【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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街の喧騒が遠退いたかのように、武道と松野の間に沈黙が流れる。
武道の突然の告白に、松野は怪訝そうな表情を見せながら口を開いた。
「は……?何言ってんだお前?未来から来た?」
松野が困惑するのも、無理はない。
未来から来たなんて非現実的な話を、そう易々と信じられる訳がないのだ。
すぐに冗談だと言って、笑い飛ばさなければ。
頭ではそう思っていても、武道は自分の中に渦巻く衝動を止める事は出来なかった。
自分が死んだ日に突然過去へ行った事、亡くなった日向を救う為に東卍に入った事、12年前の今日にしか戻れない事を、武道は順を追って松野に説明した。
更に武道は、万次郎や龍宮寺の事、稀咲の事、そして松野の未来についても話した。
どんどん口から溢れて、止まらなかった。
タイムリープの事を安易に話せば、現代にどんな影響が及ぼすか分からない。
だからこそ武道は、この先誰にもタイムリープの事話さないと誓っていた。
けれど、松野になら。
現代でも武道の為に死んだ松野には、つい心が緩んでしまった。
「……これが、俺がしてきた事の全部だ」
「……俺が、稀咲に殺される?」
全て話し終わって、武道はようやく我に返り、自分の行動に焦りを感じた。
どうしよう、どうしよう。
答えの出ない自問自答を、武道は繰り返した。
「俺……死ぬんだな」
深刻そうな表情でそう呟く松野を見て、今更遅いかもしれないが武道は誤魔化しの言葉を口にした。
「なんちゃって。冗談だよ冗談!」
「……なんとなく気付いてた」
「……え?」
松野の予想外の言葉に、武道の口から困惑の声が滑り落ちた。
「考えてみりゃあお前は変なとこが多いし、いつもと雰囲気が違う時があったし」
「……それは…えっと……」
武道にはもう、誤魔化す言葉なんて何も思い付かなかった。
そんな武道の心情を知ってか知らずか、松野は続けて言葉を紡いだ。
「芭流覇羅との決戦の前、お前は場地さんにこう言った。"どうか死なないで"。離れていたから、何を話していたか詳しくは分かんねぇ。けど、確かにこう言った。お前は場地さんが死ぬ事を知ってたんだな。だからあんなに必死だった」
松野の言葉に、武道は思わず唇を震わせた。
死ぬ事を知っていたのに、武道は場地を救う事が出来なかった。
どうして救ってくれなかったのかと、松野に詰め寄られても仕方ない。
それでも武道は誤魔化さずに、真実を話した。
「……ああ。知っていたのに止められなかった。場地さんを救えたのに」
罵声を浴びせられる事も、殴られる事も覚悟の上だった。
けれど松野の口から出てきたのは、予想外の言葉だった。
「すげえな、お前」
「え?」
「一人で戦ってたんだろ?誰も褒めてくんねぇのに。胸張れよタケミっち。大事なのは結果じゃねぇ!」
ぎゅっと、心臓を掴まれたような気持ちだった。
熱い感情が、武道の中に満ちていく。
松野の大切な人を守りきれなかったというのに、どうしてそんな事が言えるのだろうか。
武道は涙に濡れた瞳で、真っ直ぐに松野を見つめた。
「誰も見てねぇのに逃げずに戦った。俺はお前を尊敬する」
「信じてくれるのか?こんな嘘みてぇな話」
「当たり前だバカ!相棒だろ?」
松野はニカッと笑って、そう言った。
その瞬間、我慢していた涙が堰を切ったように、武道の目からどんどん溢れて頬を流れていく。
松野に話したのは、間違いではなかった。
松野に話して良かったと、武道は心底思った。
「くそっ泣かすなよっ!」
「ハハ、お前の涙腺ガバガバだな!」
「うっせー!馬鹿にしてんのか!?」
「なんか腹減ったな!」
「聞けよ!」
▼
寒空の下、松野はコンビニで購入したカップ麺をズルズルと啜っていた。
もぐもぐと咀嚼しながら、松野は徐に口を開く。
「しっかし俺、稀咲に殺されんのかー」
松野は手に持っていたカップ麺を武道に差し出すと、食う?と問いかけた。
武道はうんと返事をすると、差し出されたカップ麺を受け取り、ズルズルと音を立てながら麺を啜る。
「未来の事でもムカつくわー!」
松野は少々おどけたような様子でそう言ったが、すぐに真面目な表情に変わり、もう一度口を開いた。
「稀咲はやっぱり、場地さんの仇なんだな?」
「ああ、間違いねぇ。ハッキリと未来の稀咲の口から聞いた」
「絶っ対ェぶっ殺す!……でも今じゃねぇ……稀咲率いる参番隊は隊員数100人。更に元芭流覇羅から新設された陸番隊もいる」
武道はもぐもぐと咀嚼をしながら、松野の言葉に耳を傾けていた。
松野は不意に立ち上がり、真っ直ぐ前を見つめたまま話を続ける。
「それに対して俺とお前は新造壱番隊。まだうまく機能してない」
「雲泥の差だな……」
「ああ、ワクワクするな!タケミっち」
「え?」
武道は思わず、松野を見上げた。
すると松野は、曇りのない瞳で武道を見下ろしながら言った。
「お前はこれから誰にも負けねぇ壱番隊を作るんだ、タケミっち。ゼロからのスタートだけど、お前なら出来る!黒龍だろうが稀咲だろうが、ぶっ潰せ!俺が支えてやる!」
そして松野は、武道の方へ手を差し出した。
「それが全部を話してくれたお前への、俺の答えだ!」
「千冬……」
「これからもよろしくな!」
眩しいくらいの笑顔で、松野は笑っていた。
武道は手に持っていたカップ麺を座っていたベンチの上へ置くと、松野と同じようにその場に立ち上がる。
「よーし……っ」
そして武道は、差し出された松野の手をぎゅっと握り返した。
「やってやんぜ!相棒!」
武道は、本当に良い相棒に出会えたと思った。
松野への感謝の気持ちで、心がいっぱいだった。
「あっ!タケミっちお前、俺のラーメン全部食った!?」
「え?うん……くれたじゃん」
「バカ!一口食ったら普通返すだろ!?」
「え?何そのお前ルール」
二人の楽しそうな話し声が、夜の街の喧騒に溶けていく。
タイムリープする前の武道にはいなかった頼もしい相棒を、今の武道は手に入れる事が出来た。
この先どんな事があったとしても、二人なら乗り越えていける。
武道は強く強く、そう思った。
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