【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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8月19日。
時刻は23時56分。
日付が変わる瞬間を、志織は今か今かと待っていた。
「あと5分切った!」
「なんでそんなそわそわしてんの?」
「そりゃそわそわもするよ!あともう少しで万次郎の誕生日だよ?」
携帯の画面を見つめながらそう言う志織を、万次郎はきょとんとした顔で見つめた。
そうしている間にも志織の視線は、携帯の液晶画面に表示された時計に釘付けだ。
「あ、あと3分!」
「日付変わるまでずっとそうしてるの?」
「うん!」
「なんで?」
「なんでって、私がいちばん最初に万次郎におめでとうって言いたいもん」
一瞬、液晶画面から視線が外れ、その視線は万次郎に向けられる。
屈託のない笑顔を浮かべてそう言う志織に、万次郎は思わず頬を赤く染めた。
こんなにも真っ直ぐに愛されているのだと実感して、なんだか照れ臭くなったのだ。
再び液晶画面に視線を戻した志織が、「ああ!あと1分だ!」と声高に言う。
より一層そわそわし始めた志織を見つめながら、万次郎は静かに溢れ出す感情のままに志織へと手を伸ばす。
伸ばした指先が、志織の頬に触れようとした瞬間、液晶画面を見つめていた志織は、ハッと息を漏らした。
万次郎が思わず伸ばしていた手を引っ込めたのとほぼ同時に、志織が手に持っていた携帯を放り投げ、万次郎にぎゅうっと抱き着いた。
「万次郎~~!お誕生日おめでとう!」
突然の事だったが、万次郎は抱き着いてきた志織の体を、しっかり抱き止めた。
そして、志織の肩に顔を埋めながら、優しい表情で礼を言った。
「ありがとう、志織。好きだよ」
「私も!万次郎好き!」
志織はそう言って、万次郎の唇にキスを落とした。
「えへへ、15歳になった万次郎との初キス」
頬を赤く染めて照れ臭そうに笑う志織に、溢れんばかりの愛しさが万次郎の心を埋め尽くす。
衝動のまま、万次郎は志織の腕を引き、自身の腕の中へ閉じ込めた。
「早く、志織と結婚したい」
「私も。あと3年で結婚出来るようになるね」
「ん。俺が18になったらすぐ結婚しよ」
「そしたら私、篠崎さんじゃなくて佐野さんになるのか」
「嫌?」
「ううん。全然嫌じゃないよ」
「良かった。まあ志織は、篠崎志織より佐野志織の方がいいよ絶対」
自信満々にそう断言する万次郎に、志織は思わず笑いを溢した。
けれど万次郎の言葉が嬉しくて、志織は指を絡ませるようにして、万次郎と手を繋いだ。
「ねえ志織、今から出掛けよう。誕生日のデート」
「今から?どこ行くの?」
「二人になれるとこ」
「いつものところ?」
「ううん。今日は別の場所」
「うん、万次郎が行きたいならいいよ」
志織の返答を聞くと、万次郎は志織の髪をわしゃわしゃと撫でて、立ち上がった。
愛機の鍵を手に取って、外へと向かう。
万次郎に続いて志織も立ち上がり、戸締りを確認してから外へ出た。
「ちょっと遠いけど、いい?」
「いいけど、どこ行くの?」
愛機に乗り込みながら、二人はそんなやり取りを交わす。
前に座る万次郎の腰に腕を回すと、万次郎は首だけ後ろを振り返り答えた。
「海」
「海!?今から!?」
「そ!」
万次郎は愛機のエンジンをかけ、驚く志織を乗せたまま、発信した。
「この時間なら絶対誰もいないから、二人きりになれるよ!」
「そうだけど、夜の海なんか怖いじゃん!」
「大丈夫だよ、俺がいるから」
万次郎のその言葉に、志織の心臓が思わず跳ねる。
返答せずにいる志織に、万次郎はね?と優しく問いかける。
志織は思わずうんと頷いてしまい、万次郎の腰に回していた腕にぎゅう、と力を込めた。
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