【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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どしゃ降りの雨が尚も降り続く中、濡れた地面に倒れ込んでいるのは皆、清水一派の者たちだった。
最後に残った一人も志織の拳を頬に食らい、鼻血を吹き出しながら地面に倒れ込む。
「万次郎の大切なものを傷付ける奴は、許さないから……」
その声は雨音に掻き消されて、誰の耳にも届かなかった。
けれど地面に転がる者たちを冷たい視線で睨みながら、確かに志織はそう吐き捨てた。
「志織さん…?」
武道がそう声をかけると、志織は肩で息をしながらも、くるりと振り向いて笑って見せた。
「勝った」
あっけらかんとしたその表情を見た途端、武道は体の力が一気に抜けるような感覚を覚えた。
千堂たちも荒い呼吸を繰り返しながら、緊張の糸が切れたようにその場に座り込む。
「ふー!」
「こんな事してる場合じゃない!早くケンチンとタケミっちを救急車まで運ばなきゃ!」
「そうっすね!」
志織が携帯でエマに連絡をすると、救急車を誘導中だと言うので、志織たちはその場で待つ事にした。
それからすぐ、日向とエマの誘導によって、ようやく救急車が到着した。
「タケミチくん!救急車来たよ!」
「ヒナ!エマちゃん!」
救急隊員が押してきた担架に龍宮寺を寝かせ、救急車へと運ぶ。
手を怪我した武道も救急車に乗り込み、共に病院へと搬送された。
龍宮寺は出血が多く、危険な状態だ。
一刻も早く病院に運び適切な処置をしないと、命が危ない。
「ドラケン、病院で待ってるからね」
「ああ」
「タケミっち、怪我してるのにこんな事言うのごめんだけど、ケンチンの事よろしくね」
「はい」
二人を乗せた救急車が発車したのを見届けると、志織は泣きじゃくるエマを支えながら、日向や溝中の面々と病院へ向かった。
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武蔵神社の駐車場に無数に転がっているのは、乱闘で伸された者たちだ。
三ツ谷はその中に座り込んで、深いため息を吐き出した。
「マイキーは?」
「あっち」
その視線の先を見ると、駐車場の真ん中で半間と対峙する万次郎の姿があった。
「ハハ。やっぱダリィ、マイキー。息も上がってねぇのかよ」
「うっせぇ、早く死ね」
するとバイクのエンジンが鳴り響き、万次郎はそちらへ視線を移した。
バイクに跨がった男が、半間を呼ぶ。
半間はおう、と返事をして、そちらへ足を向けた。
去り際半間は不適な笑みを浮かべ、万次郎を指さしながら言った。
「マイキー!もうすぐ関東最凶の暴走族連合が誕生する!"芭流覇羅"だ!俺は、芭流覇羅初代副総長、半間修二。覚えておけマイキー。この先東卍に平和はねぇぞ」
半間はそれだけ言うと、バイクの後ろに乗り込み、去って行った。
この先の東卍に平和はない、そう言った半間は、一体何をするつもりなのか。
その真意は分からないけれど、今はそれどころではない。
一刻も早く、龍宮寺の元へ向かわなくてはいけないのだ。
万次郎は不安な気持ちを抱えたまま、龍宮寺が搬送された病院へと愛機を走らせた。
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