【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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夜の武蔵神社に集まっているのは、黒い特効服に身を包んだ東京卍會のメンバーたちだ。
今日はここで、新たな参番隊の隊長を担う人物の発表と、その任命式が行われる事になっている。
誰が任命されるのか、隊員たちは皆目検討も付いていない様子だったが、注目度の高い話題である分、隊員たちは今か今かと集会の開始を待っていた。
武道も東卍の隊員たちと同じく、集会の開始を待ち侘びている一人だった。
東卍のトップの座に君臨し、未来を変える為の第一歩として掲げていた、参番隊隊長への就任。
まさか過去へ戻って早々、こんな展開が待っているなんて思いもしなかった。
もしかして参番隊隊長に任命されるのは自分なのではないかと、突飛な想像までしてしまう始末だ。
そうしているうちに、龍宮寺の集会開始の号令が響き渡る。
続いて、万次郎が隊員たちの目の前に立ち、口を開いた。
「参番隊隊長!前に出ろ!」
万次郎のその呼び掛けに、二人の男が動き出す。
最後列から隊員たちの間を割るように集団の真ん中を通り、その男たちは最前列までやって来た。
そして、男たちが武道の前を通り過ぎようとしたその時、武道は妙な既視感を覚えた。
眼鏡を掛けた金髪の男に、見覚えがあったからだ。
けれど目の前のその男が誰なのか、いつどこで会ったのか、全く思い出せない。
その男は万次郎の前まで行くと、静かに振り返り、万次郎に背を向けた状態でその場に腰を下ろした。
その行動に隊員たちはざわめき、野次を飛ばす。
「総長に背ぇ向けて座りやがった!」
「なんだテメェこのヤロー!」
「調子のってんじゃねーぞ!」
それでもその男は何も言わず、ただジッと座ったままだ。
真意の読めない行動に、隊員たちのざわめきは加速していく。
「よく聞けテメェら!俺の後ろに座ってる方が!新参番隊隊長、稀咲鉄太だ!」
その瞬間、武道の脳裏には未来で見てきた残酷な光景が、走馬灯のように蘇る。
──怖ぇんだよ稀咲が
──稀咲を殺す
──全ての元凶は稀咲です
心臓が、嫌な音を立てる。
冷や汗が、頬を伝う。
元凶である稀咲が突然現れた事で、冷静さも理性も、爪で剥がされるようにボロボロと抜け落ちていく。
「アイツ見た事あるぞ!愛美愛主の奴じゃね?愛美愛主の稀咲!」
「なんで愛美愛主がここにいんだよ!?」
「引っ込んでろ愛美愛主!」
隊員たちは、口々に不満を露にした。
それでも稀咲は何も言わず、口を閉ざしたままその場にいた。
「黙れ!マイキーの決めた事だ!文句ある奴ぁ前に出ろ!」
「うっ」
「ウチはこれから芭流覇羅とぶつかる!新興勢力芭流覇羅は、愛美愛主なんて目じゃねぇほどデケェチームだ!」
隊員たちを黙らせた龍宮寺の前に立ち、万次郎はそう言った。
「勝つために東卍も勢力を拡大する!ここにいる稀咲鉄太は、愛美愛主で俺ら世代をまとめてた男だ!参番隊隊長は稀咲鉄太!覚えておけ!」
万次郎はそう言うと、背を向けて歩き出し、任命式を締めくくった。
「総長!ありがとうございます!」
「おう」
去っていく万次郎のその背中を、龍宮寺や三ツ谷はただ静かに見つめていた。
「何考えてんだか、ウチの大将は」
万次郎が何を思って稀咲を参番隊隊長に任命したのか、正直なところ龍宮寺たちも分からなかったのだ。
「帰るぞ」
「ハイ!」
万次郎に続いて稀咲もその場を去ろうとしたその時、誰かが稀咲に駆け寄り、その頬に拳を叩きつけた。
稀咲の掛けていた眼鏡が、カランカランと音をたてて地面に落ちる。
「何やってんだ!?タケミっち!」
龍宮寺のその声で武道が冷静になった時には、もう遅かった。
隊員たちは騒ぎ出し、幹部たちも武道のその行動を問い詰めるかのように、目の前に立ちはだかる。
「東卍でもねぇテメェが何やってんだ、タケミっち!任命式潰す気か!?」
「ドラケンくん…」
「どういう事だタケミっち!?」
「テメェ、マイキーの顔に泥塗るつもり!?」
「違うんスよみんな…俺は…俺は」
未来を知っているからこそ、稀咲が許せなかった。
全ての元凶は、稀咲なのだ。
だからこそ絶対に、万次郎と稀咲の出会いは阻止しなければならなかった。
それなのに二人の出会いも阻止出来ず、あろう事か稀咲は加入早々隊長になってしまった。
行き場のない怒りや憎しみの感情が、武道のあの行動へ走らせたのだ。
けれど、今この場でする行動としては完全に最悪のものだった。
言い訳する余地もない。
「なんだなんだ?面白ぇ事になってんじゃん!」
まさに絶対絶命のその時、見覚えのない男が、武道の前に姿を見せた。
その男は、壱番隊隊長の場地圭介だった。
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