【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
何がしたい?
万次郎からそう問われた武道の脳裏に浮かぶのは、松野と初めて会った日の事だった。
「場地さんは芭流覇羅に入って、稀咲を探ろうとしてる」
「それって……芭流覇羅と稀咲は繋がってるって事ですか?」
「多分ね。場地さんが芭流覇羅内部から調べるなら、俺なりに外部から稀咲を調べてぇ」
松野は武道に、それを協力してほしいと申し出た。
「え?」
「俺がなんとかしないと…あの人すぐ一人で暴走しちゃうから」
「稀咲の事を探ってるって…場地くん本人が言ってたんスか?」
「あ?言ってねぇよ?でも、分かるんだ。あの人の考えてる事はさ。ずっと傍で見てたからな!」
松野は小さく微笑みながら、そう言った。
松野は場地の事を、心から信じているのだ。
たとえ芭流覇羅に入る為の踏み絵にされて、幾度となく殴られたとしても。
「俺のやりてぇ事はシンプルだ。場地さんの力になりてぇ。タケミっち、お前は?」
「え?」
「参番隊任命式……あんなやべえ状況で、お前は稀咲をぶん殴った」
松野はその時、万次郎が問いかけた事と全く同じ質問を、武道にぶつけていたのだ。
あの時武道は答えられなかったけれど、万次郎から同じ事を問われ、もう一度考えた。
万次郎に場地を連れ戻すように言われ、それを成し遂げれば稀咲を東卍から追い出せると考えていた。
稀咲が東卍からいなくなればあの残酷な未来が変わり、日向は救われるかもしれない。
けれどあの日、燃え盛る炎の前で誓った事は、こんな事ではなかった。
「マイキーくん、俺は……東卍のトップになりたいです!いつかマイキーくんにそれを認めさせてみせる!それが俺のしたい事です!」
そう言い切った武道を、万次郎は目を丸くして見つめていた。
武道と松野が去った後、龍宮寺は思わずハハ、と笑いを溢した。
「バカだな、あいつ」
けれど龍宮寺も万次郎も、その表情は穏やかで、口元を綻ばせていた。
それを見た志織はホッと胸を撫で下ろし、万次郎と繋いでいる手にそっと力を込めた。
「……だな」
そして、武道と共に墓地を後にした松野もまた、万次郎たちと同じ事を思っていた。
「ぶっ飛んでんな、お前。空気読めねぇとか通り越してんわ」
「……ですよね…俺もなんであんな事を……」
「…こういうのはどうだ?」
松野は武道に向かって、スッと右手を差し出した。
「お前が東卍のトップになる協力してやるから、お前は俺のやりてぇ事に協力しろ!」
「……え?それって俺が東卍のトップになれるって思ってくれてるって事ッスか?」
「1ミリも思ってない」
「やっぱり!馬鹿にしてんスか!?」
「でも、協力はする」
松野は、そう言い切った。
武道はそんな松野の様子を見て一つ息を吐くと、差し出された松野の右手をぎゅっと握り返した。
「分かりましたよ!俺も協力します!」
「よろしく頼むぜ!相棒!」
話はまとまった。
松野はその時、初めて見せる無邪気な笑顔を浮かべて、武道を見ていた。
「ちなみに俺、お前とタメだからタメ口でいいよ」
「え!?タ…タメ?もっと早く言えよ!」
「切り替えはえーな」
同い年と知り一瞬で態度を変える武道の様子を見て、松野はまた無邪気な笑顔を浮かべて笑っていた。
「まずは、芭流覇羅と稀咲の繋がりをちゃんと調べてぇ!」
「……アテは?」
後日、松野に連れられて武道がやって来たのは、小さな会社の事務所のようだった。
そこにいた人物に、武道は驚きの表情を浮かべる。
今武道たちの目の前にいるのは、かつて愛美愛主の総長を務めていた長内だったからだ。
.