【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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目の前の光景に、武道はハァハァと荒い呼吸を繰り返しながら、絶望した。
「あれあれぇ!?死んでねーじゃんドラケンちゃん!」
「おぇーい!なんでザコミチいんのぉ!?」
「カスが、何余計な事してくれちゃってんだ?」
「誰かガムテープ持ってこい!」
清水たちが現れた事で、今度こそ終わったと思った武道は、無意識に後退りをした。
そんな武道を見て、龍宮寺が口を開く。
「タケミっち」
「ドラケンくん……?」
「ありがとな、タケミっち」
「ドラケン!?動いちゃダメ!」
「ヒナちゃんとエマ連れて逃げろ。俺は大丈夫だ」
龍宮寺は、武道の心を察してそう言った。
自分がボロボロなのにも関わらず、武道に逃げろと言った。
そんな龍宮寺を見て、武道は自分の情けなさに涙を流しながら、叫んだ。
「あ"あ"あ"あああ!!」
ここで逃げたら、なんの為に過去にやって来たのか分からない。
「情けねぇ!」
武道は弱い気持ちを吹き飛ばすように、思いっきり息を吐き出した。
大切な人たちの人生を、守らなくては。
ここで逃げたら、もう終わりなのだ。
これはみんなの為だけじゃなく、武道自身の戦いでもあるのだから。
「ヒナ」
「え?」
「下がってて」
「なんだテメェ?死にてぇのか?コノヤロウ」
──これは、俺の人生の…
「リベンジだ」
「……タケミチくん」
一人で清水に立ち向かう武道を、日向もエマも龍宮寺も、後ろから静かに見つめていた。
「キヨマサくん、決着ついてなかったよな」
「あ?」
「喧嘩賭博のタイマンの決着!」
「……は?」
「何言っちゃってんだテメェ!?どう見てもテメェの負けだろーが!」
「負けてねぇよ」
そう言い放つ武道に、清水は青筋を浮かべ、鋭い視線を武道に向けた。
「へー。タケミっちに一億円!」
「へ?」
「くだらねェけど乗ってやるよ」
「ヒナも!タケミチくんに一億円!」
「エマも!タケミっちに一億円!」
「ヒナ!?エマちゃん!?」
けれど清水たちは馬鹿にしたように笑い、罵声を浴びせる。
「コイツら、切羽詰まってどうかしちまったんじゃねぇか?」
「してねぇよ」
「あ?」
「タケミっちが勝つ!」
龍宮寺も日向もエマも、意思の宿った瞳をしていた。
それは、武道が勝つと心の底から信じている、そんな瞳だった。
そんな想いを背負って、武道は清水に向かって走っていく。
「行くぜキヨマサ!勝負だ!」
そして武道は清水に向かって、拳を振り下ろす。
けれど次の瞬間、振り下ろした武道の手にはナイフの刃が突き刺さっていた。
あまりの痛みに、武道は腕を抑えながら声を上げる。
「あ"あ"あ"あ"あ"」
「なんだよ、殺したと思ったのに。意外と反応いいな」
「タケミチくん!!」
「あ"…あ"っあ……」
「タイマンなんてする気ねえよ。ただの処刑だろ?」
清水は己に立ち向かう武道を嘲笑うかのように、そう言った。
「ぶはっキヨマサ最高~!」
「殺してやるよ、花垣」
武道は左手に刺さったナイフを痛みに耐えながら引き抜き、地面に投げ捨てる。
そして、涙と汗と雨で顔をぐしゃぐしゃに濡らしながら、もう片方の手でもう一度清水に殴りかかった。
何度殴り返されても武道は諦めず、地面に転がされる度に立ち上がって、清水に向かっていった。
武道を突き動かしているのは、もはや気持ちだけなのかもしれない。
けれど武道は決して折れずに立ち向かい、ついに清水の腰にしがみついた。
そのまま腹部を蹴りあげられても、武道はその手を離そうとはしなかった。
「タケミチくん!」
「花垣ぃ!女が幻滅してんぞ!?ハエみてーに弱ぇってよぉ!」
「しがみつくしかできねーのか!?ダセェ野郎だなぁ!」
赤石たちがそう言って、武道を嘲笑う。
けれど、どんなになじられても武道は引かなかった。
武道は清水の腰にしがみついたまま、目の前の脇腹に噛みついた。
「っ痛ぇ!!」
「噛みつきやがった!」
「みっともねぇ真似してんじゃねーぞ、花垣!」
「小学生か!!」
「離せゴラァァ!!」
みっともなくても、ダサくてもいい。
ここだけは、譲るわけにはいかないのだ。
武道は清水の背後に周り、首に腕を掛けた。
「マイキーくんになれなくたっていいっ!俺はッッ!花垣武道だ!!」
武道のその言葉を聞いた瞬間、日向は自分自身が武道にかけた言葉を思い出していた。
──タケミチくんは、タケミチくんだよ。
雨に混じった涙が、ポロッと日向の頬を伝う。
「離せゴラァァ!!」
「絶対離すな、タケミっち!」
「うおおおお!!」
武道は自分が持てるだけの、ありったけの力を腕に込めた。
「あがっ……」
武道の腕を掴んでいた清水の手から力が抜け、ドサッと音を立て膝から崩れ落ちる。
失神した清水は、武道を下敷きにして倒れた。
「リベンジ…成功……」
武道は大きく呼吸を繰り返しながら、笑みを浮かべてそう呟いた。
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