【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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何かが頬を滑るような柔らかい感覚に、万次郎は閉じていた目を開く。
万次郎の視界に最初に映ったのは、愛しさを煮詰めて溶かしたような甘い眼差しで自身を見つめる恋人の顔。
そして万次郎の頬を滑っていたのは、その恋人の細くてしなやかな指だった。
優しくて温かな感情が万次郎の心をそっと包んでいくようで、唇が自然と弧を描く。
「志織、おはよ」
寝起き特有の掠れた声で挨拶をすると、万次郎は己の頬に触れていた手を取って、そっと唇を寄せた。
志織は照れ臭そうに微笑みながら、万次郎に挨拶を返す。
「おはよう、万次郎」
昨夜熱く愛し合った余韻がまだ残っているような、何とも甘くてとろけてしまいそうな朝だ。
布団を捲れば志織の胸元や鎖骨の辺りに、自身が咲かせた無数の跡が見えて、万次郎は満足気な表情を浮かべた。
隙間なく肌を密着させ、幾度となく唇を合わせ、どろどろに溶け出してしまいそうな程愛し合った時間が、万次郎の脳裏に鮮明に思い出される。
「志織、好き」
「私も万次郎好き」
「うん。昨日えっちしてる時、俺の事すげー好きって顔してたもんね」
「そ、そんな顔してないよ…!」
「絶対してた。俺覚えてるし」
すげー可愛かったもん。
そう言って万次郎は、志織の頬にそっと触れた。
万次郎の手から伝わる温度が昨夜の行為を思い出させて、志織は顔を赤く染める。
それを見た万次郎はニコニコと笑って、志織をその腕に抱き締めた。
下着しか身に付けていないせいでお互いの素肌が直に触れ合い、志織は更に顔を赤く染める。
いちいち可愛らしい反応を見せる志織が愛しくて、万次郎は堪らない気持ちになった。
「志織」
「ん、なぁに?」
「すげー好きだから、絶対離れないで」
志織をしっかり腕に閉じ込めたまま、万次郎は言った。
「うん、離れないよ」
志織もまた、万次郎の背中に回した腕に力を込めて、万次郎を抱き締めた。
「志織、キスしていい?」
「ん、いいよ」
「じゃあ目閉じて」
万次郎に言われた通り、志織は目を閉じ、唇を塞ぐ心地よい感覚を待った。
けれどどれだけ待っても、唇には何も触れる事はなかった。
志織が不思議に思って目を開けると、その瞬間万次郎の顔が近付いてきて、不意討ちで唇を塞がれた。
突然の出来事にもう一度目を閉じる事も出来ず、開かれていた万次郎の目と視線が交差する。
何度か啄むように唇を吸われた後そっと唇が離れると、まるで悪戯が成功した幼子のような笑みを万次郎は浮かべていた。
万次郎の一連の行動に、志織の心臓はバクバクと、大袈裟な程音を立てている。
「びっくりした?」
「うん……。ていうかずるいよ……」
「ごめんて。でも志織、あーしたらどんな反応するかなって思って。すげー可愛かった!」
万次郎はそう言って、眩しい程の笑顔を志織に見せた。
その笑顔に胸がぎゅっと締め付けられたような心地がして、志織は思わず心の声をポロリと漏らした。
「う……好き……」
「俺も!」
万次郎はもう一度、志織にキスを施した。
今度は一瞬触れるだけのキスで、二人の唇はすぐに離れる。
「志織」
「ん?」
「今日鯛焼き食べに行こ」
志織は万次郎のそんな可愛らしいお願いに、思わず笑いを溢す。
「いいよ。鯛焼き食べたい」
「ん。じゃあ準備しよ」
「うん」
二人はどちらからともなくちゅ、と唇を合わせると、体を起こしてベッドから出た。
二人きりで出掛けるのは、久しぶりだ。
万次郎も志織も、久しぶりのデートに心を踊らせながら、出掛ける準備を進めていた。
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