【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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開始早々、龍宮寺の鋭くて重たい拳が、半間に打ち込まれる。
半間は寸でのところでガードしたが、その勢いのまま後ろへ吹き飛び、廃材の山へ身体ごと突っ込んだ。
「まだまだだぞ、半間ぁー」
「ハハ、ダリィ……。ガードしててこれかよ」
龍宮寺のあまりの強さに、武道も開いた口が塞がらない。
反則級のパワーに、驚かされるばかりだ。
そして反対側にある廃車の山では、逃げ回る羽宮を万次郎が追いかけていた。
足場の悪い廃車の山を、二人は難なく登っていく。
「一虎ぁ!逃げ回るだけかぁ!?」
すると突然廃車の影から人が飛び出し、万次郎に不意打ちの蹴りを食らわせた。
万次郎は咄嗟に腕でガードをし、衝撃をうまく往なして着地した。
その時、肩にかかっていた万次郎の特攻服が地面に落ちる。
「どーしたマイキー!?膝なんてついてよぉ」
「スゲェ、不意打ちなのにガードしたぞ?」
「気を付けろチョンボ。やっぱこいつ強ぇーし」
「一虎テメェ、タイマンも張れねぇのか?」
「タイマン?誰がそんな約束したよ?コイツらはテメー用に用意した、俺のいた年少で最強だった喧嘩のエキスパートだ」
「よーく観察したぞぉマイキー」
「強ぇー奴なんて大概、噂だけだろ」
「そして、俺はお前を殺る為にもう一人、スペシャルゲストを用意した。オイ、連れてこい」
羽宮がそう言うと、廃車の山の反対側から二つの人影が現れた。
その先にいた人物を見て、万次郎は目を見開いた。
「志織……!?」
「万次郎……っごめん……!」
志織は手足をロープで縛られ、髪を鷲掴みにされた状態で、無理やり歩かされている。
そして逃げられないよう、志織はてっぺんにある廃車の窓枠に、ロープでくくりつけられた。
「オイ!志織を離せ!」
「ハハ!いい顔だなァマイキー!」
「一虎テメェ、志織まで巻き込んでどういうつもりだ……!?」
「どういうつもりって、さっきも言ったろ?テメーを殺る為だって。あいつを人質に取ればテメーは満足に動けなくなる。そうすれば確実にテメーを殺れるだろ?」
「一虎、テメェそこまでクズになっちまったのかよ」
「言ったろ?どんな手を使ってでもテメーを殺すってよ」
狂気に満ちた羽宮の目が、真っ直ぐに万次郎を睨み付ける。
羽宮は万次郎を睨み付けたまま、続けて言った。
「それにしてもこの女も馬鹿だよなぁ。場地が東卍に戻る後押しをしてやるって、ちょっと餌ぶら下げたらホイホイ付いて来やがってさ」
「は……?」
「場地は東卍に戻る気なんてねえってよ。つまり俺の後押しなんてちっとも意味ねぇって事だ。残念だったなぁ志織」
羽宮はそう言うと、手に持っていた鉄パイプで志織の頬を撫でた。
万次郎の目に、みるみる怒りが滲んでいく。
「オイ!!志織に触んな!」
「万次郎、ごめん……っ」
「志織、もう謝んな。お前は悪くねぇ」
そんな二人のやり取りを見て、一虎は突然不気味な笑い声を上げた。
まるでそれは、志織と万次郎を嘲笑うかのような、そんな不気味な笑い声だった。
「あーあ。そんなにマイキーが大事か。そんなに志織が大事か。もしかしてこれ純愛ってやつ?あーマジで反吐が出る」
「オイ、いい加減にしろ一虎」
「志織~、その特等席で見せてやるよ。マイキーがくたばる様をなァ」
するとその言葉が合図かのように、チョンボとチョメが一斉に動き出す。
「行くぜマイキー!」
万次郎は襲い掛かる二人の攻撃を受けながら、反撃のチャンスを伺う。
「!チョンボ離れろ!」
その瞬間、万次郎の鋭い蹴りが繰り出される。
間一髪のところで避けられた蹴りは、そのままフロントグリルを突き破り、ボンネットをぐちゃぐちゃに破壊した。
あまりの破壊力に、思わず背筋が凍る。
「危っぶね!」
「ちっ、ちょこまかと」
「コイツはホンモノだぁ……」
「おいおい、こっちには人質がいるんだぞ?そんな事していいのか?」
「クソッ……」
「万次郎!私の事は気にしないで!大丈夫だから!」
万次郎の目に、今にも泣き出しそうな志織の姿が映る。
志織に危害を加えさせずにこの場を切り抜けるには、一瞬で片付けるしかない。
けれど羽宮は、余裕そうな笑みを浮かべながら万次郎に問いかけた。
「なんでテメーをここに誘い込んだと思う?マイキー」
「!」
「この足場の悪さじゃあ、テメーの自慢の核弾頭みてーな蹴りもうまくキマんねぇだろ!?」
万次郎の一瞬の隙をついて、背後から飛び蹴りを食らわせる。
それは背中を直撃し、その衝撃で万次郎の身体がふらついた。
「万次郎!」
「こっからが本番だぞ!?」
二人がかりで襲ってくる攻撃を受けながら、万次郎は応戦を続ける。
万次郎の圧倒的な強さに、二人は心底驚いている様子だった。
「アレ!?2対1でコレかよ!」
「コイツ、マジすげぇな!でもっ」
すると二人は、万次郎の身体や腰にしがみついた。
まるでそれは、万次郎の動きを封じているようにも見える。
「万次郎!危ない!」
「とったぁ!!」
万次郎の背後から羽宮が飛びかかり、持っていた鉄パイプを万次郎の頭めがけて、思いっきり振り抜いた。
ゴキッという鈍い音が、辺りに響く。
「万次郎ぉぉ!!」
志織の目からは、決壊したように涙が溢れ出す。
万次郎の元へ駆け寄ろうとするが、縛られている手と足がそれを阻んだ。
下で戦っていた龍宮寺や三ツ谷、松野、そして武道もその事態に気付いて廃車の山のてっぺんを見上げる。
「マイキー!!!」
「マイキーくん!!」
「俺らの勝ちだ」
廃車の山の上で昏倒する万次郎を見下ろしながら、羽宮はそう言った。
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