【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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決戦当日。
この日、廃車場には不良たちが大勢集まっていた。
そんなただならぬ雰囲気に、武道は思わず驚きの声を上げた。
「え!?何この人たち!?」
「みんなギャラリーだよ。東卍VS芭流覇羅、今日の抗争の勝者が東京のトップに一歩近付く。東京中の顔役みてぇな不良がみんな注目してるんだよ」
「確かに…ヤバそうな奴ばっかだ」
東卍に入って初めて抗争に参加する武道は、物珍しさも相まってキョロキョロと周りを見回していた。
「例えばあそこの二人組」
「ん?」
「灰谷兄弟。一声かけりゃあ100人以上が集まる、六本木のカリスマ兄弟」
「100人……?」
「で、あそこのデブ、車の上の。上野仕切ってるガリマン。バケモンみてぇに強ぇーらしい」
他にも東京では有名な不良たちがこの決戦を見物しにやって来ていて、武道は思わず呆然としながらギャラリーを見渡した。
「ははー!お祭りだなぁ!東卍と芭流覇羅がなんぼのもんじゃい!」
「ん?」
突然聞き慣れない声が聞こえ、武道と松野はそちらに視線を向ける。
その先には、胸元に"ICBM"と刺繍が入った特攻服を身に纏う男がいた。
「俺が今日の喧嘩の仕切りを任されてる、池袋クリミナルブラックメンバーズの阪泉だ!」
「S63の大物!あいつが今日の仕切りだ」
「仕切り?」
「レフェリーみてぇなモンだよ。阪泉も灰谷兄弟もガリマンも、今日は大人しくしてっけど、本来東卍ともバチバチのやべぇ奴らだ」
松野はそう言うが、武道には本当にこのギャラリーたちが大人しくしているのか、半信半疑だった。
そうこうしているうちに、仕切りである阪泉が、高らかに声を上げた。
「準備はいいかー!?主役共のぉ!登場だぁ!!」
阪泉の声と共に、東卍と芭流覇羅のメンバーたちが次々と、廃車場へ足を踏み入れる。
武道の目に、万次郎の姿が映った。
「俺らも行くぞ、タケミっち」
「……うん!」
万次郎は落ち着いた様子で、真っ直ぐ目の前を見つめていた。
無敵のマイキーの登場に、ギャラリーたちも思わず息を呑む。
「阪泉くん!まずは今日の仕切り引き受けてくれて、ありがとうございます」
「ハン!下らねぇ喧嘩なら俺が潰すぞぉー」
「両チームの代表者、前に!」
東卍からは龍宮寺、芭流覇羅からは羽宮が、代表者として前に出た。
どちらも、相手を真っ直ぐに睨み付けている。
空気が張り詰めていくのを、ここにいる全員が感じていた。
「腕に自信ある奴5対5のタイマン、それとも全員で乱戦。どっちにするぅ?」
阪泉の問いかけの後、最初に口を開いたのは龍宮寺だった。
「芭流覇羅の売ってきた喧嘩だ。そっちが決めろや一虎」
「あん?」
「俺らの条件はただ一つ、場地圭介の奪還!東卍が勝利した暁には、場地を返してもらう。それだけだ!」
「は?場地は自分でウチに来たんだぞ?返すも何もねーだろーが!」
羽宮は口角を上げてそう言い返すが、その目には怒りが滲んでいた。
けれど龍宮寺は全く怯む事なく、もう一度自分たちが要求する条件を口にした。
「場地を返してもらう!それだけだ!」
そんな龍宮寺の様子を見て、羽宮は怒りを露にした。
「テメー…上等じゃねーかよ」
「オイ、ここで争う気かー?」
今にも暴れ出しそうな羽宮を止めようと、阪泉が割って入った。
けれど羽宮は、容赦なく阪泉に拳を叩き付けた。
突然の事に龍宮寺も武道も驚きの表情を見せたが、羽宮は阪泉の腹部をも殴り付けた。
羽宮の重たい拳を食らい、阪泉は苦しそうな呻き声を上げながら地面に倒れた。
「ヌリぃ~~なぁ……。仕切り?条件?テメーらママゴトしに来たのか?俺らは東卍を嬲り殺しに来たんだよ!」
「おっぱじめるか!?マイキー!」
それが開戦の合図となり、東卍も芭流覇羅も相手に向かって駆け出した。
戦いの火蓋は、とうとう切られた。
もう引き返せない程に、ボルテージが上がっていく。
「行くぞ東卍!」
突如として始まってしまった乱戦に、武道は戸惑っていた。
この人混みで、あっという間に場地の居場所が分からなくなってしまったのだ。
一刻も早く場地を探し出さなければならないのに、芭流覇羅のメンバーが武道に容赦なく襲い掛かる。
そして羽宮もまた、万次郎に狙いを定め殴りかかってきた。
「マイキー!死ねコラァァ!」
けれど羽宮の拳は、龍宮寺に受け止められてしまう。
「テメーがマイキーに手ぇ出すなんて、100年早ぇんだよ!」
「ドラケン!」
すると今度は、龍宮寺の背後から半間が現れ、蹴りを食らわせる。
龍宮寺は咄嗟に腕で受けたが、体格の良い半間の蹴りは重い。
「っ!」
「ヒャハ!テメーの相手は俺だ、ドラケン!」
「上等だよ半間ぁぁ」
「マイキーはテメェに任せたぞ!一虎!」
抗争が開始して早々、半間対龍宮寺、そして羽宮対万次郎という構図が出来上がった。
「楽しませろよぉー、副総長」
「久しぶりに本気になれそうだ」
「マイキィィ!この日をずぅぅぅっと待ってたぜ!」
「手加減しねぇぞ、一虎」
そしてこの戦いは、次第に様々なもの巻き込んでいく事となる。
血と涙に塗れた決戦は、まだ始まったばかり。
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