頬をつたう砂糖水の行方(改)
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少しして落ち着くと我に帰った。
「岩城、ごめん。すぐ着替えてくるよ」
体を引いて離れる。そして岩城にリビングに上がるように促した。冷蔵庫から缶コーヒーを取り出して灰皿と一緒に渡し、その足で寝室に入る。
寝室の扉を閉めるとゆりは座り込んだ。吊橋効果ってやつかな、と大きく深呼吸した。
リビングに戻ると岩城は煙草にもコーヒーにも手をつけておらず、ただソファに座っていた。
「ありがとう。気をつけて帰ってね」
何事もなかった風に岩城に帰りを促す。シャツを手にしたままの岩城は何か言いたげだ。けれど何か言われる前に玄関の扉を閉めて蓋をした。
次の日の朝、神戸が入院するという電話が学校に入った。
たまたま電話をとったのはゆりで、
担任に告げるとちらりと目を向けただけで大したリアクションも無く、分かりましたとだけ返事があった。
同日午後、軍司が保健室を訪れた。神妙な顔をしてゆりに話しかける。
「深町や十希夫達の申し出断ったんだってな」
午前中に神戸の仲間だという深町、そして原田が保健室に来た。
昨日神戸を襲った奴らに顔を見られたからと言って、通勤時に護衛をつけるという話だった。
2人とも丁寧に必要性を伝えてくれたがゆりはそれを丁重に断ったのだった。
「仕事もあるし、遅くなるから。それにまさか私まで襲ってこないでしょ。大丈夫大丈夫。」
ゆりの言いように軍司が眉間に皺を寄せる。
「あんな目に遭っといて呑気な事言ってんなよ。」
それまで机に向かったまま話をしていたゆりが軍司の方を向いた。
「……神戸の話、聞いた?」
「あぁ、入院だろ」
「意識、まだ戻らないって」
「大丈夫だろ、頑丈な奴だ」
「もう生徒のあんな姿見たくないんだよ、ね?」
分かって。あんな思いは二度としたくない。そう告げると岩城は沈黙した。
「昔…」
「先輩について回ってた頃、今回のとは違うけど犯罪まがいの事までするとこと揉めたことがあってよ。」
「普段うちや鳳仙なんかがやってんのは、ガキの喧嘩の範囲だろ。やっちゃいけねーところまでは手を出さねー。女とか、家族とかな。
でもそこに手を出してくる奴らと揉めたんだ。俺はまだ下っ端だったけど
先輩達の女は捕まってマワされたりしてた。」
岩城は伏せ目がちに言った。
胸糞悪くて仕方なかったよ。
「……俺が付く」
「?!」
それはゆりにとっては思いも寄らない言葉で。
岩城は、自分は一線を退いた身だからあまり出しゃばりたくはないんだがと前置きした上で言葉を続けた。
「俺はやられねぇよ。だったら問題ねぇよな?」
「でも、」
「俺だってな、あんたのあんな姿見たくねぇんだよ、分かるよな」
言葉に詰まる。
こんなに真剣に目を見られたことがなかったから。
―――生徒達の騒ぐ声が遠くに聞こえる。
音の無い保健室
胸が詰まる
言い返す言葉が出なかった
「##NAME2##」
授業も終わった午後5時30分
岩城が保健室に来た。
「もう少しで終わるよ、ごめんね」
「こっちがやってることだ。気にすんな」
岩城が椅子に座る。大変だね、と資料を片付けながら声を掛けた。
「あ?」
「周りのフォローまでさ」
「そんなイイもんじゃねえよ。」
結局、あのあと岩城の言葉に頷くしかなかった。
二人並んで校門を出る。
校内にはもちろん生徒など居らず静まり返っている。紅く染まった空にカラスが鳴いていた。
「遅くなってごめんね」
マンションの下で足を止めた。
「何度でも言うけどよ。あんたが謝ることはねーんだよ」
「ありがとう」
じゃあ、と言って背を向けた。
「##NAME2##、」
名前を呼ばれて振り返ると、岩城の目が真っ直ぐ自分を見ていた。
「なに?」
「俺はもちろんやられるつもりはねぇし、あんたに手を出させるつもりもねぇ」
「うん?」
「でも万が一、囲まれたらあんたは何も気にせず真っ先に逃げることを考えてくれ」
「……、」
岩城の目が私を捉えて離さない。また心臓の音が煩い。吊橋効果、吊橋効果と心の中で唱え
「分かった……けど、一つだけ約束して」
「なんだ?」
「岩城が無事家に帰ったら私に一報入れて」
「?」
「心配だから」
携帯を出して見せる。
「わかった、」
曖昧な笑みを浮かべて岩城は了承した。
部屋に入って携帯を眺める。
アドレス帳には岩城の番号。
「……」
ピピッ
メールボックスに新規メールが入った。
『今帰った。』
端的な内容に安心する。
『お疲れさま。今日はありがとう。』
自分も簡単に返す。上昇する気持ちを自覚し、その反面そんな自分にがっかりする。
冷蔵庫から缶ビールを取り出し、飲み干した。