【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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東卍のトップになる。
そう誓って、武道は再び直人と握手を交わす。
このタイムリープで、全てを終わらせる。
そう強い決意を胸に秘めていた武道が目を開くと、白い靄がかかったような光景が目の前に広がっていた。
「へ?」
武道がいたのは、銭湯だった。
なぜ、こんなところにいるのか。
タイムリープの直後は毎回、今がどういう状況なのか掴めず、困惑してしまう。
ひとまずこの状況を把握しなくてはと、武道は周りをキョロキョロと見渡した。
すると目の前の水面が突然ブクブクと泡を立てて始め、武道は不思議に思いながらそれをじっと見つめた。
そして次の瞬間、お湯の中から何かが飛び出して来て、武道は思わずひっ!と声を上げた。
「ばぁ!」
お湯の中から飛び出してきたのは、万次郎だった。
「マ、マイキーくん!?」
「ハハハ!そんな驚く?」
万次郎は酷く驚いた様子を見せる武道を見て、軽快な笑い声を上げた。
「おい!うっせーよ!ガキじゃねぇんだからよ、銭湯でハシャぐんじゃねぇよ」
「ドラケンくん……!?」
「中3にもなってシャンプーハットしてる奴に言われたくねーし!ウケるだろ?あの図体でシャンプー目に入るの怖いとか」
万次郎は可笑しそうに言いながら、武道の隣に腰を下ろす。
そこへ、ウッセェ!という龍宮寺の怒号が響き渡り、武道は苦笑を漏らした。
それから少しして髪を洗い終えた龍宮寺が浴槽へやって来ると、三人は横並びでお湯に浸かっていた。
万次郎は顔だけ水面に出した仰向けの状態で、プカプカと浮いていたが。
「ドラケンくん、怪我はもう大丈夫なんスか」
「あン?こんなの屁でもねーよ。鍛えてるからな」
龍宮寺はホレ!と言ってその場に立ち上がると、鍛え上げた肉体を武道に見せつけた。
「ハハ、中学生の体じゃないッスね。傷も」
「だろ!?」
龍宮寺が自慢気な表情でそう言うと、プカプカと浮いていた万次郎が、不意にスィーッと泳いで来た。
「ほうほう」
「あン?」
武道が万次郎に視線を向けていると、万次郎はえいっと鋭い拳を龍宮寺の腹部へと打ち込んだ。
あまりにも突然の事に、武道は思わず口をあんぐりと開けて二人を見てしまう。
「テメー何すんだコラ!」
「まだちゃんと治ってねぇって!無理すんなよ」
「ふざけんなテメー!治ってるとかの問題じゃねーぞ!」
そのうち二人は、浴槽の中で喧嘩を始めてしまった。
お湯の中だと言うのに万次郎の足が龍宮寺の頬を蹴っていたり、龍宮寺が万次郎を湯の中に沈めたりと、二人は激しい取っ組み合いの喧嘩を繰り広げている。
相変わらずすごい喧嘩だと思ったが、そんな光景を見ながら武道の脳裏に過ったのは、悲しそうな顔で笑いながらあの頃はよかったと呟いた、未来の龍宮寺の姿だった。
未来で会った龍宮寺もきっと、こんな日々が続けば良かったと思っていたのだろう。
「ずっと、こんな毎日が続くといいッスね」
思わず、そんな言葉が口から滑り落ちた。
これから先もずっと、こんな風に大切な仲間たちと、かけがえのない日々を過ごせたら。
それが叶うなら、きっとあんな残酷な未来が訪れる事はないのに。
とは言え、そんな未来を知っているのは武道だけ。
未来の実情を知らない万次郎と龍宮寺には、鋭い眼光で睨まれてしまった。
「そろそろ上がるか!」
「行くぞ!タケミッち」
「へ?どこに?」
身支度を済ませて、万次郎や龍宮寺と一緒に外へ出ると、そこには特効服に身を包んだ東卍メンバーたちが、取り囲むように立っていた。
「タケミっち、いよいよだな」
「主役のお出ましだ」
「え?」
「タケミっち、行くぞ」
新参番隊隊長任命式だ!
万次郎は笑みを見せながらそう言った。
予想もしていなかった展開に、武道は思わずへ!?と声を上げ、少しの間その場に立ち尽くしていた。
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