【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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今日は武蔵神社にて、万次郎が総長を務める東京卍會の集会が行われる日だ。
志織も万次郎に誘われ、一緒に集会へ行く事になっていた。
「今日エマは?来ないの?」
「知らねえ。来るんじゃねぇの?」
「そっか」
「あ、でも今日はタケミっちも呼ぶ予定なんだ」
「へータケミっち来るんだ」
自室で制服から特攻服に着替える万次郎とそんな会話をしながら、志織はエマにメールを打つ。
きちんとメールが送信された事を確認すると、志織は携帯を閉じてバッグの中へしまった。
そこで丁度良く万次郎も着替えを終えたようで、万次郎はバブの鍵を手にとって、行くぞと志織に声をかけた。
特攻服を身に纏った万次郎は普段よりも数段凛々しく見えて、思わず志織は見惚れてしまう。
「万次郎かっこいい。行く前にぎゅーして」
「しょーがねぇな」
志織は嬉しそうに笑って、万次郎の腕の中へ飛び込んでいく。
万次郎の首筋に頬を寄せると、嗅ぎ慣れた万次郎の匂いが志織の鼻を擽る。
自身の心臓の鼓動が微かに早まるのを、志織感じた。
「志織、ちゅーは?」
「ん、ちゅーもしたい」
そんな恋人の可愛らしいおねだりに小さく笑みを溢すと、万次郎はちゅっと音を立てて志織の唇にキスを落とす。
けれどすぐに離れてしまった唇に物足りなさを感じた志織は、自ら目の前にある形の整った唇に自身のそれを押し当てた。
心地よい感触が癖になって、いつまでもこうしていたい気持ちが溢れる。
けれど今は、ゆっくり愛を育む時間もない。
万次郎は名残惜しさを感じながらも、唇を離した。
「……そろそろ行くぞ」
「えー……」
「また帰ったらしてやるから」
「はーい」
密着していた身体を離して外へ出ると、万次郎の愛車に乗って、集会会場である武蔵神社へと向かった。
数十分程愛機を走らせ、武蔵神社へ到着すると、万次郎は龍宮寺たちと会話を交わす。
弐番隊隊長の三ツ谷に連れられ、万次郎たちの元へやって来たのは、武道と日向だった。
「ようタケミっち。悪ィな急に呼び出して」
「あれ?ヒナちゃんも一緒だったんだ!」
「あ、志織さん!こんにちは!」
「こんにちはー!」
「お前、何ヨメなんか連れて来てんだよ」
「すいません。こんなになってるなんて思ってなくて」
龍宮寺は日向に、先日万次郎と二人で武道の学校へ行った時の事を謝罪する。
そして「おい!エマ!」と、一足先に来ていたエマに声をかけた。
「この子、タケミっちのヨメだからしっかり守っとけ」
「りょーか~~い。……あ」
龍宮寺に呼ばれてやって来たエマを見るなり、武道は汗を流しながら固まった。
そんな武道に構うことなくエマは楽しそうに笑って「よっいくじなし君!」と爆弾発言を投下した。
エマのその発言に日向と龍宮寺が反応を見せ、武道に詰め寄る。
「誰の事?"いくじなし君"って」
「お前…エマと知り合いなの?」
二人のあまりの迫力に武道は目に涙を浮かべながら弁解しようとするが、更なるエマの爆弾発言により日向の怒りは頂点に達してしまう。
「エマの下着姿見たくせに逃げた、いくじなし」
「へぇーそんな事があったんですねぇー」
武道はガクガクと体を震わせながら、ブツブツと言い訳を並べていた。
けれど怒りに満ちた日向の耳に、それは届かない。
武道の目に映ったのは、どこから持ってきたのかバットを手にした、日向の姿だった。
武道は結局日向にボコボコに殴られ、頬や目を腫らしたり鼻血を流したりと、散々な目に遭ってしまう。
そして日向は「知らない!」と一言吐き捨てると、一人でさっさと帰って行ってしまった。
「怖ー」
「エマ、今の話どういう事?メールも返信ないし心配したよ」
「あ、ごめん志織ちゃん、全然携帯見てなくてメール気付かなかった。それにしてもアンタもよくあんな子いるのにウチの話に乗ったね。でも勘違いしないでね?別にアンタの事なんて何とも思ってないから」
「へ?」
「ウチはただ早く大人になりたかっただけだから」
エマはそう言って、万次郎と楽しそうに話している龍宮寺に、視線を移した。
「嫌になっちゃうよねーアイツ。ウチの事なんか興味なし!マイキーとバイクと喧嘩の事ばっかり!少しは怒るかなって思ったのに」
「だからって、そんな事しちゃダメだよエマ」
「志織ちゃんには分かんないよ。いっつもマイキーに愛されて」
エマは眉尻を下げ、頬を膨らませながらそう言った。
そんなエマに、志織も困ったような表情を浮かべ、小さな溜め息をつく。
そんな二人を呆然と眺めている武道に、龍宮寺は終わったか?と声をかけた。
武道は、慌てて龍宮寺の元へ駆け寄っていく。
「すいません。お待たせしました」
「集まれテメーら!!集会始めっぞ!!」
龍宮寺がそう声を上げると、メンバー全員が道を作り頭を下げた。
そこを万次郎、龍宮寺、そして武道が通っていく。
ちなみに志織はいつものように、エマと一緒に隅の方で集会の様子を眺めていた。
万次郎が皆の前に立つだけでガラリと変わった空気に、武道は思わず息を呑む。
「今日集まったのは"愛美愛主"の件だ。ウチとぶつかりゃでかい抗争になる」
愛美愛主とは万次郎たちよりも二つ上の世代で、新宿を仕切っている暴走族だ。
その愛美愛主の総長である長内と、東卍のメンバーである"パーちん"こと林田の親友との揉め事が、今回の抗争の発端となる。
その親友は愛美愛主のメンバーに袋叩きにされ、恋人を目の前で襲われ、更には肉親たちも吊るされて金銭を巻き上げられた。
悔しそうに唇を噛み締める林田に、万次郎はどうする?と言葉をかける。
「…相手は二つ上の世代だし、ウチもタダじゃ済まないし、みんなに迷惑かけちゃうから。でも…悔しいよマイキー」
「んな事聞いてねえよ。やんの?やんねえの?」
「やりてえよ!ぶっ殺してやりてえよ!!」
その悔しさからか、林田の目には涙が滲んでいた。
そんな林田に、万次郎は「だよな」と笑って声をかけ、立ち上がる。
「こん中にパーのダチやられてんのに迷惑だって思ってる奴いる!?パーのダチやられてんのに愛美愛主に日和ってる奴いる!?いねえよなあ!?」
東卍のメンバーたちは全員、その顔に闘志を燃やしていた。
「愛美愛主潰すぞ!!!」
万次郎の言葉に、メンバー全員が拳を掲げ、歓声を上げた。
決戦は8月3日、武蔵祭り。
東京卍會と愛美愛主の抗争が、繰り広げられる事となった。
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