【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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龍宮寺は咄嗟に、林田を突き飛ばした。
「何やってんだよ、パー!」
ふらついた林田の体は重力に逆らいきれず、地面に落ちた。
切羽詰まった龍宮寺の声に、万次郎たちも足を止めて振り返る。
その目に映ったのは、地面に座り込む林田と、立ち尽くす龍宮寺。
そしてその二人の間には、腰にナイフが刺さったままの長内が倒れていた。
「嘘……!」
「パー…お前…っ」
目の前に広がる信じがたい光景に足が竦み、志織は思わずその場に立ち尽くす。
喉が締め付けられるようで呼吸すらままならなくて、志織は荒い呼吸を繰り返した。
そうしている間にも、パトカーのサイレンはどんどん近づいてくるのに、志織の脚は震えて力が入らない。
「逃げるぞパー!!」
「ゴメン…マイキー。ぺーやん、参番隊を頼む。……俺自首する」
林田は目に涙を浮かべながら、そう告げた。
その声も、志織の耳には入っているのに、混乱した思考回路では意味を理解出来なかった。
なんで?どうして?
志織の頭の中では、答えに辿り着かないそんな問いかけが、繰り返し行われるだけだった。
「ふざけんな」
「ボーッとしてんじゃねぇ!」
「バカ!置いてけねぇよ!」
「おいタケミっち!志織頼む!」
「……あ、はい!」
龍宮寺が林と暴れる万次郎を抱えて走り出すと、武道も志織の手首を掴んで、その後を追った。
武道に手を引かれながら、志織は後ろを振り返る。
すると呆然と立ち尽くす林田の姿が志織の目に飛び込んで来て、けれどそれはどんどん離れていった。
どうにも出来ない自分の非力さに、どうしようもなく腹が立って、思わず唇を噛み締めた。
今の志織には、ただ武道が引かれるまま前に足を進める事しか出来なかった。
何とか倉庫から抜け出す事は出来たけれど、近くにはまだ警察がいるかもしれない。
なるべく倉庫から遠ざかる為に、志織たちは尚も走り続けた。
けれど長内に何度も殴られ、血をたくさん流した武道の意識は徐々に遠退いていく。
ここで倒れる訳にはいかないと必死に繋ぎ止めていたものがプツリと切れて、武道はとうとう意識を手放してしまった。
ドサッという地面に何かが倒れたような音を聞いた万次郎は、思わずその足を止める。
それに気付いた志織もまた、その場に立ち止まった。
二人が振り返ると、その視線の先には、意識を失った武道が地面に倒れ込んでいるのが見えた。
「……!」
「タケミっち!」
人気のない道に、志織が息を呑む音と、万次郎が武道を呼ぶ声だけが響いた。
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万次郎と志織が家路に着いたのは、もう随分遅い時間だった。
武道が倒れた後、万次郎と龍宮寺は今回の件で対立してしまったのだ。
林田を釈放させたい万次郎と、自首した林田の意志を尊重したい龍宮寺。
それはどちらも林田を思っての事で、故に万次郎も龍宮寺も譲らなかった。
けれど二人の対立は、だんだんと他の東卍メンバーにも伝わり、マイキー派とドラケン派の二つに割れそうになっていた。
家に帰っても、万次郎の表情は当然晴れない。
神妙な面持ちでソファに腰かける万次郎を見て、志織はその隣に腰かけ、万次郎の体をそっと抱き締めた。
「万次郎……」
志織が声を掛けても、万次郎は口を閉ざしたままだった。
けれどその代わりに、自分を抱き締める志織の腕に、万次郎はそっと触れた。
その指先は微かに震えていて、志織は胸が締め付けられるような思いだった。
カラカラに乾いた喉から、志織は無理やり声を発した。
「私が一緒にいるから。絶対一人にしないから」
「…志織、俺…」
「うん。分かってる。大丈夫だから。二人で考えよう?パーちんの為に出来る事」
志織がそう言うと、万次郎はゆっくり息を吐き出し、小さく頷く。
そして万次郎は縋るように志織に頭を凭れさせ、触れていた志織の腕を数回撫でた。
「……お前はずっと、俺のモンだよな?」
「うん。私はずっと、万次郎のものだよ」
不安定に揺れる万次郎の心を少しでも落ち着かせたくて、志織は強く強く万次郎の体を抱き締めた。
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