【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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帰りのホームルームが終わると、篠崎志織は机の横に掛けていた鞄を取って肩にかけ、周囲にいたクラスメイトに挨拶をして教室を出た。
志織が向かうのは、恋人である佐野万次郎のクラスだった。
万次郎のクラスも既にホームルームが終わっていたようで、ドラケンこと龍宮寺堅が机に突っ伏して眠る万次郎に声をかけていた。
「ケンチン、万次郎まだ起きない?」
「おー志織。ああ、全然起きねえ」
「おーい万次郎~。もう学校終わったよ~」
志織は万次郎の机の脇にしゃがみ込み、万次郎の肩を優しく揺すりながら声をかけた。
「……んー、志織……?」
「おはよう。もう学校終わったよ」
「んー……」
万次郎は机に預けていた上半身をゆっくりと起こし、まるで子供のように目をごしごしと擦った。
恋人のそんな可愛らしい一面を見て、志織は思わず小さく口元を綻ばせる。
これでも万次郎は、東京卍會の総長を立派に務めているのだから驚きだ。
「おいマイキー、行くぞ」
「うん」
「何か用事でもあるの?」
「下の連中が喧嘩賭博とか、なんか下らねえ事やってるらしいんだよ」
「そうなんだ。じゃあ私先に帰った方がいい?」
「いや、志織も来ていいよ。そんでその後うち来て」
「うん、万次郎がそう言うならそうしようかな」
「どうせなら泊まって行きなよ」
「ほんと?お泊まり久しぶりだから嬉しい」
志織は嬉しそうに笑って言った。
そして制服のポケットから携帯を取り出し、万次郎たちと廊下を歩きながら母親へ連絡を入れた。
学校を出てすぐに、どら焼きが食べたいと言い出した万次郎の気まぐれに付き合ってコンビニに行き、やっと喧嘩賭博が行われているという公園へ辿り着いた。
「もう引けよ武道!十分気合い見せたよ!」
「引けねぇんだよ!!引けねぇ理由があるんだよ!!東京卍會、キヨマサ。勝つには俺を殺すしかねーぞ」
顔も体も傷だらけで所々血が滲み、目には涙を浮かべているというのに、笑みを浮かべて目の前の敵に向かっていく少年がそこに立っていた。
そんな少年の佇まいに、志織は思わず、息を呑んだ。
「おい、キヨマサ」
「あ?」
「客が引いてんぞー」
ひりつく空気の中へ、龍宮寺は入っていった。
その声に、その場にいた全員が視線を龍宮寺へ移す。
「ムキになってんじゃねーよ、主催がよー」
東京卍會副総長の突然の登場に、ギャラリーに緊張が走る。
だがその緊張を破ったのは、万次郎だった。
「ねえねえケンチン?」
「あ!?そのあだ名で呼ぶんじゃねーよマイキー」
「どら焼きなくなっちゃった」
全く空気を読めていないような万次郎の振る舞いに、千堂たちは呆気に取られていた。
だが千堂たちの周りにいたギャラリーたちは、一斉に頭を下げた。
その真ん中を躊躇なく進んでいく万次郎に、龍宮寺と志織も続く。
「お疲れ様です!総長!!」
──こいつが、東京卍會のトップ佐野万次郎!?
武道は息を切らしながら、ただただ万次郎を見つめた。
探していた人物が突然目の前に現れ、ドクンドクンと心臓が暴れ出す。
これまでどうにも歯が立たなかった赤石や清水でさえ、万次郎の前では小さく見えた。
万次郎は赤石にも清水にも目をくれず、ただ真っ直ぐに武道の方へと歩いていった。
「あ…ああ…」
武道の口から、情けない声が漏れ出る。
そのまま近づいてきた万次郎にずいっと顔を覗き込まれた武道は、思わずその場に座り込んだ。
「お前、名前は?」
「は…花垣武道」
「…そっか、タケミっち」
「へ?タケミっち?」
「マイキーがそう言うんだからそうだろ?タケミっち」
「へっ!?」
すると万次郎は地面に座り込んだ武道の後頭部に手を回し、真っ直ぐ武道の目を見る。
「お前、本当に中学生?」
その言葉に武道は一瞬ギクリと肩を震わせるが、万次郎は笑みを浮かべてこう言った。
「タケミっち。今日から俺のダチ!な!」
「へ!?」
万次郎が武道から離れると、今度は志織が武道の傍までやって来た。
そして武道の前にしゃがみ込むと、持っていたハンカチで武道の顔についた血を拭った。
「あ……ハンカチに血が…」
「いいから。怪我大丈夫?タケミっち」
「へ?あ、はい…アリガトウゴザイマス…」
志織に礼を言いながら、武道は清水の元へ向かう万次郎の方へふと視線を移した。
「お前がコレの主催?」
「は…はい!」
万次郎はニコッと笑みを浮かべたかと思うと、脚を振り上げて清水の顔面を蹴り飛ばした。
そしてそのまま髪を掴むと、何度も顔面に拳を叩きつける。
「誰だお前。オイ」
そして顔中を腫らした清水を地面へ放ると、万次郎はその頭を踏みつけた。
「さて帰ろっかケンチン。志織も帰るよー」
「はーい。じゃあタケミっちまたね。これあげるから後でちゃんと手当てするんだよ」
「あ、ハイ…」
志織はハンカチを武道に渡すと、スッと立ち上がって万次郎の元へ駆け寄っていく。
「喧嘩賭博とか下らねー」
「東卍の名前落とすような真似すんなよ」
「タケミっち!またね!」
万次郎は振り返って武道にそう言うと、志織と龍宮寺を連れてその場から立ち去った。
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