
万次郎が武道へ話があると言っていた集会は、気付けば明日へ迫っていた。
そんな日の放課後、武道は三ツ谷に呼び出され、三ツ谷が通う中学校を訪れていた。
「これが三ツ谷くんの中学かー」
談笑をしながら校門を出ていく生徒や、その奥にある校舎に視線をやりながら、武道はそう呟いた。
「用事があるって呼び出したくせに、遅っせぇなぁ三ツ谷くん」
「おーい、タケミっち!」
なかなか現れない三ツ谷に痺れを切らし始めた時、聞き覚えのある声が武道を呼んだ。
声のする方へ、武道は顔を向ける。
そこには予想通りの人物が、のしのしと歩きながらこちらへ向かってきていた。
「ぺーやんくん!?ガラ悪!」
三ツ谷と林が同じ中学である事に驚きながらも、三ツ谷の代わりに武道を迎えに来たという林に武道は着いて行った。
そして林に連れられて武道がやって来たのは、意外な事に家庭科室だった。
予想もしていなかった場所に連れて来られた武道が少々混乱していると、林は扉の前に立ち止まったまま、苦い表情を浮かべながら小さな声で呟いた。
「苦手なんだよなぁ、アイツ」
「ん?アイツ?」
すると目の前の扉が突然開き、真面目そうな三つ編みの女子生徒が林を叱責し始めた。
「ちょっと林くん!」
「うっ」
「また部長をたぶらかしに来たの!?部長今忙しいから帰って!」
「いやっ俺は……」
「大体何その格好!?そんな服着てるから先生に目をつけられるんだよ!?」
女子生徒のあまりの勢いに、武道は思わず口を開けたまま、ぽかんとした表情でその光景を見つめていた。
真面目そうな事には代わりはないが、暴走族である林にこれだけの啖呵を切れるところを見ると、気も強そうだ。
「どうしたぁ?」
「部長!また林くんが!」
今度は中から、部長と呼ばれる人物が現れた。
武道がふと視線を奥にやると、武道の目に三ツ谷の姿が映る。
「え!?三ツ谷くん!?」
「おー、タケミっち」
何故、三ツ谷が家庭科室にいるのか。
状況が飲み込めず、武道は静かに混乱していた。
「そう怒んなって、安田さん。俺がぺーやんにお使い頼んだんだから」
「私、部長以外の不良嫌いです!」
「部長って……三ツ谷くん?」
「おう。入れよ」
三ツ谷に招き入れられ、武道と林は家庭科室へと足を踏み入れる。
そこは手芸部の部室だったようで、それぞれ何かを作っている部員たちに、三ツ谷は丁寧にアドバイスをして回っていた。
「ちょっと待ってろタケミっち。すぐできっから」
「は、はい……」
暴走族をやりながら学校生活もしっかり両立させている三ツ谷を見て、武道は思わず圧倒されていた。
「すぐ出来るって……何作ってるんスかね?そもそも俺って、なんで呼び出されたんだろ?」
「トップクだよ」
「え?」
武道が林に視線を向けると、林も武道を見ながら再び口を開いた。
「喜べよ。お前のトップク、三ツ谷直々に仕立ててくれてんだぞ」
「……三ツ谷くんが、俺の……?」
「初期メンバー以来だよなぁ?三ツ谷」
林にそう問いかけられた三ツ谷は、慣れた手つきでミシンを扱いながら、穏やかな表情で言った。
「俺らにとっての一番のフォーマルはトップクだろ。俺なりの感謝の気持ちだよ、タケミっち。83抗争ではドラケン救ってくれて、血のハロウィンではみんなの目を覚ましてくれた。だからお前のトップクは絶対ェ、俺が仕立てたかったんだ 」
三ツ谷の言葉に、武道は胸の辺りがじわじわと温かく、そして少しだけ擽ったくなるのを感じた。
「ありがとうございます!」
「バーカ。俺が勝手にやってる事だ」
そしてそれから数分が経つと、弾んだような三ツ谷の声が家庭科室内に響く。
「出来た!着てみろよ、タケミっち!」
「ハイ!」
「明日の集会が楽しみだな!」
自分の特攻服は何だか照れ臭かったけれど、同時に武道は誇らしさのようなものも感じていた。
▼
集会当日。
武道は完成したばかりの特攻服に袖を通して、武蔵神社を訪れていた。
「早くしろや、タケミっち」
「なんかこっ恥ずかしいっスね……」
けれどその表情は、好奇に満ちていた。
目をキラキラと輝かせながら、胸を高鳴らせる武道に、三ツ谷は声を掛けた。
「さぁ、お披露目だ」
境内までの長い階段を登り切ると、幹部たちが一斉に武道を見る。
龍宮寺も特攻服を身に纏う武道を見て、口元を綻ばせていた。
「似合ってねぇなぁ、お前!」
「ですよね!着せられてる感ハンパねーっス!」
そう笑い飛ばす武道を、龍宮寺は真っ直ぐ見つめながら言った。
「改めて、東京卍會へようこそ」
「ハイ!よろしくお願いします!」
武道は後ろで手を組み、深く頭を下げて言った。
「おう」
そしていよいよ、集会の始まりの時が訪れる。
「さて、集会始まんぞ!」
「ハイ!」
「お前にとって大事な集会だ。覚悟しとけ」
龍宮寺のその言葉に、武道はゴクリと息を呑む。
それと同時に、特攻服を身に纏った万次郎が、隊員たちの前に姿を現した。
更にその後ろから、芭流覇羅の半間と東卍壱番隊副隊長の松野が現れる。
それを見た隊員たちは、瞬く間にざわめき始めた。
「半間に……千冬……!?」
「今日の集会は荒れンぞー、血のハロウィンの総決算だ」
これから起ころうとしている事に、武道の心臓は大きく脈打つ。
何故この場所に、半間がいるのか。
万次郎が言っていた大事な話とは、一体何なのか。
武道は汗ばむ拳を握り締めながら、真っ直ぐに万次郎を見つめていた。
.