【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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喧嘩賭博の現場を後にし、龍宮寺とも別れた万次郎と志織はそのまま佐野家へとやって来た。
帰宅して早々、万次郎は志織に膝枕をせがみ、二人だけの空間で志織を独占している。
志織は優しく万次郎の髪を撫でながら、ニコニコとこちらを見上げる万次郎を愛しそうに見つめ返した。
「万次郎」
「んー?」
「大好き」
「俺も大好きだよ」
「嬉しい」
そう言って本当に嬉しそうに笑う志織の頬に、万次郎はそっと指を這わせる。
すると志織は微笑んだまま、幸せそうに瞳を閉じて、自身の頬に触れる万次郎の手を優しく握った。
「万次郎の手、なんか男の子なんだなって思ってきゅんとする」
「何それ?男だもん当たり前じゃん」
「子供の頃はもっと手も小さかったし、こんなゴツゴツしてなかったよ」
「そう?」
「そうだよ。そういう変化が分かるくらいずっと一緒にいるんだね、私たち」
「うん。今更離さねえよ。約束したろ」
「えへへ。私も万次郎の事、絶対離さないよ」
志織と万次郎が出会ったのは、まだ二人が小学校に上がる前だった。
万次郎の祖父が開いている道場に、志織が通い始めたのがきっかけで二人は出会った。
出会ってすぐに二人は恋に落ちて、大きくなったら結婚しようと幼い約束を交わした。
それから約10年が経っても二人は変わらず一緒にいて、着実にその絆を深めている。
「ねえ万次郎、"オレンジの片割れ"って知ってる?」
「何それ?」
「どこかの国のことわざ。半分にしたオレンジは、もう片方のオレンジとしかぴったり合わないんだって。他のオレンジとじゃ駄目なの。ぴったり合うオレンジの片割れは世界で一つだけだから、このことわざは運命の人って意味なんだって」
「ふーん」
「私のオレンジの片割れは、絶対万次郎だと思う」
「何それ。可愛い」
万次郎は上体を起こして志織の方へ向き直ると、志織をそっと抱き締めた。
「お前の片割れ、俺じゃないはずないじゃん」
「うん、絶対万次郎だよ」
「俺の片割れも、絶対志織」
「えへへ。嬉しい」
二人はぎゅうっときつく抱き締め合った後、キスを交わした。
最初は触れるだけのキスを繰り返すだけだったのに、それはだんだんと深さを増して行き、志織は縋るように万次郎の首に腕を回して抱き着いた。
万次郎は深いキスを続けながら、志織の後頭部に手を回し、そっとその体をソファへ押し倒す。
名残惜しそうに唇が離れると、二人は鼻先が触れそうなくらい近い距離で、お互いを見つめた。
熱を帯びた眼差しが、心臓の鼓動を加速させていく。
「万次郎…もっとして」
「いいよ」
万次郎が志織の唇を塞ごうと顔を近付けると、志織は目を閉じてその時を待つ。
だが、あと少しで唇が触れるというところで、万次郎の自室である離れの外から声が聞こえてきた。
「マイキー!帰ってるのー?」
その声の主は、万次郎の異母兄妹であるエマだった。
エマが離れのドアを開けるまでの一瞬で二人は慌てて起き上がり、何事もなかったかのように振る舞った。
「もうマイキーいるなら返事くらいしてよ…って志織ちゃん来てたんだ!」
「う、うん。お邪魔してます」
「ん?なんか顔赤いけど、大丈夫?」
「えっ…ぜ、全然大丈夫!」
「そう?志織ちゃん今日泊まり?夕飯何がいい?」
「志織泊まるから、オムライス食いたい」
「またぁ?マイキーいっつもオムライスじゃん」
「好きなんだからいいじゃん」
「まあ材料あるし、いいけどさぁ」
「私も手伝うよエマ。一緒に作ろう」
「ほんと?助かるー!」
