【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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場地が現れると、東卍の幹部たちは目を丸くして彼を見つめていた。
武道には見覚えのない男ではあったが、空気がガラリと変わった事は武道も感じ取っていた。
場地は幹部たちには目もくれず、一直線に武道の目の前まで来ると、いきなり武道の顔面を何度も何度も殴り付けた。
立て続けに打ち込まれる重たい拳に、武道の体は抵抗も出来ずにふらつく。
今にも地面に倒れ込みそうな武道の顔面に、大きく振りかぶった場地の拳が再び打ち込まれそうになったその時、三ツ谷がその腕を押さえ付け止めた。
「場地、やめろや」
「放せや三ツ谷。殺すぞ」
「お前…何がしてぇの?」
三ツ谷の鋭い眼光が、場地を睨み付ける。
けれど場地は、三ツ谷のその問いには答えなかった。
「マイキー!!」
「何しに来た?場地。お前は内輪揉めで集会出禁にしたはずだ」
「今またショボいガキ殴っちまった。大事な集会ぶち壊した俺は今度こそクビか?」
その会話の意味は、武道には分からなかった。
息を切らしながら、ただ目の前まで起こる事を静観していた。
「……場地」
「俺、芭流覇羅行くわ」
感情の読み取れない万次郎の黒い瞳が、静かに場地を見ている。
けれど場地は構わず、話を続けた。
「問題児はいらねぇんだろ?マイキー」
「場地!!」
「辞めてやるよ。壱番隊隊長場地圭介は、本日をもって東卍の敵だ!」
場地のその言葉を聞いて、思わず息を呑んだ。
何故、壱番隊隊長が集会を出禁になったのか。
何故、こんな事態になっているのか。
未来にいる間に起きていた事を知らない武道は、ただ呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。
「ハハ、荒れてんなぁ、東卍は」
「場地…」
「マイキー気にすんな。アイツはそういう奴だ」
「……ああ」
龍宮寺の言葉に、万次郎は小さく頷いた。
けれどその背中は、どこか寂しそうだった。
「おい、タケミっち」
「ん?」
「顔と腹、どっちがいい?」
「え、何が?」
「オススメは顔かなぁ?どっち?」
「じ、じゃあ……腹?」
無邪気にも見える笑顔を浮かべながら問いかける稀咲に武道がそう答えると、稀咲は武道の頬に拳を叩き付けた。
「ハハ。今腹に力入れたろ?」
油断していた武道は稀咲の拳をモロに受け、そのまま地面に倒れ込んだ。
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目を覚ました武道の視界に映ったのは、夜空に浮かぶ月だった。
「ん……夜?」
ジンジンと頬に感じる痛みに、武道は稀咲に殴られて気を失っていた事を思い出した。
どうして、稀咲に手など出してしまったのだろう。
東卍のトップになると決めていたけれど、参番隊隊長に手を出してしまった今、もう無理だろうか。
ぼんやりと月を眺めながら、武道はそんな事を考えていた。
「気付いた?」
「マ、マイキーくん!?」
ぼんやりと夜空を眺めていた武道の視界の端に映ったのは、万次郎だった。
万次郎は先程とは裏腹に柔らかい笑みを見せながら、武道に声をかけた。
驚きのあまり、武道はえ!?と声を上げながら体を起こす。
「タケミっち。稀咲、気に入らない?」
「え!?いやっ…その…」
「組織をデカくするのはしんどいね。新しい風入れたら、出て行っちゃう奴もいる」
万次郎のその言葉に、武道の脳裏には稀咲と場地の顔が浮かんだ。
「あ……」
「夢への道は、遠いな」
そう言って夜空を見上げる万次郎の横顔が、武道にはどこか寂しげに見えた。
「マイキーくん……」
「頼みがあるんだ、タケミっち」
夜空に視線を向けたまま、万次郎は言った。
そして万次郎が語る昔話に、武道は耳を傾けていた。
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