【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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地面に倒れ込んだ武道に日向が駆け寄ろうとすると、武道はそれを制止した。
「来んな、ヒナ!」
清水は、伸した。
けれどまだ、赤石たちがいる。
立っているのもやっとな今の状況ではきっと、生きてここを切り抜けるのはほぼ不可能。
つまり、ミッションは失敗だ。
「気ィ済んだ?」
「キヨマサダサッ!」
「いい冥土の土産が出来たじゃん!」
武道を嘲笑う赤石たちの笑い声が、鼓膜を揺らす。
武道は今にも倒れそうな体に鞭を打ち、後ろにいる日向に言葉をかけた。
「ヒナ。エマちゃんと逃げて」
「タケミチくん…」
「俺らだけなら何とかなるから……頼む…!」
痛む体から声を絞り出すように、武道は言う。
日向はビクッと体を震わせながらも、その言葉に頷いた。
日向がその場から離れる為に振り向くと、その視線の先にいたのは、ずぶ濡れになった志織だった。
エマから連絡を受けてここまで走ってきた志織は、膝に手を着いて、苦しそうに呼吸を繰り返す。
「志織さん!」
日向のその声に、エマも武道も龍宮寺も、驚きの表情を浮かべながら後ろを振り返った。
「ハァ…ハァ…やっと見つけた…」
「志織ちゃん…!」
「ごめん遅くなって……。ここは私に任せて二人は行って」
「志織ちゃん…」
エマの瞳から、ポロポロと涙が溢れる。
志織はエマを安心させるように、エマの頭をポンポンと撫でて、優しく微笑んだ。
「エマ、大丈夫だから」
「う"ん……」
日向とエマがその場を離れたのを確認すると、志織はゆっくりと足を進め、赤石たちの目の前に立った。
「おい、何やってんだ…」
龍宮寺がフラフラの体を動かし、立ち上がる。
「ここは私に任せて。二人とももうフラフラでしょ?」
「だからって、総長のヨメを危ない目に合わせる訳にはいかねぇんだよ」
「そうっすよ!志織さんもヒナたちと逃げて下さい!」
「そんな状態で置いていける訳ないでしょ?もういいから二人は手出さないで」
突然現れてそんなやり取りを始めた志織に対し、赤石たちは苛立ちを募らせていた。
「何言ってんだお前!女に負ける訳ねぇだろ!」
「総長の女だからって、調子乗ってんじゃねーぞ!」
「やっちまえぇ!」
迫り来る赤石たちに向かって、志織も駆け出した。
武道や龍宮寺の制止も聞かず、志織は一直線に走り向かっていく。
そして赤石の手にあった刃物を弾き飛ばすと、トン!と地面を蹴って跳び上がった。
そのまま赤石の頭を両手で掴み、顔面に膝を叩き入れると、バキッと言う凄まじい音が鈍く響く。
赤石は地面に倒れ込み、動かなくなった。
武道はその光景に唖然として、大きく目を見開く。
「え……飛び膝蹴り……?」
「あーあ、しょうがねぇなうちの総長のヨメは」
「え、志織さん……え?」
「アイツ、マイキーん家の道場に通ってたんだよ。だからその辺の男より全然強ぇんだ」
「そ、そうなんすか……」
武道の視線の先には、先ほど弾き飛ばした刃物を、手の届かないところへ蹴り飛ばす志織が映る。
あまりの衝撃に、武道は言葉も出ない。
「ひ、怯んでんじゃねぇ!やっちまえ!!」
今度は一斉に、志織へ襲い掛かる。
けれど志織に殴りかかろうと拳を振り上げた一人は、突然現れた千堂に殴り飛ばされた。
避ける体制をとっていた志織も、思わず驚きの声を上げる。
「えっ!?」
「アッくん!?」
千堂だけでなく、事情を聞いた溝中五人衆のメンバーたちが、全員駆けつけてくれたのだ。
「タケミチ!事情は聞いた!」
「俺らに任せろ!」
「俺らだって、やる時はやるんだよ!」
「ホアッチャア!!」
彼らのその姿に、志織も思わず微笑みを溢す。
「ありがとう、助けてくれて」
「あ、いえ…!」
「みんなで、タケミっちとケンチン守ろう」
「ハイ!!」
志織を筆頭に、溝中五人衆たちも敵に向かって走り出す。
朦朧とする意識の中、助けに来てくれた友人たちの姿を見て、武道は小さく笑みを溢した。
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