【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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日向とのデート中に、万次郎たちと遭遇した日の深夜の事。
武道は心を支配する妙な胸騒ぎに眠る事が出来ず、自室のベッドの上でもぞもぞと何度も動いていた。
武道の胸騒ぎの理由、それは現代の万次郎と志織の事だった。
元々武道がいた現代では、万次郎は巨悪化した東卍の総長だ。
では、志織はどうしているのだろうか。
今まで直人から東卍の話を聞く際に、志織の名が出て来た事は一度もなかった。
現代でも志織が万次郎と共にいるのであれば、少しくらい情報が出て来てもおかしくはない。
勿論、直人も含めた警察に情報が漏れないよう、万次郎が志織を囲っている可能性は十分ある。
けれど現代で会った日向も千堂も、そして龍宮寺でさえ、志織の名を口にする者は誰一人いなかった。
それを踏まえると、現代の志織は既に、万次郎の傍にはいないのではないだろうか。
「……あり得ねぇ……」
胸を締め付けられるようなその仮説に、思わず武道の口からそんな言葉が溢れ落ちる。
武道は眠れない身体を徐に起こすと、ガシガシと頭を掻いた。
「くそ……っ分かんねぇ……」
万次郎と志織の事を知らなければ、こんなにも違和感を抱く事はなかっただろう。
むしろそう考えるのが自然であるとさえ、武道は思ったはずだ。
けれど武道はこれまで、万次郎と志織の絆の深さを、ずっと傍で目の当たりにしてきた。
今日だって、愛しそうに志織を見つめながら、幸せにしたいと言った万次郎の横顔を目の前で見ていたのだ。
だからこそ武道は今、自分の中にある仮説への違和感を拭い切れずにいる。
「はぁ……」
武道の口から、深い溜め息が溢れ落ちた。
このぐしゃぐしゃになった思考回路では、まともな考えなんて浮かぶはずもないだろう。
少し冷静にならなくては。
武道はそう考えると、起こしていた身体をゆっくりと後ろへ倒し、仰向けの状態で横になった。
そして、今度は別の角度からもう一度、考えてみる事にした。
仮に、今武道の頭にある仮説が正しいとした場合はどうだろう。
万次郎と志織の絆の深さは、そう簡単に崩れるものでは決してない。
けれど武道が知る現代では、二人はおそらく離れ離れになっている。
そこから導き出された新たな仮説が、武道の頭の中にぼんやりと浮かんだ。
「……別れなければいけない程の何かが、理由があった……?」
そう呟いた瞬間、鼓動が妙に早まった気がした。
嫌な音を立てる心臓を抑えながら、武道は冷静になれと自分に言い聞かせた。
万次郎と志織の強い絆を引き裂いた程の出来事とは、一体なんなのだろう。
今ここで答えが出る訳はないが、この仮説が正しいとしたら、きっと並々ならぬ事があったに違いない。
そしてそれを仕向けたのが、稀咲の企てによるものだとしたら──。
武道は仰向けで横たわっていた身体をもう一度起こし、額に滲んだ汗を少々乱暴に拭った。
万次郎と志織の絆を引き裂いた出来事を、絶対に阻止しなければならない。
あんなにも想い合っている二人を、引き裂いて良いはずがないのだから。
その瞬間、武道の拳にぐっと力が籠る。
「絶対ェ、阻止しなきゃ……」
血のハロウィンが終わってしまった今、武道が出来る事はもう少ないのかもしれない。
けれど、過去にいられる残り少ない期間でも、出来る事はあるはずだ。
まずは、それを探すところから始めよう。
武道のその目は、決意に満ちていた。
カーテンの隙間から光が差し込んで、少しずつ部屋の中を明るく照らしていく。
武道はベッドを出ると、そのまま階段を駆け降り、外に飛び出した。
そして武道は衝動に任せて、太陽が昇り始めたばかりの町を、何度も何度も気が済むまで走り回った。
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