好きで、好きで <777hitリクエスト>


軍司さんの首に手を回しキスをした。
抵抗の無い口に進入し絡ませる。
応えてくれる軍司さんに嬉しくなって俺は体重を掛けて軍司さんを押し倒した。
フローリングの床にゆっくりと倒れこむ。

―――と、俺の背後にあったテレビから悲しげな音楽が流れた。

「…十希夫のせいで死んだじゃねぇか、」

あーあ、いいとこまでいってたのによ。そう言って軍司さんが口を尖らせた。
ここは俺の部屋で、今軍司さんはテレビゲームをしている最中だった。画面にはGAME OVERの文字が表示されている。
俺はいたずらが成功したような気分で軍司さんに笑って見せた。

「もーいーや、寝ようぜ」

ゲーム機の電源を切って軍司さんが布団に潜った。続いて俺も布団へ転がる。

「軍司さん、明日は?」
「朝から行く。1限目体育なんだよ」

俺がいねーとチームが負けちまうからな、と得意気に言った。俺はこうして必ず軍司さんの予定を聞く。軍司さんが高校生になって前みたいに四六時中一緒に居ることが出来なくなったからだ。

「夜は?」
「んー、何もねぇ、と思う」
「じゃー会えます?」

そう聞くと軍司さんは優しく笑っておう、と返してくれた。



あの頃のがよかったと思わない訳じゃない。中学の時は約束なんてしなくても毎日会えたし、ずっと隣に居た。軍司さんの周りに居る顔は全部自分も知っている奴だったし、その日あった出来事なんかも大体把握していた。
学校が離れて変わったのはそういうところだ。一緒に居られる時間が限られて、周りに居る顔が変わった。隣に居るのは俺じゃない誰か。一日の出来事は軍司さんの口から聞いて初めて知るところとなる。

でも、今の関係も嫌いな訳じゃない。会える時間が減った分会えた時は嬉しいし、軍司さんの鈴蘭での話は新鮮で楽しい。俺の居ないところで有名になっていく軍司さんを格好いいとも思う。

そりゃあ俺の知らない人達の話を楽しそうにするのは少しモヤモヤするけれど、男の嫉妬なんて可愛くもなんともない。そんな感情をぶつけてしまうと面倒くさいと思われかねない。実際俺ならそう思う。それに、自分の方が年下な分だけ、何かと大人振りたい思いもある。

だから街中で軍司さんが高校の知り合いらしき人と会って盛り上がっている時も、一緒に居る時に電話で呼び出されて行ってしまう時も俺は笑って送り出してしまうのだ。一人になって寂しいなんて思わないはずがないのに。























「悪ぃ、今日会えねぇわ」

いつも通り学校が終わってから会う約束をしていたある日、軍司さんから電話が掛かってきた。今日は久しぶりに街中へ出て映画を見たり買い物をしようと言っていた。理由を聞けば、鈴蘭の人達と喧嘩を見る為に隣町へ出かけているらしい。海の近くなのだろうか、電話の向こうから波の音と楽しそうな騒ぎ声が聞こえた。

「いいですよ」

謝る軍司さんに気にさせないように、土産話楽しみにしてますと言って電話を切った。ぽっかり空いたスケジュール。他の予定を入れてもよかったのだが、そのときはそんな気分になれなかった。まっすぐ家に帰ってごろごろとテレビを見て過ごした。部屋に戻ると軍司さんの物があって、それを見るとなんだか無性に寂しくなった。



―――軍司さんがちょっと行ってくると言ってもう3日が過ぎた。

メールの返信はあるから元気なんだと思うけど、いつ帰ってくるのかという問いには喧嘩が終わったらとしか返ってこない。電話は繋がらなかった。着信だけ残しておくと数時間経ったあとに『悪ぃ』とだけメールが入っていた。3日くらい会えないなんて初めてじゃない。でもこんなに連絡が取れないなんて初めてで、携帯の向こう側の軍司さんは俺より夢中になっているものがあるんだと思うと少し悔しかった。

その間俺はいつもより多く遊びに出かけた。と言っても、中学生の行動範囲なんて限られたもので、カラオケするかゲーセン行くかその辺で駄弁るか喧嘩するくらいだったが。友人からの誘いは断らなかった。軍司さんが楽しんでいるのと同じように自分も時間を過ごしたかった。4日目の午後、友人に映画に行かないかと誘われた。何を見るのかという問いに返ってきたその映画はあの日軍司さんと一緒に見に行く予定をしていた映画だった。

「この映画今日で最後だぜ」

行くかどうか迷ったのだが、この一言で理由付けが出来た。最後だからと自分に言い訳しながら映画館へ入った。

チケット売り場の表示を見るとやはり今日で上映期間が終わると言うのは本当らしい。気にすることはない、先に約束を破ったのは軍司さんの方なのだから。そう思いはしても何か心に引っ掛かっていた。

「悪ぃ、俺やっぱ帰るわ」

ギリギリになって俺は友人にそう告げて映画館を出た。別に悪いことをしようとしていた訳じゃない。でもなんだか見れなかった。あの映画は軍司さんと見るはずだったのだ。


























「十希夫、携帯鳴ってたよ」

涼しい風が入り込む夜。自分の部屋のベッドで寝ていると姉貴が入ってきて携帯を手渡された。リビングに置きっぱなしだったのを忘れていた。怠慢に手に取り携帯を開くと送信者名には軍司さんの名前。ガバッと起き上がってメールを開いた。

『星が綺麗だぞ』

たった一言それだけのメール。こんなことを言うなんて珍しい。どこに居るんですか?と返信した。あまり期待せずに送ったその内容の返信にはうちの近所の公園が書かれていた。

俺はベッドを降りてすぐにその公園へ走った。












公園に入ると街灯の下、ベンチに座っている姿が見えた。

「ぷっ」

近づいて目の前に立つと煙草を咥えていた軍司さんが笑った。

「お前なんだよ、そのカッコ」

慌てて出てきたから部屋着として借りていた姉貴のTシャツを着てきてしまったのだ。胸のところに大きなハートがある。

全力で走ったのは久しぶりで肺が苦しい。それとは別に、胸がいっぱいで何も言えずにいる俺に軍司さんが座れよ、と隣を指した。






ベンチに座って、しばらくの間お互い口を開かなかった。俺は単純に息を整えていたというのもあるけど、軍司さんはどうしてなんだろう。すると、静かな空気の中携帯のバイブ音が聞こえた。軍司さんのポケットからだろう、振動が伝わる。



2・3回程鳴って、携帯を取り出そうとした軍司さんの腕を止めてキスをした。一瞬体に力を入れたがすぐにそれはなくなった。周囲に注意なんてする余裕なんて俺にはなかった。抵抗の無い口に進入し絡ませる。応えてくれた軍司さんになんだか胸が締め付けられて俺は体重を掛けて軍司さんを押し倒した。ベンチにゆっくりと倒れこむ。と、軍司さんのポケットで震え続けていた携帯の振動が止まった。



俺は軍司さんのポケットから携帯を取り出した。時刻は0時を過ぎたところ。軍司さんに確認を入れずに電源を切った。

「?」

たかだが数日なのに随分久しぶりな感じがした。

「今日は、ずっと一緒に居て下さい」

軍司さんは一瞬驚いた様な表情をした後、目を細めて笑った。軍司さんの右手に握られている煙草から灰が落ちる。わずかに吹く風が公園の木々の葉を揺らした。
あぁ、ずっと一緒に居ような、と言って今度は軍司さんから口を付けられた。























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