【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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ついに火蓋が切られた、祭りの日の大乱闘。
どしゃ降りの雨が降り続く駐車場のあちこちで、東卍と愛美愛主のメンバーたちが殴り合いの喧嘩を繰り広げていた。
そんな中、武道は龍宮寺の殺害を阻止する為、人混みの中を必死に探し回っている。
だがこの人混みと雨という悪条件で視界が悪く、龍宮寺の姿は見つけられずにいた。
けれど、何が何でも龍宮寺を守らなければならない。
親友の死も、最愛の人の死も、もう見たくないから。
武道は滲む涙を腕で拭って、再び龍宮寺の姿を探し始めた。
同じ頃、万次郎は雨の中一人で立ち尽くす林の元へ、向かっていた。
「ペー!!」
「マイキー……」
だが、愛美愛主のメンバーたちが束になって、万次郎に襲い掛かる。
万次郎は目の前の敵を次々に薙ぎ倒しながら、林へ問いかけた。
「なんでケンチン襲った!?俺とケンチンが和解したのは知ってたろ!?愛美愛主まで使って、汚ねぇ真似してんじゃねぇぞ!」
「勝手に和解とかしてんじゃねぇよ!俺は納得いかねぇぞ!」
「パーの話はもう終わりだ!」
「終わんねぇよ!パーちん捕まったのになんもしねぇで終わり!?笑えねーよ!こうするしかねぇだろぉ!?」
林は、万次郎の頬を殴り付けた。
けれど万次郎は何も言わず、抵抗もせず、ただ黙って殴られ続けた。
「パーちんは俺の全部なんだよ!!東卍がパーちん見捨てんなら敵になるしかねえだろ!来いよマイキー!なんで殴り返さねえんだよ!俺なんか一発だろ!?」
万次郎は声を荒げる林の首元に手を回し、そのまま自分の方へ引き寄せた。
「俺を見ろ。笑ってるか?」
その問いに林は答えず、荒い呼吸をただひたすら繰り返していた。
それでも、万次郎は続けた。
「パーちんが捕まって笑ってるかよ?」
万次郎の言葉に、林の瞳が微かに揺れる。
「辛ぇよ……。……俺とケンチンが争って、東卍がバラバラになるのは悲しいって、タケミっちがそう言ってた。みんなが争っちまうって、俺はそんな事考えてなかった。だから、気が済むまで俺を殴れ」
「…………マイキー…」
「俺は、お前と争いたくないんだ。それで全部チャラにして戻ってこい。ぺーやん」
林の目に、涙が滲む。
後悔の混じった涙が、雨と一緒に頬を流れて、そのまま地面へと落ちていった。
雨音に交じり、あちこちで怒号や殴打する鈍い音が響く。
そんな人混みの中を駆けずり回り、武道は龍宮寺と清水を探していた。
殴り飛ばされた者が武道の背中に衝突し、武道はそのまま地面へと転がる。
「急いでんのに…ッ!くっそー!」
痛む身体を無理やり起こして立ち上がり、二人を探す為に、武道は再び歩を進める。
その時武道の横を通りすぎたのは、今正に探していた清水だった。
心臓が大袈裟な程に脈を打ち、呼吸が荒くなる。
清水を、止めなければ。
龍宮寺を、助けなければ。
けれど武道のその想いは、一瞬にして打ち砕かれる事となる。
清水が手に持っていた短刀の刃には、血液が付着していた。
心臓が、嫌な音を立てる。
「やってやったぜ…やってやったぜ…」
清水は怪しげな笑みを浮かべ、何度もそう呟いていた。
過呼吸のような短い呼吸を繰り返しながら、武道がゆっくりと後ろを振り向く。
そこには、地面に倒れ込む龍宮寺の姿があった。
「ドラケンくん……!!」
武道は涙を滲ませながら、龍宮寺の元へ駆け寄った。
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