【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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昼下がり。
万次郎と志織は、自室に置かれたソファに座って、とりとめのない話をしていた。
先日行った鯛焼き屋の話に始まり、昨日の夕飯に出たおかずの話、食後のデザートだったアイスの話、つい最近変えた新しいシャンプーの匂いの話、万次郎の寝相の話と次々に話題は移り変わって行ったが、終始笑いの絶えない談笑だった。
万次郎と一緒なら、どんな些細な事も志織にとっては大切な日常の一つなのだ。
室内に絶え間なく響いていた笑い声がふと止み、万次郎がゴロンとソファに横になった。
ふと、束の間の沈黙が訪れる。
そのうち聞こえてきたすやすやと寝息に、志織が万次郎の方を見ると、あどけない寝顔で眠る万次郎の姿があった。
志織はベッドから万次郎のお気に入りの毛布を持ってくると、それをそっと万次郎の体にかけた。
そして眠る万次郎の足元に座り、近くにあった雑誌を手に取り読み始めた。
静かな室内に万次郎の寝息と、志織がページを捲る音が時折聞こえてくる。
しばらく、そんな時間が続いていた。
そんな静寂を打ち破ったのは、志織のひゃっ!という悲鳴だった。
万次郎の足が突然志織の体に絡み付き、ガッチリと拘束したのだ。
志織が万次郎へ視線を移すと、そこにはニヤニヤと自身を見つめる万次郎の姿があった。
「ちょっと万次郎!寝てたんじゃないの!?」
「今起きた」
「もうびっくりしたぁ」
「ひゃっ!だって。可愛い~~」
「からかわないでよー」
顔を赤く染めて唇をへの字に曲げる志織は、とても可愛らしかった。
万次郎はそんな志織に両手を差し出し、声を掛けた。
「抱っこしてあげるから許して」
こてん、と首を傾げるような仕草をする万次郎に、志織は内心胸を高鳴らせた。
いとも簡単に懐柔されてしまうのは惚れた弱みだろうかと考えながら、志織は万次郎の腕の中へ飛び込んだ。
「許してくれる?」
「ん、許してあげる」
元々そこまで怒っていたわけでもないのだが、許しを乞う万次郎の表情が可愛らしくて、志織はそう言った。
すると万次郎は安心したように笑って、志織の頬を撫でる。
仰向けになっている万次郎の上に志織がうつ伏せで乗っているせいで、かなり距離が近い。
密着度も高くて、大好きな万次郎の匂いに自然と包まれ、心臓がドキドキと脈を打つ。
「万次郎」
「ん?」
志織は万次郎にぎゅっと抱き着くと、すりすりと頬と頬を擦り合わせるようにして、甘え始めた。
滅多に見せない志織の甘える姿を見た万次郎は、ほんのりと顔を染める。
「万次郎~~、万次郎~~」
「ん、ここにいるよ」
万次郎は甘える志織の体をしっかり抱き締めて、背中を優しく撫でる。
「万次郎もうすぐで誕生日だね。プレゼント何が欲しい?」
「んー、志織」
「私?」
「そう。志織が欲しい」
「私、もう万次郎のだよ?」
「それでも、何回も俺のって言ってほしい」
少し唇を突き出して強請るような視線でそう言う万次郎に、志織の中で一気に感情が溢れ出す。
「ずっとずっと、私は万次郎のだよ」
「うん。志織は俺の」
「ずーっと一緒」
「うん、一緒」
志織の後頭部に万次郎の手が回され、引き寄せられる。
唇が重なったその瞬間、大きな幸福感が二人を包み込んだ。
「ねえ、志織」
長いキスを終え唇が離れた瞬間、万次郎が志織にそう声を掛けた。
「なぁに?」
「誕生日、二人でどっか行こう」
「どこ?」
「分かんない。でもバブで適当に走ってさ」
「うん、いいよ」
志織がそう言うと、万次郎は嬉しそうに笑って頬擦りをした。
こうして肌を触れ合わせていると、とてつもない安心感を感じられる。
その安心感から次第に眠気が生まれ、二人は体を重ねたまま眠りに落ちた。
夕方、夕食のリクエストを聞きにエマが部屋を訪れた際も、二人はまだ夢の中だった。
「もう、二人してこんなところで寝ちゃって」
少し呆れたような物言いをしながらも、エマは床に落ちている万次郎のお気に入りの毛布を拾い上げる。
そしてそれを眠る二人の体に掛けてやり、エマは静かに部屋を出ていった。
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