【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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遡る事、2年。
中学一年の6月の、ある日の事だった。
万次郎はこの日、後の東卍創設メンバーとなる5人と会う事になっていた。
「マイキー、みんな神社に集めた?」
「うん。それより新しい中学どう?」
「んー暇!気合い入った奴もいねぇし」
「お前らと同じ中学のままだったらなー。暇させねぇよ?」
場地が運転するバイクの後ろで、万次郎は楽しそうに笑っていた。
「つーかいいなー、単車。これゴキだろ?」
「おう!ぶっ壊れて捨ててあったのを地道に直したんだ。俺のゴキが東京一だ」
場地は、自慢気にそう言った。
そこへ後ろから龍宮寺がやって来て、場地の愛機自慢に張り合ってきた。
「は?東京一?俺のゼファーは日本一だけど?」
「オイオイオイオイ、日本一とか聞き捨てならねぇなぁ。俺のインパルスは世界一だぞ?」
「はいはいはいはい、重力圏内で争うなよ。俺のケッチは宇宙一だコラ」
そこへ次々と愛機自慢たちが集まり、それぞれが自由気ままに愛機自慢をしていく。
だがマイキーは興味がないようで、やってきた睡魔にそのまま身を任せて寝入ってしまった。
今は、場地の愛機の後ろに乗っているというのに。
「お?毛ぇ生えたてのコゾー共が!」
「あ?テメェもな?」
「は?俺は小5からボーボーだ?」
「ん!?燃やしてチリチリにしたろーか」
そこへ最後の一人、林田が現れ、愛機自慢は更にヒートアップした。
「世界とか宇宙とか分かんねーけどさー、くだらねー事言ってないでさー、武蔵神社まで競争な? 」
林田はそう言うと、一足先に愛機を発信させた。
「待て!ずりぃぞパー!」
「テメーが正論言うなコラ!」
「上等だコラ!」
「ビリが罰ゲームな!?」
そこで場地はようやく、万次郎が後ろで眠っている事に気付いた。
万次郎を落とさないように慎重に走ったせいで、この競争の最下位は場地となってしまった。
場地は武蔵神社に着いて駐車場に愛機を停めると、万次郎を背負って境内までの長い階段を上っていく。
「やっと着いたー」
「ハイ、ビリ」
「おっそ」
他の4人は待ちくたびれていたようで、龍宮寺と林田に至ってはサッカーをして遊んでいた。
「しょうがねぇだろ!?コイツ爆睡してんだぞ!?ずーっと」
「ハイ、言い訳ー!」
「見苦しーぜ」
そんな口喧嘩をしていると、場地に背負われて眠っていた万次郎がようやく目を覚ました。
「ん?着いた?」
「みんなに話ってなんだよ、マイキー」
万次郎は場地の背中から降りて適当な場所に腰をかけると、静かに話し始めた。
「黒龍ってチーム、知ってる?」
万次郎の言葉に、羽宮が小さく反応を見せる。
「メチャクチャひでぇ奴らって噂は聞くよ。3コ上だっけ?」
「うん。なんで相談しねーんだよ、一虎」
「!」
「場地に聞いたよ。黒龍と一人でやり合ってんだろ?」
万次郎が羽宮にそう問いかけると、羽宮は罰が悪そうな表情を浮かべて俯いた。
「え?一虎が黒龍と?」
「確かに一虎の地元って黒龍の縄張りか……」
「なるほどね、黒龍とやり合う気か?マイキー」
「そっ」
万次郎は返事をし、その場に立ち上がった。
「黒龍はデケェ族だ。やるからには大義名分が欲しい」
「俺に案がある。俺らでチームを作るんだ」
「……え?チーム?」
「俺らで?」
「ああ」
戸惑っている者もいたが、龍宮寺は場地の提案に乗り気だった。
「へー!面白そうじゃん!」
「それぞれの役割も決めてある!総長は天上天下唯我独尊男マイキー!副総長は頼れる兄貴肌ドラケン!みんなのまとめ役三ツ谷は親衛隊を任せる!旗持ちは力自慢のパーちん!俺とお前は特攻隊だ!一虎!」
楽しそうな笑顔で、場地は全員の役割を発表していった。
けれど一虎の表情は、少し曇っているように見えた。
「……でも、いいのかな。そんな簡単に……」
