【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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ある日の昼下がり。
万次郎と志織、そして龍宮寺は、とあるファミレスにいた。
そしてそのファミレスの別卓にはもう一人、花垣武道の姿があった。
武道は龍宮寺の死を阻止する為に付き人を申し出たが、呆気なく断られ、それならばと龍宮寺を尾行しているのだ。
「なんだよコレ!?」
万次郎のそんな声が店内に響き渡り、武道は何事かと、三人が座る席へ視線を向けた。
「もう一生許さねえ」
「あ?」
未来で直人から聞いた、東卍の内部抗争。
その発端となる喧嘩が遂に起こってしまったのかと、武道は息を呑みながらその様子を見守った。
だが──。
「旗が立ってねえじゃん!!」
そう言って万次郎が指差したのは、テーブルの上に置かれたお子様セットだ。
思わず武道の口からも、え?という困惑の声が漏れる。
「俺はお子様セットの旗にテンション上がるの!」
これでもかというくらいに頬を膨らませる万次郎を宥める志織と、どこから出したのか旗をお子様セットのライスへ突き刺す龍宮寺。
万次郎はその旗を見るなりすっかり機嫌を直したようで、瞳を輝かせてお子様セットを見つめていた。
「うわぁー!さすがケンチン!」
「ああ…ケンチンが持っててくれてて助かった…!ありがとう!よかったね万次郎!」
「うん!ありがとケンチン!」
それから数十分後。
今度は龍宮寺の声が店内に響き渡った。
「あー!!もうやってらんねー!うっせぇんだよマイキー!」
武道は再び、三人の座る席へ視線を向けた。
今度こそ内部抗争の発端となる何かが起きたのかと武道は思ったが、その目に映ったのは、志織の膝を枕にして居眠りをする万次郎の姿だった。
「食ったらすぐ寝るのいい加減直せよ!志織もよくマイキーと何年も付き合ってられんな!」
「アハハ……まあこういうところも可愛いし」
「うーん…もう食べられないよー…」
「おお…すごい寝言」
「ったくしょうがねぇな。悪ィ志織、これからマイキーと寄るとこあんだわ」
「あ、そうなの?じゃあ万次郎の事よろしくね。会計はしとくから」
「助かるわ。これ俺の分な」
龍宮寺は志織に自分の分の代金を渡すと、万次郎を背負って店を後にした。
それに続いて武道も店を出ると、普段の万次郎の子供っぽさに驚きの表情を滲ませながら二人の後ろ姿を見つめていた。
「……あれ、タケミっち?」
「ハッ…!志織さん…!?」
「何してんの?こんなところで」
会計を終え店から出てきた志織と鉢合わせてしまい、武道は顔中にダラダラと大量の汗を流す。
回らない頭で言い訳を考えても何も思い付くはずもなく、何をしていたのか志織に勘づかれてしまった。
「……え、もしかして尾行とかしてた?」
「あ、いや……えーと……」
もう終わりだ。
きっと、マイキーくんとドラケンくんにもバレて殴られる。
武道はそう覚悟を決めたが、志織の口から出てきたのは、予想外の言葉だった。
「面白そうじゃん。私もついていっていい?」
「……はい?」
「ほらタケミっち!早くしないと行っちゃうよ!」
「あ……はい」
すっかり乗り気になっている志織に驚きながらも、武道は龍宮寺たちの後を追った。
「どこに向かってるんだろう。めっちゃ気になる」
「志織さん、なんかすげえ楽しんでますね」
尾行を開始して、どれくらい経っただろうか。
万次郎を背負った龍宮寺は、とある病院の前で立ち止まった。
龍宮寺は万次郎を連れて、今回の抗争のきっかけとなる、林田の親友の恋人が入院している病院へとやって来たのだ。
「頭七針縫って歯ぁ折れて、左目網膜剥離。体中打撲で肋骨折れて、五日間意識戻んねーって」
あまりの悲惨な有り様に、物陰から覗いていた志織も武道も、思わず顔をしかめた。
病室のベッドに横たわったまま、いくつもの管に繋がれたその姿は、とても痛々しい。
「何しに来たんだお前ら!娘をこんな目に遭わせてのうのうと顔出しやがって!」
そこへやって来たのは、今万次郎と龍宮寺の目の前で眠っている彼女の両親だった。
龍宮寺は両親に向かって頭を下げるが、娘を傷つけられたやり場のない怒りをぶつけるかのように、父親は罵声を浴びせ続けた。
それでも龍宮寺は顔を上げず、反抗する万次郎にも頭を下げさせ、謝罪の言葉を口にした。
汚い言葉で罵っていた父親もやがて、その拳を震わせながら涙を流し、帰ってくれと言ってその場を去っていった。
「これから愛美愛主とモメる。俺らの世界は俺らの中だけで片付ける。ウチのメンバーはみんな家族もいるし大事な人もいる。マイキーにも志織がいるだろ。一般人に被害出しちゃダメだ。周りの奴泣かしちゃダメだ。下げる頭持ってなくてもいい。人を想う"心"は持て」
「……ケンチンは優しいな…ごめん、ケンチン。俺、ケンチンが隣にいてくれてよかった」
二人のやり取りを見て、聞いて、武道は思った。
龍宮寺は、万次郎の心の足りないモノを補っている。
やっぱり、この二人に内部抗争はあり得ない。
龍宮寺の死によって、なぜ万次郎が変わったのか。
なぜ、現在の東卍が極悪になったのか。
それが、少し分かった気がしたのだ。
龍宮寺が死ぬ8月3日まで、後2週間。
武道はそれまでに、愛美愛主の事を徹底的に調べる決意を固めた。
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