【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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花垣武道は駅のホームから線路へ転落し、電車に轢かれて死んだはずだった。
にも関わらず、武道は駅の医務室で目を覚ました。
それも、怪我一つない無傷の状態で。
なぜあんな状況で助かったのか、あの妙にリアルな走馬灯はただの夢だったのか、混乱する武道の前に現れたのはスーツを着た青年だった。
その青年は橘直人と名乗り、武道にとんでもない事実を告げた。
「君はタイムリープしたんです。そして僕は生き永らえて、武道くんを助けた。武道くんはタイムリープした事で、未来を変えたんです」
直人の言葉に、武道の心臓はドクン…ドクン…と大袈裟な程に音を立てる。
確かに武道はタイムスリップし、2005年の橘直人に、彼の姉であり自身のかつての恋人だった橘日向を守って欲しいと言った。
あれが夢や走馬灯でないとしたら、直人の言っている事の辻褄は合う。
「僕は必死に勉強して刑事になりました。姉を守るために」
「じゃあ、橘は!」
「……。すいません武道くん…姉は死にました」
直人は下を向いて絞り出すような声で、そう武道に告げた。
「考えられる手は全て尽くしたんです。でも…でも!──僕に協力して下さい!君なら!姉さんを救える!」
武道はそれから直人の部屋に監禁され、ほぼ不眠の状態で犯罪組織"東京卍會"についての知識を叩き込まれていた。
この東京卍會の抗争に巻き込まれ、橘日向は死亡したからだ。
「これ、橘を救うために必要なの?」
「君の能力に問題があるとすれば一つ!"12年前の今日"にしか行けないという事」
直人はこれまでの武道の話から、このタイムリープは12年前の同じ日に戻る事が出来る能力であると推察していた。
12年後まで待ち橘日向が殺される日にタイムリープして救うという方法もあるが、その日を逃せばもう橘日向を救う事が出来なくなってしまう。
たった一日に全てを賭けるのはリスクが高すぎると判断した直人は、武道にあるミッションを課した。
それは、現在の東卍のトップである"佐野万次郎"と"稀咲鉄太"の出会いを阻止する事。
この出会いさえ止めれば、今の東京卍會は存在しない。
東京卍會が存在しなければ、その抗争に巻き込まれて橘日向が死ぬ事もなくなるのだ。
武道は直人の話を聞き、覚悟を決めたようだった。
直人が武道に、右手を差し出す。
タイムリープのトリガーは、直人と武道の握手。
武道が直人の手を握れば、12年前の今日にタイムリープする。
武道はゴクリと喉を鳴らすと、力強く差し出された直人の手を握った。
こうして、花垣武道のリベンジが始まった。
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武道は無事、タイムリープに成功した。
だがタイムリープしたのは喧嘩賭博の真っ最中で、武道は一発で伸され気絶してしまった。
橘日向を助けると意気込んで未来からタイムリープしてきたものの、東京卍會の奴隷であるという現実は厳しいものだった。
何度も殴られて血が滲み、体はボロボロ。
心も折れて一度は未来に帰ろうとした武道だったが、その心を救ったのは12年前の橘日向だった。
翌日、武道は再び喧嘩賭博の場にいた。
友人である山本タクヤを庇う為、武道は勝負に出る。
「キヨマサ先輩。タイマン買ってくれよ」
橘日向を救う為、東京卍會のトップに会う為に、武道は絶対に勝てない相手にも立ち向かう覚悟を決めた。
何度殴られても蹴飛ばされても、武道は諦めずに地面に足を付けて立っていた。
「もう引けよ武道!十分気合い見せたよ!」
「引けねぇんだよ!!引けねぇ理由があるんだよ!!東京卍會、キヨマサ。勝つには俺を殺すしかねーぞ」
呼吸も乱れ、目に涙を浮かべながら、それでも武道は笑っていた。
武道のあまりの気迫に、ギャラリーも息を呑んで静まり返る。
そんな空気を察したのか、清水はバットを持ってこいと声を荒げた。
バットで殴られれば、ひとたまりも無い。
まさに状況は、絶体絶命だった。
「おい、キヨマサ」
「あ?」
「客が引いてんぞー」
そこへ突然現れたのは、男二人と女が一人。
武道にはそれが誰なのか分からなかったが、清水はその三人を見て驚いたような表情を浮かべていた。
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