【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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稀咲は自身の心情を吐露するかのように、ゆったりとした口調で話し始めた。
「思う事があるんだ。マイキーはもう駄目かもしれねぇ」
「え!?」
なんの脈絡もないその話に、武道は思わずえ!?と大きな声を上げた。
「強がってっけど、場地を引きずってる」
稀咲の言葉に反応したのは、今度は松野だった。
松野は怒りを顔に滲ませながら、稀咲に食い下がる。
「場地さんはテメェがっ」
「千冬!」
「とにかくこのままだと東卍は終わる!俺らでマイキーを盛り立てるんだ!」
「だとしても、テメェらと組む必要ねぇんだよ!なぁ!?タケミっち!」
素直に考えれば、松野の言っている事が正しいはずだった。
けれどこのタイミングで、稀咲が武道たちに手を貸すのはなぜなのだろうか。
その真意が分からない今、安易に稀咲とは組まないという結論を出してしまっても良いのか、武道は悩んでいた。
「東卍に秘密にして動くんだ、参番隊も陸番隊を使えねえ。つまり俺らにはお前らが必要だ。タケミっち、俺は時間の無駄は嫌いなんだ。明日までに答えを出せ!」
稀咲はそう言うと、武道と松野を残し、部屋を出ていった。
その帰り道、松野は武道の前を歩きながら言った。
「俺は反対だ。稀咲と組むなんてねぇよタケミっち!俺らだけでやるぞ!」
「………そうかな」
真っ直ぐ前を見つめたままそう呟く武道に、松野は掴み掛かった。
「場地さんと橘日向を殺った張本人だぞ!?分かってんのか!?」
「分かってるよ!じゃあどうすんだよ!?稀咲を殺すのか!?違うだろ!?」
武道だって、好んで稀咲と手を組みたい訳ではない。
稀咲は最愛の人や親友を殺した憎むべき相手であり、武道にとっては仇となる存在だ。
けれど、ここで動かなければ未来は変わらない。
未来が変わらなければ、誰も救えない。
その為に出来る事があるのなら、武道はなんでもする覚悟だ。
「俺らがやんなきゃいけないのは稀咲を東卍から追い出す事!それと八戒が大寿を殺すのを止める事だろ!?俺だって稀咲と組むのなんて嫌だよ!でも一緒に動いたら稀咲の事が何かわかるかもしれないじゃん!追い出すヒントが掴めるかもしれないじゃん!」
必死な様子でそう訴える武道に、松野は言葉が出なかった。
震えそうになる唇を噛み締めながら、松野はただ武道を見つめていた。
不意に武道が顔を俯かせ、絞り出すように呟く。
「俺はもう……もう二度とみんなの不幸な未来見たくねえんだよ!」
燃え盛る炎の中で、目に涙を溜めながら小さく微笑む日向の最期の姿。
拘置所の面会室で、悲しそうな表情を浮かべる龍宮寺。
フロントガラスの破片と血に塗れながら、涙を流す千堂。
どの記憶も、脳裏にこびり付いたように離れない。
忘れたくても、忘れられない。
「その為なら俺は稀咲とでも組む!頼む千冬!一緒に組んでくれ!」
緊張感を纏った沈黙が流れた後、それを取り払うかのように松野はそう声を漏らした。
「あーあ。今年のクリスマスも女に縁がねぇのかよ!」
松野のその言葉を聞いた瞬間、張り詰めていた糸が解けたように、武道に笑顔が戻った。
「ありがとう千冬!」
「お前はいいよな、彼女いんだからさ。何が楽しくてクリスマスに、野郎と組んで野郎と戦うのか」
「………なんか腹減んない?」
そして武道と松野は、稀咲を訪れた。
「早かったじゃねえか。答えは出たか」
「クリスマスまでの期限付きで、お前らと組むよ!」
「懸命な判断だ、助かるよ」
「俺らは八戒を守りたいだけだ。テメェらと仲良くするつもりはねぇ!」
こうして、武道たちは稀咲や半間と組む事となった。
目的が一致しただけの歪なチームは、今後どうなって行くのだろうか。
▼
眠そうな表情で欠伸をする万次郎を見て、志織は読んでいた本を閉じた。
「万次郎、もう寝る?」
「うん」
万次郎は返事をすると、志織の手を引いてベッドへと向かう。
二人でベッドへ潜り込み布団を被ると、万次郎は志織の胸元へ顔を寄せた。
志織が万次郎の髪をそっと撫でると、万次郎は気持ちよさそうな表情を浮かべながら、志織へ擦り寄った。
「志織、もっと撫でて」
「いいよ」
「志織好き」
「私も」
万次郎は目を閉じて、ゆっくり呼吸を繰り返す。
志織の匂いが鼻腔を擽り、万次郎は思わず口端を上げた。
穏やかな時間がゆっくりと流れていく中、万次郎は大好きな匂いと温もりに包まれながら徐にその口を開いた。
「ねえ志織、クリスマスの日にさ、渡したいものあるんだけど」
「え、何?」
「クリスマスプレゼント」
「え、嬉しい。何くれるの?」
「内緒。当日までのお楽しみにしてて」
志織は嬉しそうに微笑みながら、分かったと返事をした。
そしてそのまま、志織は話を続けた。
「私もね、万次郎へのプレゼントあるよ」
「まじ?」
「うん。この間エマとヒナちゃんと買い物行った時に買ったの」
「えー何くれんの?」
「内緒。万次郎も楽しみにしてて」
「うん、分かった」
ふと沈黙が流れる。
万次郎は自分の髪を撫でる志織の手を取り、そっと指を絡ませた。
「志織、寒くない?」
「大丈夫だよ。万次郎あったかいから、くっついてると全然寒くない」
「じゃあもっとくっついて」
「ん」
志織は言われた通り、身体を万次郎へ寄せた。
元々二人の間に隙間なんてなかったけれど、更に密着するとより近くに万次郎の存在を感じ、志織はまるで心まで温かくなったようだった。
「志織」
不意に名前を呼ばれ、志織が応えようとした時、万次郎の唇が志織のそれを優しく塞いだ。
突然の事に、万次郎と繋いでいた志織の手に、きゅっと力が込められる。
そんな志織の行動が愛しくて、万次郎は優しく手を握り返した。
そして万次郎は、柔らかな志織の唇を、何度か啄むように食んだ。
夢中で志織の唇を堪能した万次郎は、少し名残惜しそうにゆっくりと唇を離す。
少し熱を孕んだような視線が絡まり合い、万次郎は愛しそうに志織を見つめながら、繋いでいない手の指の背で志織の頬を優しく撫でた。
「まんじろ…だいすき…」
「俺も大好き。ずっと俺の傍から離れないでね」
「離れないよ。私、万次郎がいないとダメだもん」
「かわい。俺も、志織がいないとダメ」
もう一度、唇が重なる。
今度は触れるだけの、可愛らしいキスだった。
「そろそろ寝よっか」
「うん、そうだね」
「おやすみ、志織」
「おやすみ万次郎」
二人はもう一度身体を密着させると、心底安心したような表情を浮かべながら目を閉じた。
それから少しすると、万次郎と志織の小さな寝息が聞こえてくる。
眠りについても、繋がれていたその手はそのままだった。
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