【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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数ヶ月ぶりに直人から連絡を受けた武道は、直人と共に都内の拘置所にいた。
「音沙汰ねぇからどうしたのかと思ってたよ。ここ拘置所だろ?こんな所に何の用?」
「調べたんですが、今の東卍に龍宮寺堅は存在していませんでした。かといって死亡した記録もない。……捜してもいない訳です。龍宮寺堅は今、死刑囚なんです」
そこへやって来たのは、側頭部にドラゴンの刺青をした男だった。
龍宮寺だ。
その両手首には、手錠がかけられている。
龍宮寺はパイプ椅子に腰を下ろし、懐かしいあだ名で武道を呼んだ。
「久しぶりだな、タケミッち。無事でよかった」
安心したように小さく微笑む龍宮寺の表情に、武道は思わず涙が溢れた。
武道が直人のおかげで面会できた事を話すと、龍宮寺は単刀直入に要件を尋ねた。
「俺知らなくて……。ドラケンくんが殺人を犯して死刑囚だって……。何があったんですか?なんでドラケンくんが殺人なんか…東卍はどうなっちまったんですか?」
「……タケミッち、俺は自分のした事を後悔してねぇ。ここにいるのも当然の報いだ。東卍がこんな事になっちまったのも……、俺のせいだ。俺がアイツを止められなかったから」
「……アイツ?」
「……東卍か……。ガキの頃は良かったな。ただチームをでかくするって突っ走ってよ。喧嘩喧嘩で毎日が祭りみてぇで……。東卍は、俺の全てだった」
武道が何も言わずに黙って龍宮寺の話を聞いていると、龍宮寺は小さく笑みを浮かべながら続けた。
「もう一回人生やり直しても、俺は同じ生き方を選ぶ。後悔はねぇ」
その言葉を聞いて、武道はホッと胸を撫で下ろす。
龍宮寺は何も変わっていない、と。
けれど、武道の安心も束の間だった。
龍宮寺は悲しそうな目で俯きながら、絞り出すような声で言った。
「……けどよ。本当にもう一度やり直せるなら、一つだけやんなきゃいけねぇ事がある」
「え?」
「稀咲を、殺す」
その時の龍宮寺の表情は、憎悪に満ちていた。
けれど、龍宮寺が口にしたその名に、武道はゾクリと身体を震わせた。
「稀咲ってあの……!?」
武道が立ち上がり身を乗り出して稀咲の名前を口にしたその時、室内に設置されたブザーが鳴り響き、面会の終了を告げる。
警官に声をかけられると、龍宮寺は静かに立ち上がり、ドアへ向かって歩き出した。
「タケミチ。東京から離れろ」
「え?」
「殺されかけたんだろ?だからここを訪ねて来た。稀咲にとって人を殺すのは、虫を殺すぐらいの事だ」
武道は思わずゴク、と喉を鳴らした。
そして、去り行く龍宮寺の背中に、武道は必死に訴えた。
「ちょっと待って下さい!なんで!?なんで俺が命を狙われるんですか!?」
「……稀咲はマイキーに心酔してた。でもそれがいつの間にか憎悪に変わってた。稀咲は、マイキーの大事なモン全てを奪いたいんだよ」
龍宮寺は覇気のない目でそう言うと、面会室を出て行った。
▼
龍宮寺との面会を終え帰宅した武道と直人は、お互い何も話さずにいた。
そんな長い沈黙を破ったのは、武道だった。
「ドラケンくんが死刑囚だったなんて」
「……」
武道の脳裏には、憎悪に顔を歪ませながら稀咲を殺すと言った、龍宮寺の姿が浮かんでいた。
「ナオト…、稀咲って奴は一体何者なんだ?」
「稀咲鉄太──現・東京卍會の最重要人物の一人にして総長代理。我々警察も総力を上げて捜索していますが尻尾さえ掴めていません。おそらく彼が姉を殺し続けている張本人」
「過去でもまだ一度も会えてない。ぶっ倒そうにも手がかりゼロだ」
おそらく、元凶は稀咲鉄太だ。
それが分かっているというのに、過去でも現代でも稀咲に関する手がかりは未だない。
大切な人たちを守る為には、稀咲の目論見を阻止する事が必要不可欠だというのに、その手立てすら分からない。
歯痒さやもどかしさを、感じずにはいられなかった。
「ナオト……やっぱりもう道は一つしかないよ」
「え?」
「俺が、東卍のトップになる」
「……あれ本気だったんですか?僕を励ましただけかと……」
「だってそうだろ!?俺が東卍のトップになれば稀咲も止められるし、ドラケンもマイキーもヒナも…皆守れるじゃん!今までのやり方じゃダメなんだよ。根っこを叩く」
そんな突拍子もない方法を真剣に提案する武道に、直人は何も言えなかった。
直人が口を閉ざしている間にも、武道は次々と自分の考えを話していく。
「考えてみたんだ。まずは隊長になる。パーちんくんが抜けた今、参番隊の隊長枠が空いてるんだ。そこを狙う!」
「……メチャクチャな案ですね」
「でもナオト、俺は魔法が使える訳じゃないんだ。だからこれくらいしかないと思うんだ」
「……分かりました。タケミチくんはなんだかんだでこれまでのミッションを成功させて来ましたし、信じます」
そう言って直人は、武道に右手を差し出した。
「今回は、長旅になりそうですね」
「ああ」
武道は直人の言葉に応えながら、差し出された直人の手を握った。
強く、鼓動が鳴る。
何故、武道が日向を振った事になっているのか。
何故、日向の事件現場に半間がいたのか。
何故、龍宮寺は死刑になったのか。
そして、稀咲は何者で、何故万次郎を憎むようになったのか。
パズルのように散らばった謎を全部繋げ、そして負のループを断ち切って壊す為に、武道は再び過去へとタイムリープした。
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