【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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決戦前日の朝、武道は松野に連れられ、ある場所に向かっていた。
目的地へ到着すると、そこにいたのは場地だった。
「急に呼び出してすいません」
「場地くん!?」
場地は不敵な笑みを浮かべて、松野に言った。
「千冬ぅー、殴られ足んねーの?」
けれど松野は神妙な面持ちで、いきなり核心を付く質問を場地にぶつけた。
「稀咲のシッポ、掴めました?」
「あン?」
「東卍の為に、スパイやってんスよね?」
それに対して場地が答える事はなかったが、ピクッと微かに反応を見せた。
松野はそれに構わず、話を続ける。
「俺なりに調べて、稀咲がやべぇ奴だって分かりました。もう芭流覇羅にいる必要ないっスよ!」
「何言ってんだ、テメー?」
「明日になったら…抗争始まっちまったら…場地さん、本当に東卍の敵になっちゃいますよ!?」
松野は必死に、場地を説得した。
けれど松野の言葉は、場地には届かない。
「……千冬……いつも口酸っぱくして教えてきたろー?仲間以外信用すんなってよぉー。俺は芭流覇羅だ。明日東卍を潰す!」
松野はとうとう、言葉を失ってしまった。
けれど次に口を開いたのは、隣にいた武道だった。
「千冬…場地くんと二人で話してもいいか?」
松野は不思議そうにしていたが、武道の頼みを受け入れてくれた。
そして少し離れた場所から、松野は二人の姿を見守っていた。
「おい、テメーと二人で話す事なんてねーぞ?」
「俺には場地くんが何がしたいのか分かんないっス。むしろそんな事どうでもいいんです。……ただ、どうか明日を乗り切って下さい」
「は?」
場地は意味が分からないという表情で、武道を見ていた。
「どうか、死なないで。マイキーくんが、悲しむから」
「あいつは敵だ。明日俺が殺す。あいつにそう伝えろ!」
武道は涙ながらに訴えたが、場地が出した答えが変わる事はなかった。
松野や場地と別れた後、武道は一人で万次郎に会っていた。
公園にあるジャングルジムのてっぺんに座る万次郎に、場地との事を包み隠さず全て話した。
「そっか……。ガキの頃よく、このジャングルジムで場地と遊んだんだ。喧嘩ばっかしてたっけ……。なのにすぐ仲直りしてさ」
武道はそう話す万次郎の横顔を、ただ黙って見上げていた。
「……今度は、ホントにモメちゃうんだな……」
「……連れ戻せなくて、すいません」
「お前は悪くねぇよ。場地が引かねぇならしょうがねぇ。場地は、東卍を裏切った。明日は決戦。東卍の連中は戦闘モードだ。もう、腹くくったよ」
その時にはもう、幼なじみを心配する男の子の表情から、チームを仕切る総長の表情に変わっていた。
ここまで来てしまったらもう、万次郎は東卍の総長として場地と戦うしかない。
武道は思わず固唾を飲み込んで、万次郎の事を見つめていた。
▼
その日の夜。
武蔵神社では、明日の芭流覇羅との決戦に向けて、決起集会が行われていた。
「みんな、よく集まってくれた!」
万次郎が前に立っただけで、一言話しただけで、空気がピリッと張り詰める。
武道や松野も少し緊張した面持ちで、目の前に立つ万次郎を見ていた。
「明日、俺たちは芭流覇羅とぶつかる。売られた喧嘩だ、俺らに得るモノはねぇ!……そして、敵の中には場地もいる!裏切り者は容赦しねぇ!それが東卍のやり方だ!」
万次郎のその言葉を聞いて、松野は少し悲しそうに言葉を漏らした。
「もう止めらんねぇんだな……タケミっち」
武道は松野の言葉には答えず、ただ真っ直ぐに万次郎の事を見つめていた。
その時、一瞬押し黙ったかと思うと、万次郎は予想外の言葉を口にした。
「俺、ガキになっていーか?」
万次郎がそう言った瞬間、あらゆるところから間抜けな声が漏れていた。
武道や松野の口からも、思わず「は?」と声が漏れ出る。
万次郎は階段のいちばん上に座り、少し困ったように笑いながら、自身の気持ちを吐露した。
「俺、ダチとは戦えねぇ」
万次郎のこの言葉を聞いて、反応は本当にそれぞれだった。
武道や松野のように驚きの表情を見せる者、龍宮寺や三ツ谷のように笑みを溢す者、そして稀咲のように表情を変えずにただ黙って聞いている者。
万次郎は再び立ち上がり、そして声を張り上げて言った。
「それが俺の出した答えだ!みんな、力を貸してくれ!明日俺らは芭流覇羅ぶっ潰して、場地を東卍に連れ戻す!それが、俺らの決戦だ!!」
万次郎の言葉に、東卍メンバー全員が賛同し、歓声を上げた。
この光景を見て、稀咲は思わず目を丸くした。
そして、欲しかったものはこれだと、稀咲はこの時改めて確信した。
「ごめん、ケンチン。俺総長失格かな?」
「……この歓声が答えじゃね?」
尚も鳴り止まない歓声。
万次郎はそれを聞いて、口元を小さく綻ばせていた。
そして、とうとう決戦当日を迎える。
場地を連れ戻す為、東卍メンバーたちは決戦へと向かって行った。
そして、同様の目的を持った人物がもう一人。
「一虎!」
「お、志織。よかったちゃんと来てくれて」
「逃げるわけないでしょ!」
様々な想いが交差する中、時間は無情にも刻一刻と進んでいく。
戦いの火蓋が切られるまで、あと少し。
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