【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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落ちていた意識が、少しずつ浮上していく。
重たい瞼を開けると、志織の視界に映ったのは、愛しい人の寝顔だった。
昨夜万次郎と一緒に佐野家へ帰宅し、数週間ぶりに同じベッドで眠りについた事を、志織はぼんやりとした頭で思い出す。
万次郎はベッドへ入ると、優しく志織を抱き締めながら、ゆっくり休んでとそっと背中を撫でてくれた。
朝になっても、志織をしっかりと抱き締めてくれる万次郎の腕の中はとても温かくて、傷付いた志織の心を優しく癒していくようだった。
「ありがとう、万次郎……」
そう小さく呟きながら、志織は眠る万次郎の頬へ、そっと指を滑らせた。
「ん……?」
閉じられていた万次郎の瞼がそっと開き、視線が交わる。
すると万次郎は唇を綻ばせて、志織を抱き締める腕に力を込め、少し掠れた声で言った。
「志織だ。朝起きて志織がいるの、やっぱりいいな」
「万次郎…」
「志織がいない間さ、すげー寂しかった。こうやって志織の事抱き締めて寝たいって何回も思った」
「わ、私もずっと寂しかった。ずっとここに戻ってきたかった。万次郎の傍にいたかった」
「うん。俺も志織と一緒がいい」
万次郎は志織の頬をそっと撫でると、志織の唇に自身のそれを軽く触れさせた。
「……昨日」
「ん?」
「来てくれてありがとね」
「そりゃ行くに決まってんじゃん。俺、志織の彼氏だし」
「ありがと。ケンチンが万次郎に連絡してくれて、電話で万次郎の声聞いた時、すっごい安心していっぱい泣いちゃった」
「そっか」
万次郎の手が志織の髪を優しく撫でると、志織は万次郎の目を真っ直ぐ見ながら口を開いた。
「昨日何があったか、聞いてくれる……?」
「うん、志織が話しても大丈夫なら、聞くよ」
万次郎のその言葉に小さく微笑み返すと、志織は微かに震える声で、昨日の母親との事を話した。
途中何度か泣き出しそうになりながらも、志織は必死に言葉を紡ぐ。
そんな志織の話を、万次郎は優しく手を握りながら黙って聞いていた。
「……私は、お母さんにとったらもう……邪魔でしかないみたい」
悲しそうに笑いながら、志織は話を締めくくった。
そんな志織を、万次郎は真っ正面から強く抱き締める。
大好きな温もりに包まれると、我慢していた涙が一筋、志織の目から零れ落ちた。
「話してくれて、ありがとう。でも志織は邪魔なんかじゃないよ」
「万次郎……」
「志織。俺の目、見て?」
身体を離してそう言う万次郎の目を、志織は濡れた瞳で見つめ返した。
「志織は俺にとって、絶対欠けちゃダメな存在。ずっとずっと一緒にいたいって思える、いちばん大切な存在」
「万次郎……」
「志織、前に話してくれたじゃん?何とかの片割れの話。俺の片割れは志織だから、これからもずーっと志織と俺は一緒だよ」
「うん…っ」
「大好き、志織。愛してる」
「うん……!私も万次郎の事、愛してるよ……っ」
志織がそう返すと、万次郎は嬉しそうに笑って志織の唇を塞いだ。
何度も食むように交わされるキスに、志織の瞳は次第に蕩けていく。
名残惜しそうに唇が離れると、万次郎は志織の指を絡め取るようにして手を繋ぎ、再び言葉を紡いだ。
「今度志織のお母さんが志織を連れて行こうとしても、絶対渡さないから安心して。ずっと俺の事だけ見てて」
「うん、ありがとう。ずっと万次郎の事だけ見てる」
「ん、辛い事考えないで済むように、俺でいっぱいにしてあげる」
再び万次郎の唇が、志織の唇にそっと触れた。
しっかりと指を絡ませながら、二人はキスに夢中になっていく。
何度も何度もお互いの名前を呼び合いながら、数週間ぶりに訪れた二人きりの時間を過ごした。
それは溶け合ってしまいそうな程、甘くて尊い時間だった。
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