【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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渋谷にやって来た志織とエマは、若者が集まるショッピングモール内のとあるアクセサリーショップにいた。
学生でも手が出しやすいリーズナブルな価格設定でありながら、多種多様なデザインのアクセサリーが購入出来ると評判の店だ。
日向から送られて来た浴衣の写真を見ながら、それぞれの浴衣に合うアクセサリーを探していく。
「浴衣だと首元はなかなか見えないし、耳に付けるのが丁度いいかなあ」
「そうだねー」
志織とエマはそんな会話をしながら、ピアス・イヤリングコーナーへと足を向かわせた。
「あ、これ可愛い」
志織はたまたま目に入ったそれを手に取り、じっくりと眺める。
シンプルなデザインのフックピアスだ。
「どれ?」
「これ。でもピアスみたいだから、私付けられないや」
「志織ちゃん、開けてないんだっけ?」
「そうなの。だからイヤリングじゃないとダメなんだけど、でもこれ可愛いなあ……」
志織はもう一度、手に持ったフックピアスをじっくり眺める。
たまたま目に入っただけの物がこんなに諦められないとはと、志織は困ったような表情を浮かべながらも、視線はずっとそのフックピアスに向いていた。
「これを機に開けちゃえば?流石に明日のお祭りには間に合わないけど」
「うーん、それもあり…。けど病院で開けるのは高いし、自分で開けるのは怖いしで、今まで避けてたんだよね」
「だったら、マイキーに開けてってお願いしてみなよ」
「万次郎に?」
「うん。ずっと残る傷になるわけだし、適当な人に開けてもらうより全然良くない?」
「確かに……」
いつの間にか開ける方向で話が進んでしまっている事には特に触れず、志織はエマの言葉に納得し、首を縦に振りながら聞いている。
「そうとなったら決まり!ピアッサー買ってこ!」
エマはそう言って志織の手を取ると、店の入り口付近に陳列されたピアッサーの売り場へ向かう。
そこでピアッサーを二つ選び、そのあと志織が気に入ったピアスや、お祭りに着けていくイヤリングを何点か購入した。
それから二人は渋谷を後にし、夕食の買い物を済ませて帰宅した。
志織が帰るなり、玄関にすっ飛んで来た万次郎の姿を見て、エマは思わず笑ってしまった。
たった数時間離れていただけなのに、まるでもう何年も会っていなかったような勢いだ。
荷物を置いて、エマと二人で夕食の準備に取り掛かっても、万次郎は志織にずっとくっついている。
エマにとっては見慣れた光景ではあるけれど、料理しにくくないのかと毎回思ってしまう。
「もうマイキー。また志織ちゃんの邪魔して」
「だって俺の事置いて、二人で出掛けちゃうんだもん。充電!」
「全くマイキーは……」
呆れたような表情を見せるエマに、志織は大丈夫だよと笑って見せる。
そんな志織を、万次郎は愛しそうに見つめていた。
「ほんと、バカップルってこういう事を言うんだろうな」
そんな事を言いながらも、幸せそうに笑う兄たちを見てエマもまた、その口元を綻ばせた。
▼
その日の夜。
志織が購入してきたアクセサリーが入っている袋が、万次郎の自室のテーブルに無造作に置かれていた。
封が開いているその袋から飛び出している箱が見え、なんだろうと万次郎が手に取ってみると、それはピアッサーだった。
「志織、何これ?」
「あ、それピアッサー」
「なんでこんなんあるの?ピアス開けたいの?」
「うん、今日見つけたピアスすごい気に入って買っちゃったの。でもピアス開いてないから、これを機に開けようかなと思って」
「あーそういう事」
「うん。ねえ、万次郎が開けてくれない?」
「俺?」
「そう、俺。どうせ開けるなら万次郎に開けて欲しいなって。ほら、ピアスの穴ってずっと残るし」
「残るから俺に開けてほしいの?」
「うん。あ、でも万次郎が嫌なら他……」
「ダメ。やめて。俺が開けてあげるから」
志織の言葉を遮って、捲し立てるように万次郎は言った。
「本当?ありがとう!」
「うん。だから他の人には絶対開けさせないでね」
「分かった!絶対万次郎以外には頼まない!」
「ん」
「じゃあもう寝よ!明日はトリプルデートだよ」
万次郎は手に持っていたピアッサーをテーブルに置くと、志織のいるベッドへと足を進めた。
電気を消して二人でくたびれたタオルケットを被ると、ぴったり肌をくっつけて目を閉じた。
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