【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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龍宮寺と武道を乗せた救急車の中では、龍宮寺の応急処置が行われていた。
けれど出血量が多すぎた龍宮寺はかなり危険な状態で、車内は緊迫していた。
「ドラケンくん!」
ここで龍宮寺が死んでしまっては、元も子もない。
今回のミッションは、龍宮寺の命を救う事なのだ。
「大丈夫なんですか!?」
「かなり危険な状態だ!座って!」
武道は、祈った。
ただひたすらに、龍宮寺が無事でいてくれる事を、両手を握りしめて祈った。
手の痛みさえ気にならない程、今の武道の頭には龍宮寺の事で埋め尽くされている。
そんな武道の眼前に差し出されたのは、龍宮寺の手だった。
「ドラケンくん!」
龍宮寺は武道を見つめながら、ニコと笑って見せた。
差し出された手を、武道はガシッと握る。
「ありがとなタケミっち。お前は俺の恩人だ」
「止してくださいよ。そんな言葉、ドラケンくんに似合わないッスよ」
「マイキーを…頼む…」
「……え?」
その瞬間、心電図のピーーという音が車内に響いた。
救急隊員たちが、心肺停止だと声を荒げながら、龍宮寺へ処置を行う。
龍宮寺の目はもう閉じられていて、手も動かないままだった。
目の前の光景が信じられなくて、けれど冷や汗が頬を伝って落ちる。
涙が、滲む。
「ドラケンくん───ッ!」
武道がどれだけ龍宮寺の名を呼んでも、その目が開く事はなかった。
ようやく病院へ到着し、すぐに手術室へと運ばれたが、武道の体は恐怖と不安に震えていた。
それから少しして病院へ到着した志織たちに、武道は龍宮寺の容態について伝えた。
それを聞いた途端、エマはポロポロと涙を流して、志織と日向にしがみつく。
「嘘だよ…嘘って……」
「そんな…心肺停止って」
医師の覚悟して下さいという言葉に、頭が真っ白になる。
「怖いよぅ、志織ちゃん、ヒナぁぁ」
「エマちゃん」
志織は黙って、ただエマの背中を擦る事しか出来なかった。
龍宮寺が死ぬなんて信じられないのに、聞こえてくる言葉がどれもそれを示唆するものばかりで、恐怖で押し潰されそうだった。
「タケミっち!」
そこへ、三ツ谷と林が駆け付ける。
武道は二人にも、今回の経緯を説明した。
三ツ谷が悲痛な表情で、拳を壁に叩き付ける。
「クソッ」
「嘘だろ…キヨマサが?」
「病院着く前に……もう…脈が……」
どうして、こうなってしまったのか。
そんな答えの出ない問いかけが、ぐるぐると思考回路を巡る。
頭も心も、やり場のない感情に埋め尽くされた。
「タケミっち」
「マイキーくん、ドラケンくんが!」
そう言いながら武道が万次郎に駆け寄ると、万次郎は聞こえてたよ、と武道の話を遮った。
「待合室どこ?」
「万次郎…」
「マイキぃぃ」
「マイキーっ!」
「マイキー!!俺……!!」
「みんなうるせぇよ。病院なんだから静かにしろ」
万次郎はそう言って、手術室の扉の向かい側に設置された椅子へ、静かに腰を下ろす。
そして不意に顔を上げ、落ち着いた声色で話し始めた。
「……ケンチンはさ、昔っから言った事は絶対ェ守る奴なんだ。こんなトコでくたばんねぇよ。そんな不義理絶対ェしねぇ。アイツ、俺と天下獲るって約束したからな」
万次郎は、笑顔を浮かべてそう言って見せた。
鼻の奥がツンとして、涙が溢れそうになるのを志織は必死に我慢した。
「だからエマ、志織、三ツ谷、ぺーやん、タケミっち。ケンチンを信じろ」
万次郎の言葉が、不安と恐怖に押し潰されそうになっていた皆の心を、救ったようだった。
皆、龍宮寺の手術が終わるのを、静かに待っていた。
それから、どのくらいの時間が経っただろう。
手術中のランプが、ようやく消えた。
それを見て皆が徐に立ち上がり、手術室の扉を見つめる。
「手術が終わった…」
心臓が壊れてしまいそうな程、音を立てていた。
いくら龍宮寺は助かると信じても、これから突きつけられるかもしれない現実に、どうしても心臓が大きく脈を打つ。
扉が開き、中から医師が出てきた。
皆、爪が皮膚に食い込む程に拳を固く握り締めながら、医師の言葉を待った。
「…一命はとりとめました」
「へ?」
「手術は成功です」
その言葉を聞いた瞬間、嬉しさで涙が溢れて、武道はここが病院だと言うことも忘れて叫んだ。
「よっしゃああああ!!」
「やったぁー!ドラケンくんが助かった!」
皆、涙を流しながら龍宮寺の無事を喜んだ。
押し潰されそうな不安から解放されて、弾けるような笑顔を、皆思わず浮かべている。
龍宮寺の無事を、外で待つ東卍メンバーたちにも知らせなければ。
そう言った三ツ谷の言葉に頷き、武道たちは病院の外へと向かった。
外に出ると、あれだけ降り続いていた雨も、既に上がっていた。
「あ、どうしよう!こんな時間だ!0時過ぎてる!」
「もう8月4日じゃん」
「え?」
日向とエマの会話を聞いていた武道の口から、思わずそんな声が漏れた。
「もう8月4日……?」
武道は思わず、ペタリとその場に座り込んだ。
今回のミッションは、8月3日、龍宮寺堅を救う事。
龍宮寺が生きているまま日付が変わったという事はつまり、今回のミッションは成功だ。
止めどなく溢れる涙が、武道の頬を濡らしていく。
もう駄目だと、思った事もあった。
あまりの痛みに、逃げ出したくなる事もあった。
けれどその度に自分を奮い立たせ、がむしゃらに突き進み、遂に龍宮寺の死を阻止する事に成功したのだ。
武道は未来にいる直人に伝えるように、何度もその拳を握り締めながら、人知れずミッションの成功を喜んだ。
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