ふわり <2222hitリクエスト>
プルルルル…プルルルル…
午前8時。
開けっ放しの窓から朝日が差し込む。
昨夜のまま散らかった秀吉の部屋に鳴り響く携帯の電子音。
空のビール缶、食べかけのつまみ、そして脱ぎ捨てられた服が昨夜の出来事を説明している。
しばらくして音が鳴り止んだ。
意識は眠気に支配されたまま、秀吉は目を開けた。
秋を感じさせるような涼しい風が入り込む。
秀吉は目の前で寝息を立てていた軍司を抱き寄せた。
無意識だろう、自分の胸に擦り寄る軍司の頭を撫でる。
さらさらと揺れる黒髪。
自分と同じシャンプーの香。
触れた箇所から伝わる体温。
その温もりに目を閉じる。
プルルルル…プルルルル…
再び鳴り始める電子音。
「軍司……携帯、」
「ん…、」
寝ぼけているのか、言葉にならない声を発したまま動かない。
携帯は相変わらず鳴り続けている。
「軍司、」
「取って…」
胸の中で可愛く強請る恋人に一つキスを落とし、秀吉は体を起こしてテーブルの上にある携帯を手にした。
「ほら、」
携帯を渡すと軍司が着信者の名前を見て電話を取った。
「…もしもし……いや、大丈夫だ、どうした?」
寝起きの掠れた声がいつものそれより甘く響く。
目を閉じたままうん、うんと頷いている。
その様子を横目に、秀吉が煙草に火を点けた。
「…分かった、すぐ行く」
携帯を閉じると軍司が起き上がった。
小さく欠伸をし秀吉の口元を見る。
俺も、と呟いて煙草に手を伸ばした。
「十希夫か?」
「あぁ、なんか下の奴が揉めたらしい」
「行くのか?」
「あぁ。……っ?!」
秀吉が灰皿にトン、と煙草を置くのと同時
起き上がった軍司の上半身を押し倒し覆い被さった。
体重を乗せて、唇で数回軍司の肌に触れる。
「くすぐってぇよ」
首元に吸い付く秀吉の背中に手を回す。
大型犬に懐かれているような感覚に笑いながら、引き剥がすように秀吉の顔に手を添えた。
「行くなよ」
「あ?」
「十希夫にやらせときゃいーだろうが」
「自分で解決出来るならトキオは電話してきたりしねーよ」
「甘やかし過ぎはよくねぇぞ」
秀吉が自分を引き剥がした軍司の腕を取る。
そしてゆっくりと、軍司の頭の上で両手の指を絡ませキスをした。
そのまま唇は下がっていき、鎖骨に数回キスを落とす。
くすぐったいような心地よいような、そんな感覚に吐息が漏れた。
「軍司、」
甘く自分の名を呼ぶその声に体の芯が波立つ。
こうして秀吉に触られるのは好きだと思う。
自然と閉じかけていた目で秀吉の顔を見る。
普段見せないような優しい顔をしていた。
秀吉の家を出て5分。
イチョウの並木道を並んで歩く。
軍司は木々を見上げた。
木漏れ日に目を顰める。
風に吹かれ葉が揺れた。
もう少ししたら葉が色づいてはらはらと舞い落ちるのだろう。
再び澄んだ空気が二人の間を通り抜ける。
なんだか無性に手を繋ぎたくなって軍司はポケットから手を出した。
しかしそれは反対側から来た人影に寄って止まる。
人前で堂々と触れられないもどかしさ。
軍司は自分の手を見つめ苦笑した。
と、秀吉の方から少し乱暴にぶつけられた手。
一瞬だが確かに指が絡まった。
隣を見やると秀吉の耳が紅く染まっていた。
「らしくねぇことするじゃねぇか」
「したかったんだからしょーがねぇだろ」
秀吉も自分と同じ気持ちだったのだと思うと胸の辺りが温かくなった。
「俺もだ」
今度は軍司から触れて言う。
ほんの一瞬。手の甲と甲が触れた。
他人から見たらただ当たっただけの様に見える
その一瞬で、幸せで満たされ
どちらからともなく笑った。
end
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