「チーム名も、もう決めたし」
「え!?決まったの!?」
場地は嬉々として、万次郎にそう問いかけた。
万次郎は自信満々な表情で、チーム名を発表する。
「東京万次郎會だ!」
だが万次郎の命名は、満場一致でダサいと却下されてしまった。
「まぁ名前はともかく、チーム作るってのは賛成だ」
「ん?ケンチン?」
「ああ、チームがあれば6人で喧嘩する意味があるし。名前はともかく」
「ヒドイッ」
「チームかぁ、ドキドキすんなー。名前はともかく」
「……テメェら」
「これで決まりだな!俺らの全てをお前に預ける。時代を創れ、マイキー」
「……おう!」
万次郎は場地の言葉に、満面の笑みで答えた。
「どんなチームにしたい?」
今度は万次郎の問いに、場地が答えた。
「うーん、そうだなぁ。……一人一人がみんなの為に命を張れる、そんなチームにしたい」
「うん!」
場地のその答えは、全員の心にストンと落ちたようだった。
万次郎も他の4人も、その口元に小さな微笑みを浮かべていた。
「記念に、みんなでお守り買おーぜ!」
こうして購入したお守りは、その日から6人の宝物になった。
万次郎は手に持ったお守りを、大切そうに見つめていた。
「これがその……結成記念のお守りだ」
話を聞いていた武道の目から、静かに涙が流れる。
「東卍を創ったのは俺じゃない……場地だ。"誰かが傷ついたらみんなで守る""一人一人がみんなを守るチームにしたい"……そうやってできたチームだったな」
かけがえのない記憶を思い出した万次郎の目からは、涙が溢れていた。
龍宮寺も三ツ谷も松野も、そして羽宮も、皆涙を流しながら万次郎の話を聞いていた。
「場地くんはずっと一人で戦ってたんスね……その日の約束を守る為に……」
「場地……っ」
万次郎は場地の元へ歩み寄ると、涙を流しながら謝罪の言葉を口にした。
志織はそんな万次郎を、泣きながら見守っていた。
「ごめんな……場地」
その時、どこからかパトカーと救急車のサイレンが聞こえ始めた。
「サツだ」
「帰んぞ、お前ら」
「解散だ!はけろはけろ!」
東卍と芭流覇羅の決戦を見物しに訪れていたギャラリーたちは、足早に廃車場を後にした。
それを尻目に、羽宮はフラフラと立ち上がり言った。
「俺は場地と残る。みんな行ってくれ」
「一虎くん……」
「俺の起こした事だ。自分でケジメをつけたい」
俯いたままそう言う羽宮に、万次郎は分かったと答えて踵を返した。
そして座り込む志織の元へ行くと、優しく声をかけた。
「志織、大丈夫?立てる?」
「うん」
「俺の肩使っていいから。ゆっくりな」
「ありがとう、万次郎」
「東卍も、ここで解散だ!」
「ウッス!」
志織を支えながら歩く万次郎の背中に、羽宮は静かに声をかけた。
「マイキー……」
万次郎は振り返る事も返事をする事もなかったが、歩みを止めてその場に立ち止まった。
そんな万次郎の背中を真っ直ぐ見つめながら、羽宮は言った。
羽宮の耳についた鈴が、リンと音を立てる。
「許してくれなんて言えねえ。真一郎くんの事も、場地の事も、一生背負って生きていく」
「……」
「それと、志織……巻き込んで、ごめんな」
「……」
志織も万次郎と同じく、振り返る事も言葉を返す事もしなかった。
けれど志織は、小さく首を縦に振り、羽宮の謝罪に応えた。
羽宮は去っていく万次郎やかつての仲間たちに向かって、深く頭を下げた。
それから羽宮は、誰もいなくなってすっかり静まり返った廃車場で、場地と共に警察の到着を待った。
そして駆け付けた警察官に取り押さえられ、羽宮は逮捕された。
2005年10月31日、東京卍會150人VS芭流覇羅300人。
この類を見ない大抗争は、東京卍會の勝利。
そして、死者1名と逮捕者1名を出すという、悲惨な結果に終わった。
この大抗争は後に、"血のハロウィン"と呼ばれる事となる。
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