【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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「武蔵祭り?」
「うん、トリプルデートしようってヒナちゃんに誘われたの」
「それって、ケンチンとエマとタケミっちもって事?」
「そうそう!六人でトリプルデート!」
万次郎と龍宮寺が無事に仲直りした日の夜、万次郎の部屋で二人はそんな話をしていた。
ドライヤーをかけた髪をとかしながら楽しそうにそう話す志織を見て、万次郎はたまには大勢で出掛けるのも良いかと口元を綻ばせる。
そして、ソファに座っている志織の隣に腰を下ろすと、その腕に志織をそっと抱き寄せた。
「うん、いいよ」
「ほんと!?」
ぱっと花が咲いたような笑顔を、志織は万次郎へ向ける。
それが何とも可愛らしくて、万次郎は愛しそうに志織のサラサラな髪を撫でた。
「うん。ねえ、お祭りの時浴衣着てくれる?」
「うん、着るよ!ヒナちゃん家で、浴衣着させて貰える事になったから」
「じゃあ楽しみにしてる、志織の浴衣」
「そう言われるとなんかちょっと恥ずかしいな」
「なんで?いいじゃん」
絶対可愛いから、すげえ楽しみ。
万次郎はそう言って、志織の頬にそっとキスを落とした。
「わ、万次郎……?」
突然の事に驚いて声を上げる志織の手を、万次郎は優しく握った。
そして額、耳にもキスを落とし、最後に唇を塞ぐと、志織は顔を赤く染めて万次郎から施されるキスを受け入れた。
志織が繋いだ手に少しだけ力を込めると、万次郎がそれに応えるように肌を撫でてくれるのが心地いい。
万次郎とのキスは、何か心の奥からじわじわと温かいものが溢れ出して来て、とても幸せな気持ちになる。
だから志織は、万次郎とのキスが大好きだった。
何度か啄むようなキスを交わし、万次郎の舌が志織の唇をペロリと舐める。
名残惜しさに引かれながら唇が離れると、二人は閉じていた目をそっと開いた。
至近距離で万次郎の目に映る志織の瞳が、僅かに熱を帯びて見えて、万次郎はそっと志織の柔らかな頬に指を滑らせた。
「お祭り、楽しみだね」
「うん」
万次郎がそう頷くと、志織は嬉しそうに笑みを溢す。
そんな志織が愛しくて堪らなくなって、万次郎はもう一度噛みつくように目の前の唇を奪った。
▼
翌朝、龍宮寺からもOKの返事が来たと、エマから報告があった。
佐野家の居間で、これでトリプルデート出来るね!と志織とエマは楽しそうに話をしている。
万次郎はそんな二人を、優しい表情で見つめていた。
「そうだ!ヒナから浴衣の写真送って貰ったんだけど、見る?」
「えー見る!」
志織は、エマが持っている携帯の画面を覗き込んだ。
二人で並びながら、この色可愛い!こっちのは柄が好み!と再び始まったお喋りは、色んな話題へと移り変わっていく。
「この浴衣に合うアクセサリー、欲しくなっちゃうね!」
「わざわざ新しいの買うの?色々持ってんじゃん」
「もう分かってないなあ、マイキーは!」
「せっかくのデートだし、ちゃんとお洒落したいの!」
万次郎が口を挟むと、志織とエマは揃って万次郎の方を振り向いてそう言った。
二人のあまりの勢いに、万次郎も思わずたじろいでしまう。
そんな万次郎を他所に二人は、今から買い物にでも行こうか!と盛り上がっていた。
思い立ったが吉日と言わんばかりに、二人は早々に出掛ける準備を終わらせて、玄関へ向かった。
万次郎も着いて行こうと二人の後を追うが、エマに止められてしまった。
「マイキーはダメ!」
「なんでだよ!俺も行く!」
「だってマイキー買い物長いってすぐ文句言うじゃん!だからダメ!ね、志織ちゃん!」
「う、うん。万次郎は今日はお留守番ね」
志織がそう言うと、万次郎は頬をぷくりと膨らませて、やだやだ俺も行くと駄々をこね始めた。
「志織!俺も行く!」
「すぐ帰ってくるから。ね?」
「マイキーはいっつも志織ちゃんのこと一人占めしてるんだからいいじゃん!今日は私の番!」
「だって、志織は俺のだもん」
「ごめんね万次郎。今日の晩御飯はオムライスにしてあげるから。旗もつけてあげる。帰ってきたら一緒に食べよ?」
万次郎は少し考えてから、小さい声で分かったと言った。
はち切れそうな程膨らんでいた頬は元に戻っているが、口はへの字に曲がっている。
不満な様子は変わらないようではあったけれど、何とか二人を見送ってくれた。
玄関を出て駅に向かって歩き始めると、今度はエマが少しだけ頬を膨らませて言った。
「志織ちゃんはマイキーに甘すぎ!いつも言ってるでしょ!」
「ごめんごめん。万次郎のあの顔にはどうしても弱くて」
志織が少し困ったような顔でそう言うと、エマは笑みを溢した。
そんなエマを、志織は不思議そうな目で見つめ返す。
「何?どうしたの?」
「ううん。ただ志織ちゃんて、本当にマイキーが大好きなんだなって」
「えっ……」
エマにそう言われた瞬間、志織の顔は、一瞬にして真っ赤に染まる。
それをエマにからかわれた志織は暑いからだよと、顔が赤いことを夏のせいにして誤魔化した。
エマはそんな志織を見て、また思わず小さな笑いを溢した。
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