【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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羽宮に芭流覇羅のアジトへ連れて行かれた翌朝、登校中の武道に何者かが声をかけた。
その人物は顔中傷だらけで目には眼帯、額には包帯を巻いている。
その姿を見た武道は明らかにヤバい奴だと思い、無視をしようと足を進めた。
けれどその男が放った言葉に、武道は思わずその足を止めた。
「昨日はお互い、災難だったな」
「え……?昨日?」
「場地さん、カッケーだろ?」
「……場地くんのお友達?」
「東京卍會壱番隊副隊長、松野千冬だ」
武道はそれを聞いた瞬間、思わずブランコに座る松野の元へ駆け寄った。
今武道の目の前にいるこの男は、場地が芭流覇羅に入る為の踏み絵となっていた人物だ。
「場地くんにボッコボコにされてた人じゃん!」
「お前もな」
「うっ」
「場地さんに感謝しろよ」
「え!?な、なんで俺が!?」
松野の言葉に、武道は驚愕の表情を見せる。
普通に考えれば武道の反応が正しいように思えるが、松野は表情を変えずに話を続けた。
「お前は任命式をぶち壊した。場地さんが殴んなかったら、お前もっと酷ぇ目に遭ってたよ。俺をボコったのは芭流覇羅に入る為。でも、場地さんが芭流覇羅に入ったのは東卍を潰す為じゃないよ」
「え!?」
松野は徐にブランコから立ち上がると、武道の目を見ながら言った。
「場地さんの考えは他にある。稀咲だ」
「……え!?」
心臓が跳ねたように、大きく脈を打った。
まさかここで稀咲の名前が出てくるなんて、武道は思ってもみなかったのだ。
「場地さんは稀咲の尻尾を掴む為、芭流覇羅に入ったんだ」
心臓が大きく脈打つのを感じながら、武道は松野の話にそのまま耳を傾けた。
▼
ある雨の日。
湿ったような匂いが、辺りに立ち込めていた。
そんな中武道と松野が訪れていたのは、とある墓地だった。
そして、佐野家之墓と刻まれた墓石の前には、万次郎と龍宮寺、そして志織がいた。
「そっか……兄貴の話、聞いたか」
「かっけぇ人だったな、真一郎くん」
「うん」
武道と松野は、そう話す二人の声をただ黙って聞いていた。
二人の声音から、真一郎を失った痛みや悲しみが伝播してくるような気がして、傘を持つ手に少しだけ力が篭る。
それは志織も同じようで、悲しみを滲ませた目をそっと伏せたのが見えた。
「タケミっち……俺らも分かってんだ。あの事件は今更どうにもならねぇ。場地も一虎もあんな事、したかった訳じゃねぇ」
龍宮寺がそう言うと、墓前にしゃがみ込んでいた万次郎が不意に立ち上がる。
墓参りを終え墓地を後にする道すがら、万次郎は閉ざしていた口を開いた。
「そう…今更しょうがねぇって分かってる。でも心がついてこねぇ」
万次郎が本音を吐露した瞬間、万次郎の隣を歩いていた志織が万次郎の手をそっと握るのが、後ろを歩いていた二人には見えた。
そして志織も、自分の気持ちを吐露するように、ポツリと一言溢した。
「あまりにも、突然だったから……。今でも悪い夢だったんじゃないかって、私も思ってしまう事もある」
今度は志織の言葉を聞いた万次郎が、繋いでいた志織の手を親指で優しく撫でるのが目に映る。
万次郎と志織はこうしてお互いの心に寄り添いながら、辛い事も苦しい事も共に乗り越えてきたのだろう。
二人の様子を見ながら、武道はそう感じた。
「場地と一虎が盗もうとしたバブは、兄貴が乗ってたバブなんだ」
「え!?」
「俺の誕生日に、プレゼントしてくれるはずだった。兄貴の形見のバブ、俺の今の愛機だ」
武道たちの方を振り向いてそう話す万次郎の後ろには、まさに今万次郎が兄の形見なのだと話したバブがあった。
その光景に、武道は思わず息を呑んだ。
「あれから2年。場地の事は許した。でも、知らなかったとしても、今更どうにもなんなくても、兄貴を殺した一虎だけは一生許せねぇ」
万次郎の目には、憎悪が満ち溢れていた。
それを見た武道は、言葉にし難い恐怖のようなものを感じ、身を震わせる。
けれど万次郎は、その鋭い視線を今度は武道に向け、再び口を開いた。
「場地が一虎側に行くのもな。タケミっち……俺は場地を連れてこいと頼んだハズだぞ?なんで場地んとこの副隊長がいて、場地がいねぇんだ?お前は何がしてぇんだ?タケミっち。マジで死にてぇの?」
万次郎にそう問いかけられた武道は、思わずその口を閉ざした。
万次郎の視線は尚も、武道を鋭く射抜いていた。
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