【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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決戦前日。
二人で志織の作った朝食を食べた後、シャワーを浴びた万次郎は、再び一人で出掛けていった。
今日は芭流覇羅との決戦に備え決起集会がある他、武道とも会う約束をしているらしい。
その前に、バブに乗って軽く流しておきたいのだと、万次郎は言っていた。
どうか、どうか万次郎が悲しまない結果で終わってほしい。
万次郎の優しい笑顔を、これからもずっと見ていたいから。
志織はただ、それだけを望んでいた。
万次郎を見送った後、志織は万次郎の事を考えながら、朝食で使った二人分の食器洗いに取りかかった。
そして食器を洗い終えた志織は、母屋を出て万次郎の部屋へと戻っていった。
部屋へ入ると、万次郎が愛用しているくたくたのタオルケットが、ベッドの上に乱雑に置かれていた。
志織はそれを手に取り、自身の胸元でぎゅっと抱き締める。
万次郎の匂いが染み込んだそのタオルケットは、抱いているだけで志織に大きな安心感をもたらしてくれるのだ。
少し寝不足だった事もあってか、志織はその安心感に誘われて、気付けばうたた寝をしていた。
静かな室内に、志織の穏やかな寝息だけが、小さく響いている。
志織がうたた寝から覚めたのは、メールの受信を告げる着信音が枕元で鳴った時だった。
志織は手探りで携帯を探し、眠気眼のまま受信したメールを確認する。
差出人は、未登録のアドレスだった。
不審に思いながらも、志織はそのメールの内容を確認していく。
そして、メールの最後に記されていた名前を見て、志織は飛び起きた。
何故この人物からメールが来たのか、それは分からない。
けれど志織は慌てて出掛ける準備をすると、メールに記されていた場所へ一目散に向かった。
「一虎!」
志織が目的地へ着くと、そこには既に羽宮がいた。
志織にメールを送った人物、それは羽宮一虎だったのだ。
「あー志織、来てくれたんだ」
「来ない訳にはいかないでしょ?あんな事書かれてたら」
「なんか書いてたっけ?……ああ、マイキーを殺すってやつ?」
「それ以外に、何があんの?」
志織は鋭い目付きで、羽宮を睨み付ける。
万次郎は強いから、万次郎が危険な目に遭う事は早々ない。
それでも志織にとっては、到底無視出来る事ではなかった。
大切な恋人を殺すと言われて、何も思わない人間なんていないだろう。
ましてやそれを言っているのは、最愛の恋人の兄を殺した人物なのだから。
「そんな目で人の事見んなよ。マイキーの事になると熱くなんの、変わらねえなお前。そんなにマイキーが好き?」
「そんなの一虎に関係ないでしょ。いいから早く本題話して」
尚も鋭い目で羽宮を見る志織に、羽宮は一つ深い息を吐いた。
そして面倒そうな表情を浮かべて、頬をポリポリと掻きながら言った
「分かったよ、本題に入る」
「何?」
「明日の東卍との決戦、お前も来い」
「はあ?何企んでるわけ?」
羽宮の要求に、志織は酷く困惑した。
きっと羽宮は、何か企んでいるに違いない。
けれど現時点では、羽宮の目的を図る事は出来なかった。
「何を企んでるのか聞かれて、素直に答える奴はいねーだろ?でもまあ、これじゃお前に得がないのも確かだよな」
羽宮は顎に手を当てて、考える素振りを見せる。
そして暫く考え込んだ後、閉じていた目を開け、志織にある提案を持ちかけた。
「お前が決戦の場に来れば、場地が東卍に戻る為の後押しをしてやってもいい。これでどうだ?」
「それ、本気で言ってるの……?」
「本気だよ。こんなところで冗談言ってどうすんだよ」
志織は羽宮の提案を受けるべきか、決め兼ねていた。
羽宮がそう易々と約束を守るとは、志織にはどうしても思えなかったのだ。
けれど志織の脳内には、今朝万次郎が志織に言った言葉が木霊する。
羽宮の提案に乗るかどうかは、志織にとっては相当大きな賭けだ。
それでも、万次郎の望みを叶える可能性を少しでも上げるのなら。
志織はそう考え、羽宮に答えを告げた。
「分かった。明日、決戦の場に行く」
羽宮は志織が出した答えを聞くと、楽しそうな笑い声を上げた。
「そう来なくちゃな!約束通り、場地が東卍に戻る後押しはしてやるよ」
「……用はそれだけ?」
「ああ、詳しい事はまた連絡する。後になって逃げんじゃねーぞ。逃げたら……」
マイキーを殺すからな。
狂気に満ちた目で志織を見ながら、羽宮はそう言った。
羽宮が向けるその目に志織は恐怖を覚え、思わず身体を震わせる。
志織は早くその場から立ち去りたくて、羽宮に返事をすると、踵を返して来た道を戻っていった。
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