志織が立ち上がると、万次郎も志織を追いかけるようにその後を着いて離れを出た。
キッチンへ移動し、二人は早速料理に取りかかる。
だが万次郎は志織の背中にぴったりとくっついて、みじん切りにされていく玉ねぎをじっと見つめていた。
「ちょっとマイキー邪魔!料理してる時くらい離れなよ!」
「エマうるさい」
「大丈夫だよエマ。もう慣れっこだし」
「もう!志織ちゃんはマイキーに甘過ぎ!」
ビシッと言う時は言わなきゃダメだからね!と頬を膨らませながらも、エマはサラダやスープの調理をテキパキと進めていた。
志織はそんなエマの手際の良さを見て、将来絶対にいいお嫁さんになるなーと頭の隅で考えながら、みじん切りにした材料を炒め始めた。
料理が出来上がる頃に丁度良く万次郎とエマの祖父も帰宅し、久しぶりに四人で囲む食卓を心行くまで楽しんだ。
以前は道場に通う一生徒であったにも関わらず、万次郎とエマの祖父は志織をいつも温かく迎えてくれる。
そんな佐野家が、志織は好きだった。
食事が終わると、万次郎たちが順番に入浴している間に、志織はエマとお喋りに花を咲かせながらも後片付けに取りかかる。
「志織ちゃん今日泊まるなら、明日は一緒に学校行こうよ!」
「そうだね、一緒に行こう!」
「ちょっとエマ、志織は俺と学校行くの」
「少しくらいいいじゃん、マイキーはいつも志織ちゃんといるんだし。それにいっつも朝起きないんだから」
「明日は起きれるし」
万次郎はそう言って、食器を拭く志織を後ろから抱き締めた。
「マイキーばっかりずるーい!」
万次郎と同じく、エマも幼少期から志織と共に過ごしていたから、エマにとって志織は本当の姉のような存在だった。
そして志織にとっても、エマは本当の妹のような存在だ。
「じゃあ明日はみんなで学校行こう。ケンチンも来るわけだし」
後片付けを終えた志織がそう言うと、万次郎もエマも納得したようでうん!と頷いた。
「そしたら私ドラケンに連絡入れとくから、志織ちゃん先にお風呂入って来なよ」
「私が先でいいの?」
「うん!」
「じゃあそうさせてもらうね。ありがとう」
「じゃあ俺は部屋で待ってるから。早く来いよ、志織」
「はーい」
志織は万次郎にそう返事をすると、着替えを持ってお風呂場へ向かった。
そして、万次郎が待ちくたびれてヘソを曲げてしまわないうちに手早く入浴を済ませ、髪を乾かしてから万次郎が待つ離れへと戻る。
「万次郎お待たせー」
「あ、おかえり志織」
万次郎は戻ってきた志織を見るなり、ベッドに座る自分の隣をポンポンと嬉しそうに叩き、隣に来るように訴えた。
志織はそんな万次郎の様子に小さく笑みを溢しながら、万次郎の隣にちょこんと座る。
志織の髪から自分と同じシャンプーの匂いが香ってくるのを感じた万次郎は、おもむろに志織の首筋に顔を埋めて大きく息を吸い込んだ。
「万次郎?」
「志織が泊まりに来るたびいつも思うけど、同じ匂いすんのなんかいい」
「このシャンプーいい匂いだよね」
「うん。志織からこの匂いすると、余計いい匂いに思えてくる」
「ふふ、何それ」
万次郎がぎゅっと、志織の体を抱き締める。
しん、と静まり返る部屋に、万次郎が深く呼吸をする音だけが響いていた。
けれどその後、万次郎がいきなり顔を上げて口を開いた。
「なんか匂いかいでたら興奮した。さっきの続きしよ?」
「え?」
「志織もさ、もっとしてって言ってたじゃん」
「あれは別にそういう意味じゃ…!」
「いいからいいから!」
万次郎は志織の体をそのままベッドへ押し倒し、唇を塞ぐ。
翌日、志織は痛む腰を庇いながら登校する羽目になった。
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