【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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愛機を走らせて十数分、目的地である鯛焼き屋に到着した。
この店の鯛焼きは万次郎のお気に入りで、志織と二人でよく訪れていて、店主ともいつの間にか顔見知りになっていた。
店を訪れるのは少し久しぶりで、万次郎はお気に入りの鯛焼きを食べられる事に心を踊らせながら愛機から下り、志織が乗る後部座席へと視線を向ける。
するとそこには、ヘルメットが上手く抜けずに苦戦する志織の姿があった。
「万次郎…!ヘルメット脱げない……!助けて…っ」
「何やってんの?真上に引っ張んないと抜けないよ」
万次郎はそう言いながら手を伸ばし、志織のヘルメットを脱がしてやった。
そして志織の乱れた髪を直してやりながら、万次郎はフッと慈愛に満ちた笑いを溢す。
「今日は何の味にすんの?」
「うーん、どうしようかなあ。この間バナナ食べたからなあ」
「志織も普通の餡子のにしようよ」
「えー、全制覇したいから餡子は却下」
「餡子がいちばんうめーのに」
「万次郎餡子好きすぎだよね。どら焼きにも餡子入ってるし」
「餡子うめーじゃん」
そんな会話をしているうちに乱れた髪も元通りになり、万次郎は優しく志織の頭を撫でた。
「直った」
「ありがと万次郎!」
「買いに行こ」
「うん!今日は抹茶クリームにする」
「そんなんあるの?」
「あるよ!」
店に入ると、いつものように店主とその妻が出迎えてくれた。
二人のいらっしゃいという言葉に、万次郎と志織も挨拶を返した。
「相変わらず仲が良いねえお二人さん。今日は何にする?」
「俺、普通の!」
「私、抹茶クリームにします!」
「はい、ちょっと待ってね!」
店主が注文の鯛焼きを袋に詰めている間に、志織と万次郎は二つ分の代金を手渡し、支払いを済ませる。
受け取ったお釣りを財布にしまったところで、店主が袋に入った鯛焼きを手渡してくれた。
「はい、お待たせ!」
「ありがとうございます!」
「裏空いてる?」
「うん、空いてるよ」
この店の裏にはちょっとした飲食スペースがあり、万次郎たちはいつもそこを利用していた。
買ってすぐに熱々の鯛焼きを食べられるという点も、万次郎が気に入ってる理由の一つだ。
万次郎と志織は店の外に一度出ると裏へ回り、設置されたベンチに並んで腰を下ろした。
そして、袋から熱々の鯛焼きを取り出し、同時にかぶり付く。
口の中に甘い味が広がって、二人は顔を見合わせて微笑んだ。
「抹茶クリーム美味しい~~!何個でも食べれそう」
「俺も餡子なら何個でも食えそう。てか食える」
「万次郎何個食べても太らないのめちゃくちゃ羨ましいんだけど。なんで太らないの?」
「そんなの、俺が天才だからに決まってんじゃん」
「いや、それ答えになってないし」
志織は笑いながら、もう一度鯛焼きにかぶり付く。
「ん~~美味しい~~!」
「そんな美味ぇの?」
「美味しいよ!一口食べる?」
「ん」
志織が手に持っている鯛焼きを差し出すと、万次郎はそれにかぶり付いた。
そしてもぐもぐと咀嚼しながら、感想を述べる。
「ん、確かに美味い」
「でしょ?!って万次郎、口の横に抹茶クリームついてるよ」
「んー?志織取って」
「えーしょうがないなぁ」
志織はバッグの中に手を入れて、ティッシュを取り出す。
「違う」
「ん?」
「舐めて取って」
「え、外だよ?恥ずかしいからやだ」
「いいじゃん!外って言っても誰もいないし!ね?お願い!」
万次郎ははい、と体ごと志織の方を向く。
万次郎の強請るような視線にとても嫌とは言えず、志織はおずおずと顔を近付けて、万次郎の口の端に付いた抹茶クリームをぺろりと舐め取った。
「う……これでいい?」
「ちゃんと取れた?」
「うん、取れたよ」
「ん!じゃあ餡子のやつ一口あげる!」
万次郎は満足そうに笑って、##NAMEE1##に餡子の鯛焼きを差し出す。
これも多少の戸惑いは見せたが、志織は小さな口で鯛焼きにかぶり付いた。
餡子のほのかな甘さが、口の中に広がっていく。
「美味しい」
「な!」
万次郎は再びを笑みを浮かべると、残りの鯛焼きをパクリと口に放り込む。
「まだ足んねぇな。もう一回買ってくる!」
「え!?」
万次郎はもう一度、店の中へと戻って行った。
少しして戻ってきた万次郎が持っていた袋には、鯛焼きがパンパンに詰まっていて、志織は驚きのあまり思わず口をあんぐりと開けてしまった。
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