【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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翌朝、落ちていた意識が少しずつ浮上し、ゆっくりと万次郎の瞳が開かれる。
万次郎はそこですぐに、違和感に気付いた。
いつもなら朝が弱い万次郎を志織が優しく起こしてくれるのに、今日はそれがない。
けれど自身の腕の中にある温もりは、間違いなく志織のもので。
きっと昨日色々あって疲れているのかと、万次郎は寝惚けた頭で考えながら、そっと志織の頬に触れた。
その瞬間、万次郎の思考回路は一気に覚醒する。
触れた肌から感じる温度が、いつもよりも明らかに熱い。
「志織!?」
万次郎が飛び起きて志織の顔を覗き込むと、頬を赤く染めて苦しそうに呼吸を繰り返していた。
万次郎は慌ててベッドから出て母屋の台所へ向かい、食事の準備をしていたエマに物凄い形相で声をかけた。
「エマ…ッ!志織が!!志織がおかしい!」
「へ?何?」
「いいから来て!」
万次郎はエマの手を引いて、志織の元へ戻ろうとする。
エマは火にかけていた味噌汁のコンロのスイッチを切り、万次郎の後をついていった。
部屋へ戻ると、志織はベッドの上でぐったりとしていた。
エマが志織の額に触れると、一瞬で異変を感じる程熱くなっていた。
「志織ちゃん、熱あるみたい……」
「志織、死なねえよな!?すげえ苦しそうだしなんかの病気なんじゃ……」
「多分昨日、長時間雨に濡れてたからだと思う。ごめんね志織ちゃん…ウチが助けてなんて言ったから……」
「……エマの……せいじゃないよ……」
「志織!」
志織が目を開くと、万次郎は心配そうな表情を浮かべながら、ベッド脇に腰を下ろす。
「ただの風邪だから……。寝てれば治るから……」
「志織……!」
「マイキー、ウチ体温計とか色々とってくる!ちょっと待ってて!」
エマが、パタパタと部屋を出ていく。
二人きりになった室内で、万次郎は眉を下げ今にも泣き出しそうな表情で、##NAME##を見つめていた。
「まんじろー、大丈夫だから……。そんな顔しないで」
熱を帯びた志織の手が、万次郎の頬に触れる。
万次郎は、その手を優しく握った。
「どっか痛い?苦しい?」
「ちょっと……。でも大丈夫……」
「何か、俺に出来る事ある?」
「ありがと…。でも万次郎に移しちゃうかもだから……」
「やだ!俺ここにいる!」
不安そうな表情を見せる万次郎に、志織はぎゅっと胸が締め付けられるような思いだった。
思わず志織の口からは、ごめんねという謝罪の言葉が滑り落ちていく。
万次郎はそんな志織に、何度も首を横に振って見せた。
「志織は悪くないから。してほしい事何でも言って?」
「じゃあ、手繋いでて……?」
「ん、分かった」
万次郎がそっと指を絡め優しく手を握ると、志織は小さく微笑んだ。
そこで扉が開き、エマが体温計や熱冷ましを手に戻って来た。
「マイキー、これ志織ちゃんのおでこに貼ってあげて」
「うん」
エマはシートタイプの熱冷ましを箱の中から一枚取り出して、万次郎に手渡す。
万次郎はそれを受け取ると透明のフィルムを剥がし、そっと志織の額に貼り付けた。
ひんやりとした感覚に、志織が心地よさそうな顔をすると、万次郎は優しく頭を撫でた。
「志織ちゃん、熱計ってみて?」
「うん、分かった…」
「お粥作るけど、食べられそう?」
「ありがとうエマ…。少しなら食べられると思う…」
「分かった。じゃあ作って来るね」
エマは体温計を万次郎に渡すと、再び部屋を出ていった。
体温計を脇に挟んで少しすると、ピピピという音が鳴る。
万次郎は志織の服の中に手を入れて、体温計を取り出した。
「38.4……。高いね……」
「うん……」
「お粥出来るまで寝てていいよ。俺ここにいるから」
「うん、ありがとう」
空いている方の手で、志織の頭を優しく撫でる。
すると志織は安心したように目を閉じ、すぐに眠りに落ちた。
小さな寝息を立てる志織の頭を、万次郎はずっと撫で続けていた。
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