【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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もう俺に関わるな。
そう言った八戒の背中に、武道は静かな声色で問いかけた。
「なんで、そんな話を俺らに?」
武道のその疑問に、八戒は背を向けたまま答えた。
「…決意表明、かな。こうでもしないとびびっちまいそうでよー。俺弱いから」
そう言うと、八戒は武道たちの方へ振り返る事なく、そのまま歩き出す。
「短い間だったけど、楽しかったぜタケミっち」
武道は何も言わず、去っていく八戒の後ろ姿を見つめた。
そして八戒の背中が見えなくなると、徐に口を開き松野に語りかけた。
「千冬…俺、なんかすげえムカつく」
「え?」
「兄弟をさ…殺すって思わすまで追い詰めてんだぜ?柴大寿は許せねぇ!」
「…タケミっち」
武道の中に、沸々と湧いてくる怒りの感情。
それは武道を突き動かし、大きな決意を固めるきっかけとなった。
「決めたぜ千冬。黒龍をぶっ潰す!」
それを聞いた松野は、意表を突かれたような感覚だった。
黒龍を潰すなんて、決して一筋縄では行かないだろう。
それよりも八戒が大寿を殺さない方法を考える方が、労力としては何倍も少ない。
松野はその方法を考えるべきだと、武道にそう進言した。
だが決意に満ちた武道の目は、一ミリも揺らぐ事はなかった。
黒龍を潰すという選択肢を変えるつもりはないと、目で訴えているようだった。
「……そんな顔するなよ!分かったよ!」
武道の強い意志に根負けた松野は、まるで自身を奮い立たせるように大声でそう言った。
「確かに、黒龍をぶっ潰せば未来は確実に変わる!」
「うん!」
「俺も乗った!」
「うっし!」
目的は決まった。
後はそれを成し遂げる方法を考え、実行するだけだ。
▼
武道たちと別れた後、三ツ谷は柚葉と会っていた。
三ツ谷の愛機であるインパルスには、万次郎の姿もある。
三ツ谷は大寿と話した事を、柚葉に告げた。
「……知ってるよ」
犯罪の片棒を担がされるような役割から解放されたと言うのに、柚葉は少しも安堵の表情を見せなかった。
それどころか、柚葉は責めるような厳しい視線で三ツ谷を見ていた。
「なんだよその態度。せっかく八戒が頑張ったのに」
「頑張った!?アンタがそう仕向けたんでしょ!?」
あまりの剣幕に、三ツ谷はついその口を閉ざした。
その時三ツ谷が感じたのは、何とも言えない違和感だった。
「八戒…なんでこんな事を…」
「……バーカ。八戒はお前が思ってるより強ぇよ!」
三ツ谷がそう言うと、柚葉はくるりと後ろを向き、そのまま歩き出した。
そして去り際、背中を向けたまま柚葉はその口を開く。
「ありがと三ツ谷。でもね、その期待が人を苦しめる事もあるんだよ」
柚葉はそれだけ言うと、家の中へと戻っていった。
その帰り道、三ツ谷は愛機を走らせながら、ポツリと呟いた。
「…何か隠してやがるな、柚葉」
「ん?」
「考えてみれば黒龍との和平成立…簡単すぎたし。なぁマイキー」
三ツ谷は後ろに座る万次郎に、そう問いかけた。
けれど万次郎は三ツ谷の問いかけには答えず、ぼんやりと前を見つめていた。
「マイキー?」
「ちょっと止めろ、三ツ谷」
「ん?」
三ツ谷が言われた通りに愛機を止めると、万次郎はインパルスから降りてどこかへ歩いて行ってしまった。
「どうしたよ?マイキー」
「半分になっちまったな」
「え?」
「創設メンバー」
万次郎は一瞬三ツ谷の方を見たかと思うと、また背中を向け、そのまま話を続けた。
「俺さ、どこ目指してんのか分かんなくなっちった」
そう語る万次郎の背中が酷く寂しそうで、三ツ谷はつい言葉を失った。
「………マイキー」
「黒龍なんてほっとけよ………三ツ谷、お前はいなくなんなよ」
再び三ツ谷の方を振り返った万次郎は、寂しそうな笑顔を浮かべながらそう言った。
思えばこの数年で、万次郎は多くのものを失った。
共に東卍を創り上げた仲間も、一人、また一人と減っていき、気付けば万次郎の言う通り半分になっていた。
それでも万次郎は、東卍の総長として弱みを見せずに、ここまで走って来た。
けれど仲間が減っていく事に、万次郎が人一倍心を痛めていた事に、三ツ谷はこの時気づいた。
「…ああ、約束する」
三ツ谷はそんな万次郎を見つめながら、静かにそう告げた。
その後三ツ谷は万次郎を後ろに乗せて、佐野家へと向かった。
軽く挨拶を交わして三ツ谷と別れると、万次郎はそのまま自室である離れへと歩みを進めた。
すると、インパルスのエンジン音を聞きつけた志織が、万次郎を出迎える為ちょうど外へ出てきた。
万次郎はその姿を見ると、歩く速度を早めて真っ直ぐ志織の元へ向かった。
「万次郎、おかえ…」
万次郎は何も言わず、志織の身体を強く抱き寄せた。
嗅ぎ慣れた志織の匂いが鼻腔を擽り、張り詰めていた万次郎の心を少しずつ溶かしていく。
「万次郎?」
「………志織」
万次郎の小さな声が、志織を呼ぶ。
その声は今にも消え入りそうな程小さいものだったが、志織は決して聞き逃さなかった。
「ん、どした?」
優しく問いかけながら、志織の手が万次郎の背中をそっと撫でる。
万次郎は何も言わず、ただ志織を抱き締める腕に力を込めた。
「万次郎、部屋入ろっか。ここじゃ寒いから、ね?」
背中を撫でながら志織がそう言うと、万次郎はコクリと頷き、志織を軽々と抱き上げ部屋へと入った。
志織は思わず驚きの声を上げたが、万次郎はそのまま部屋の中をずんずんと進んで行き、ベッドへ直行する。
そして志織を抱き抱えたまま、万次郎はベッドへと倒れ込む。
「万次郎…?」
「志織…」
万次郎は志織に覆い被さったまま、縋るようにその身体を抱き寄せた。
突然の事に驚いた志織だったが、すぐに万次郎の背中へと腕を回し、再び背中を優しく撫でる。
「志織…」
「うん…」
「志織…志織…」
「ん、ここにいるよ」
何度も志織の名を呼ぶ万次郎に、志織は何度も返事をする。
万次郎の揺れる心を汲み取り、変に追及する事なく寄り添ってくれる志織に、万次郎は心臓の奥がきゅっと狭くなるような感覚を覚えた。
そんな志織の優しさに甘えるように、万次郎は何度も何度もその愛しい名を呼び続けた。
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