頬をつたう砂糖水の行方(改)
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「ゆり先生、すみません」
「いえ、大丈夫ですよ」
数学の田中先生が出張で出るというので担当のクラスを見ていて欲しいと頼まれた。授業は出来ないので自習になるのだが、そこに教師が居ないと自習はなりたたない、という訳でゆりに白羽の矢が立った。もちろん居ても真面目に勉強する生徒など居ないのだが。その教師から自習用のプリントを受け取り、教室に向かう。ガラッっと扉を開けると相変わらず教室にいる生徒は半分程。
「あれっ!ゆりちゃんどうしたんだよ?!」
「田中先生が出張だから自習になります。」
「えー、ゆりちゃんが授業してくれるんじゃねーの?」
「私は出来ないよ」
「保健の授業でいーじゃん」
「お!いーねいーね!」
「バカ言ってないで、プリント始めて」
机の上に足を投げ出すなとか、携帯を仕舞えとか言いたいことがたくさんだ。一人一人回って注意をする。
「ゆりちゃん!俺分からないことあんだけど!」
「なに?」
まともな奴もいるじゃないと思ったのも束の間。
「○ックスってなんですかー?」
「どうしたら○ックス上手くなりますか?」
「どこが気持ちいいですか?」
どんどんエスカレートしていく。調子に乗るなよ、と怒鳴りたいのを押さえる。
「……保健の授業はまた今度ね」
「えっ!教えてくれんの?!」
クラス中が騒ぎ出す。こちらの言葉に異常に反応する様が面白くもある。
「どんな男がタイプなんすか?」
散々質問を受け流したあと、ぽんと入ってきた質問に思わず固まってしまった。瞬間浮かんだ顔を頭から消す。煙草の匂いだとか、温もりだとか、次々に浮かぶ感覚と一緒に。
「先生今男居んのー?」
すかさず質問が飛んでくる。
「数学のプリントしてください」
「好きな男くらいいんだろー?」
「……プライベートです」
「どんな男なんすか?」
「…そうだね、そのプリントをちゃんとやったら言おうかな」
「まじで?!」
「全員ね」
そういうと生徒たちがプリントに取り組み始めた。騒ぎが収まってほっとするも、何をモチベーションにしてるんだと流石に呆れてしまう。結局全員がそのプリントをするというのは無理な話で、その場は終わったのだが、そのおかげで生徒間で変な風に広まっていった。
「はぁー……、末期だなぁ」
保健室に戻るなり吐き出すように呟く。あのくらいで動揺するなんて自分らしくない。
「何が?」
「え?!」
誰も居ないと思っていた保健室にベッドの方から声がした。シャ、とカーテンが開く。そこにいたのは加東秀吉。たまに来たかと思えば何かと理由をつけてベッドで寝ていく生徒だ。
「居たの」
鍵かけてたのに。
「何が末期なんだ?」
ベッドの上で背中を壁に預けたまま会話をする。
「なんでもないよ」
「恋患いか?」
「は?!なんでよ」
「当たりだな」
観察するような目が鬱陶しい。
「ここ学校の奴か?」
「生徒を相手にするわけないでしょ」
「俺は別に生徒だとは言ってねーけど?」
ニヤニヤと笑っている。嵌められた。いや、自爆か。どちらにしても本当にやりにくい。
「…そんなわけないって言ったの」
「最近仲良いらしいな」
「……誰と」
「もっと押していった方がいいんじゃねーの、」
「何を、」
「あいつ変に真面目だからなぁ」
「だから誰のこと?まるで知ってる風に」
「見てたら分かる」
「大人をからかわないで」
加東が誰のことを指しているか分かってしまう。冗談じゃない。
こんなの認めるわけにはいかないんだから。
「加東くん、誰のことを言っているか知らないけど憶測で物を言って混乱させないでね」
「憶測ねぇ、それはすみません」
会話を終わらせて加東を追い出す。やっと一人になれた。椅子に座りコーヒーでほっと息を吐く。加東の言葉が頭の中でこだましていた。
「保健の個人授業してくれるんだってな」
「……へ?」
昨日に引き続き保健室に迎えにきた岩城の第一声。
「なんの話?」
「噂で聞いたぜ?授業真面目に受けたら##NAME2##が手取り足取り保健の授業してくれるってな。今日自習の授業に行ったんだろ?」
「…あー、大分事実を捻じ曲げられてる」
「俺もやってもらおうと思ったんだけどな」
岩城がニヤニヤと楽しそうな顔をしている。何だか癪だ。
「…じゃあ、教えてあげようか?」
立ち上がり、岩城の耳元で囁いた。
「!!」
瞬時に岩城の顔が紅く染まる。
思った以上の反応に笑いがこみあげる。
「…性質悪ぃ…」
「最初にそっちがしかけたんだよ?」
「…、」
「さ、帰ろう」
校舎を出ると昨日と同じ夕暮れ。人の気配のない道を並んで歩く。触れるには遠い、この距離のままで。
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