【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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待ち合わせ場所で武道と龍宮寺が談笑しているところに、浴衣姿の日向とエマがやって来た。
「ごめーん、お待たせ!」
「すげー待ったし」
浴衣を纏った日向の姿を見て、自然と武道の口元が綻ぶ。
「…あれ、マイキーくんたちは?」
「あ、なんか急に用事が出来たみたいで、二人とも今日は来れないって」
「まあ、志織ちゃんは家にいるみたいだけど」
「そうなんだ」
武道は残念だねと返したけれど、この時の武道は完全に浮かれていた。
万次郎と龍宮寺の喧嘩は止めたのだから、内部抗争は起きない。
ミッションは成功だ。
だから今だけは、ご褒美として日向とのお祭りデートを楽しみたいと。
「ねぇ、エマちゃんたち行っちゃったよ!早く早く!」
「うん!俺らも行こう!」
けれどまだ、何も終わってはいない。
人生の中で最も長い祭りが始まろうとしている事も、武道はまだ知らずにいた──。
日向と二人でお祭りを満喫していると、突然雨が降り始めた。
あっという間に雨脚が強まり、武道と日向は慌てて大きな木の下に避難した。
そこは先程とは打って変わって、人影は一つもない。
予期せず二人きりになった事に、武道は少しそわそわしていた。
けれどそんな武道とは裏腹に、日向は突然その場にしゃがみ込んでしまう。
「ん?どうしたの?」
「下駄のサイズ、合ってなかったみたい」
「あ!」
武道が日向の足元を見ると、親指の付け根から出血しているようだった。
鼻緒が当たってしまっていたのだろう。
けれど、ここには座れそうな場所はない。
どこか座れるところへ移動しようと、武道は日向の肩に手を回して支える。
「大丈夫!?立てる?」
武道に支えられながら、日向が立ち上がる。
けれどその瞬間日向の足に痛みが走り、日向はバランスを崩してしまう。
それにつられて武道もよろけてしまい、左腕に日向を抱いたまま目の前の木に右手を付いた。
転倒を免れた事に安堵したのも束の間、武道はあまりの距離の近さに気付いて、慌てて日向を抱き締めていた手を離し、距離と取ろうとした。
けれどそれは、少し遠慮がちに武道の服の裾を掴んだ日向に阻止される。
そんな日向の行動に、武道の心臓は大きく音を立てていた。
激しい雨の中、周りに人は誰もいない。
雰囲気に飲まれて、胸の鼓動はどんどんと加速していく。
そしてそのまま日向とのファーストキスの瞬間を迎える時、邪魔をしたのは携帯の着信音だった。
「今人生の一大事なんだよ!かけ直す!」
「あ、タケミチ。雨すごくなーい?」
電話の相手は溝中五人衆の一人、山岸だ。
「山岸テメェ、そんな事で電話すんじゃねーよ!」
「マイキーくんとドラケンくんと今一緒?」
「……ドラケンくんと一緒だよ。マイキーくんは今日来れないって言ってたけど、それが何?」
「あ、じゃあドラケンくんに…気を付けてって伝えといてよ」
「え、なんで!?喧嘩終わったのに」
「この前二人は仲直りしたじゃん?でも俺新情報手に入れてさ。東卍のマイキー派の奴がドラケンくんを的にかけてるらしいよ」
「え、どういう事!?」
「下の連中はまだ納得してなくて、ヒートアップしてるみたい。第二次抗争だな!」
それを聞いた瞬間、武道は言葉を失った。
嫌な予感が全身を駆け巡り、心臓がドクンドクンと音を立てる。
抗争はまだ、止まっていないのかもしれない。
武道はその場に日向を残して、龍宮寺を探しに走り出した。
その道中、東卍の特攻服を身に纏った集団を見つけ、武道は物陰からその様子を伺った。
万次郎たちかとも思ったが、よく見るとそこには愛美愛主の特攻服を着た者もいる。
愛美愛主のメンバーは東卍メンバーの一人に声をかけると、何かを手渡した。
それは短刀のようで、それを受け取ったのは、以前東卍の名を使って喧嘩賭博を行っていた清水だった。
龍宮寺殺害の犯人は、清水なのかもしれない。
武道はそう思った。
けれど、物陰に隠れて様子を伺っていたところを赤石に見つかり、武道は清水の元に引きずり出されてしまう。
そして武道は清水たちに何度も殴られ、ガムテープでぐるぐるに縛り上げられてしまった。
己の弱さを、痛感した瞬間だった。
▼
外から、激しい雨音が聞こえる。
志織は一人、万次郎の帰りを待っていた。
ベッドに腰掛け、いつも万次郎が愛用しているボロボロのタオルケットを、その胸に抱き締める。
「遅いなあ、万次郎…」
万次郎からは、特に何も連絡はない。
先程送ったメールにも、何度問い合わせても返信はないようだった。
妙な胸騒ぎが、止まらない。
不安に押し潰されそうになりながら愛しい人の帰りただ待つのは、苦しいものだった。
そんな志織の元へ届いたのは、一通のメールだった。
志織はそのメールを見ると、慌てて外へ飛び出し、傘も差さずにどしゃ降りの中を駆けていった。
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