【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
苦しいほどに、呼吸が乱れる。
口の中が切れて、血の味がする。
そんな武道の視界に映ったのは、対峙する万次郎と羽宮の姿だった。
ついつい視線を奪われてしまい隙が生まれた武道に、芭流覇羅メンバーの一人が襲い掛かる。
「よそ見してんじゃねぇぞコラァァ!!」
その拳は、武道の顔面を打った。
衝撃に堪えきれず、武道の身体は地面に転がる。
そこへ追い討ちをかけるように、今度は蹴りを食らわせようとしているのが見えた。
やられると思った武道は、咄嗟に腕で頭を隠した。
けれど、いつまで経っても衝撃は来ない。
恐る恐る目を開けて見ると、武道の前に立っていたのは三ツ谷だった。
どうやら、三ツ谷が助けに入ってくれたらしい。
「立て!タケミっち!」
「三ツ谷くん!助かったっス!」
武道は差し出された三ツ谷の左手を、ガッシリと掴んだ。
けれど三ツ谷はそのまま武道の胸ぐらを掴み、武道を叱責した。
「バカヤロウ!」
「い!?」
「テメーここに何しに来たんだ!?今ぁ俺ら喧嘩してんだぞ?」
そうしている間にも、敵は待ってくれない。
武道と三ツ谷に殴りかかって来ようとする敵を相手しながら、三ツ谷は続けた。
「おらあぁ!」
「テメーも弐番隊の一員だろうが!」
「!!」
「よそ見してんじゃねーぞ!」
三ツ谷の鋭い拳が、相手の顔面にめり込む。
三ツ谷の拳を食らった敵は、たまらず卒倒した。
そして武道も、三ツ谷の言葉に殴られたような気分だった。
ここでやられてしまっては、場地を守る事なんて絶対に出来ない。
まずは目の前の敵に、集中しなければ。
けれど武道の前に立ちはだかったのは、武道よりもずっと体格の良い二人。
圧倒的に不利なこの状況に、武道はその目に涙を滲ませる。
絶対にやられる、武道が諦めかけたその時、背後から声が聞こえた。
「ビビってんのか?正面の敵だけ見てろ。相棒」
「!!……千冬……!!」
「背中は俺が守ってやる!喧嘩にビビんねぇ奴なんていねぇよ。大事なのはさぁ、どう向き合うかだ!」
松野の言葉に武道が思い浮かべたのは、現代で見た日向の最期の姿。
武道は、ぐっと拳を握りしめた。
「おらぁぁぁ!」
「だあああああ!」
そして、その拳で襲い掛かってきた敵を殴った。
「やってやるぞバカヤロー!」
「シシ!」
松野の言葉に奮い立った武道は、そこから大健闘を見せた。
殴られても即座に殴り返し、一人ずつ着実に敵を沈めていく。
武道は、ここを乗り越えなければならないから。
乗り越えてあの最悪な未来を、変えなければならないから。
けれど他の場所では、東卍が芭流覇羅に押され始めていた。
「三ツ谷!大丈夫か!?」
「ウッス」
「敵が多すぎる」
「確かに東卍150人に芭流覇羅300人だけでも不利なのに、相手の方が歳も上でパワーが違ぇ。幹部だけが押してても下の奴らが押され気味だ」
その時龍宮寺の背後に東卍メンバーが一人、叫び声を上げながら倒れ込む。
「やめろよ!もう無理だ!」
「うっせぇ死ねやぁあ!」
龍宮寺は即座に目の前の敵を殴り、助けに入った。
「ドラケン!」
「しっかりしろや。パニくってたら勝てるもんも勝てねぇぞ!?」
「……くそっ、俺だってなんとかしてぇよ。でも俺らじゃあ、マイキーやドラケンみたくなれねぇよ。すまねぇ……」
そう言って、肩を震わせながらその場に蹲ってしまった。
「……お前らは俺が守る!」
「どーしたドラケン!早くかかって来いや!」
龍宮寺の後ろには、弱音や泣き言を言いながら地面に倒れ込む東卍メンバーが、何人もいた。
「やべぇな、気持ちで負けて来てる」
龍宮寺の目の前には敵がゾロゾロと群がり、半間までの道を塞ぐ。
龍宮寺は思わず笑いを溢しながら、こう言った。
「大将が遠いぜ」
「うぉらあああ!!」
その時龍宮寺の耳に入ってきたのは、武道の雄叫びだった。
声のする方を見ると、武道は腕を振り回しながら、敵を目掛けて突き進んでいる。
「かかってこいやテメーら!」
「……タケミっち!?」
血と涙で顔はぐしゃぐしゃなのに、その目にはまだ戦意が宿っている。
足元がふらついて倒れそうになっても、口が回らなくなっても、武道は決して倒れなかった。
「ぜってー倒りぇねーじょ……。この抗争は俺が終わりゃすんだよ……」
武道のその姿に、周りにいた者は釘付けになった。
「俺が全員、ぶっ飛ばす!!」
だがついに張り詰めていた武道の意識が途切れ、その身体は地面へ向かって傾いていく。
それを受け止めて支えたのは、三ツ谷だった。
「やるじゃん、タケミっち」
そんな武道の姿に心を打たれた東卍のメンバーたちは、痛む身体に鞭を打って再びその場に立ち上がった。
「くそっ情けねー」
「何弱音吐いてんだ?俺ら」
「倍いようが関係ねぇ!」
「おう!やってやらぁ!」
「東卍の底力見しちゃるぞ!」
そして再び立ち上がった者たちは、もう一度目の前の敵に立ち向かい始めた。
「ドラケン、もー平気だよ」
「こいつらを守る必要なんてなかったな。攻めあるのみ!」
意識を取り戻した武道は状況を飲み込めていなかったが、武道が士気を高めた事に間違いはない。
龍宮寺は笑みを浮かべ、武道に声をかけた。
「目ぇ覚めたぜ、タケミっち」
「ほぇ?」
「行くぞ半間ぁぁ」
「ドラケンに心配さすんじゃねぇぞお前らぁ」
「おおお!」
「見てろよ、タケミっち」
「え?」
「有利になるぞ」
三ツ谷のその言葉に、武道は不思議そうな表情を浮かべて問いかけた。
「え、なんで…?」
「お前があいつらを奮い立たせた。おかげでドラケンが自由に動ける」
「どけぇえ!」
龍宮寺は目の間の敵を、一気に10人蹴散らした。
「あいつは一人で戦況を変える!」
龍宮寺は凄まじい勢いで、次々と目の前の敵を薙ぎ倒して行った。
東卍のNo.2である龍宮寺堅の実力を目の当たりにした芭流覇羅メンバーたちは狼狽え、頬に冷や汗を流しながら後ずさった。
「待たせたなぁ、半間ぁ」
「オイオイ大丈夫かぁー?もー疲れ果てちまってんじゃねーのかぁ?」
「今ぁ、準備運動が終わったトコだ」
龍宮寺のあまりの強さに、武道の口からは感嘆の声が漏れる。
「行くぞぉぉぉ半間ぁぁぁ!」
「来いやドラケン!」
こうして遂に龍宮寺対半間の戦いが、幕を開けた。
.