【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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地面に倒れた場地の身体を、松野が抱き起こす。
志織はよろよろと場地の元へと歩み寄り、力なく座り込んだ。
「場地さんっなんで……っ!?」
羽宮はふらつく身体で、立ち尽くす万次郎へ近付くと、狂気に満ちた笑みを浮かべ言った。
「次はテメーだ。仲良く逝かせてやるよ」
「黙れ。殴り殺してやる」
「……場地くん……なんでだよ?分かんねぇよ……何の為に……自分で自分を刺したりなんか……!?」
「タケミチ……もっと近くに……」
武道は言われるまま、場地へ近付きその場に膝を付いた。
「稀咲は、敵だ」
「!」
「それに気付いたのは、パーが長内を刺した事件。パーを出所させる代わりに参番隊隊長に任命してくれ、稀咲がマイキーにそう持ち掛けるのを偶然見ちまった……。参番隊隊長は…稀咲じゃねぇ!東卍は俺ら6人で立ち上げた」
場地のその言葉を聞いた瞬間、武道の心臓が大きく脈打った。
「どんな理由があっても、参番隊隊長はパーだけなんだ」
「場地さん……」
「パーちん、三ツ谷、ドラケン、マイキー、一虎……あいつらは、俺の宝だ」
場地の目から、涙が溢れ落ちる。
武道も松野も、ボロボロと涙を溢して泣いていた。
「俺が一人でなんとかしたかった。でも、まぁ……無理そうだ」
場地は目を閉じて、そう言った。
そして再び、場地は目を開いて言った。
「俺は……自分で死んだ。マイキーが一虎を殺す理由はねぇ……」
その時場地の目に映ったのは、万次郎の兄である真一郎だった。
「……いよいよだな……幻覚まで見えて来やがった」
「え?」
「タケミチ、お前はどこか真一郎くんに似てる。マイキーを……東卍を……お前に託す!」
「ダメだよ場地くん。そんな事言わないで!」
「それと、志織……」
「何……?」
「お前まで巻き込んで、悪ぃ……」
志織は場地のその言葉に、首を何度も横に振った。
「マイキーとお前の結婚式で、思う存分茶化してやろうと思ってたけど……無理そうだな……」
「場地……嫌だ……場地……」
「お前らは、ずっと一緒にいろよ……?」
志織の頬に、幾筋もの涙が流れ落ちる。
何度も嗚咽を繰り返しながら、志織は泣きじゃくった。
「……千冬ぅ」
「ハイ」
「ペヤング、食いてぇな」
「……買ってきますよ」
「半分こ、な?」
松野の目から、決壊したように涙が溢れ出す。
場地は松野の顔を見上げながら、最期に笑ってこう言った。
「ありがとな、千冬……」
「………………場地さん?」
場地はもう、返事をしなかった。
松野の呼吸が浅くなって、涙が溢れ出す。
松野は動かなくなった場地の身体を、グッと抱き寄せた。
「……嘘だ……場地さぁぁぁぁぁぁん!!!」
松野の泣き声が悲しく響き渡る中、万次郎は怒りに任せて羽宮を殴り続けた。
「殺す!殺す!」
「万次郎……もうやめて……万次郎……!」
志織は力の入らない脚に鞭を打って立ち上がり、万次郎を止めようと歩き出す。
「……タケミっち、やっぱり場地さんは東卍を裏切ってなんかなかった……。一人で戦ってたんだ!俺はそれを分かってたのに……」
松野の肩は、小さく震えていた。
「守れなかった!救えなかった!あ"あ"あ"あ"あ"!!」
松野の泣き声を聞きながら、武道はその目を固く閉じた。
何が起きるのか分かっていながら救えなかった自分の無力さに、武道は何度も何度も自分を責めた。
けれど最期に場地が言った言葉が、折れ掛けた武道の心を救い、背中を押した。
武道は羽宮を殴り続ける万次郎の前に、決死の覚悟で立ちはだかった。
「どけ……テメェも殺すぞ」
「もうやめましょう!マイキーくん!」
けれど、万次郎は止まらなかった。
万次郎の鋭い拳が、今度は武道に容赦なく降り注ぐ。
「万次郎……!やめて……!」
「場地くんはこんな事、望んでねぇよ!」
「テメェが場地を語んじゃねぇよ」
万次郎が武道を蹴り飛ばすと、武道の身体は地面へ叩き付けられる。
その時、志織が泣きながら万次郎の腕にしがみつき、万次郎を止めた。
「志織……?」
「やめて万次郎……もうやめよう?」
「大丈夫、すぐ終わるから……」
二人のそんなやり取りを見ながら、武道はありったけの声で叫んだ。
「場地を語んな?死んじまったんだぞ場地くんは!なんで分かんねぇんだよ!」
そしてふらつく身体を起こして、武道は制服の上着を脱ぎ捨てた。
するとその内ポケットから何かが飛び出し、そのまま地面へと落ちた。
「場地くんが何の為に、死んだと思ってんだよ!?二人の……東卍の為だろ!?場地くんは一虎くんに殺されるんじゃなくて、自決する事を選んだんだ!場地くんは一虎くんに、負い目を感じてほしくなかったから!マイキーくんに、一虎くんを許してほしかったから!みんなが大好きだからその決断をしたんだって、なんで分かんねぇんだよ!もうやめようマイキーくん!志織さんだって泣いてるよ!?」
武道のその言葉に、万次郎は志織を見た。
そこには、涙と鼻水と血でぐしゃぐしゃになった顔で、必死に自身の腕にしがみ付く恋人の姿があった。
「志織……」
「万次郎……万次郎……っ」
「ごめん、志織……」
志織は答える代わりに、万次郎の腕を抱き締める手に少しだけ力を込めた。
万次郎は志織の反応に一つ息を吐くと、そのまましゃがみ込んで地面に落ちたお守りをその手で拾い上げた。
「タケミっち、このお守りを……どこで……?」
武道は乱暴に腕で涙を拭うと、万次郎のその問いに答えた。
「……集会の時、神社で拾ったんですよ……」
「お守り……?」
「それって……」
「場地……ずっと持ってたのか……?あの日のお守りだ……」
「場地……」
──俺らの全てをお前に預ける。時代を創れ、マイキー。
あの日の記憶が蘇り、万次郎の瞳に少しずつ光が宿っていく。
万次郎や他の創設メンバーたちも、このお守りを買った日を忘れた事はないだろう。
そのくらい6人にとって、このお守りは大切で、かけがえのない宝物だった。
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