頬をつたう砂糖水の行方(改)
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夏休みも終わり、気候は少し過ごしやすく変わった。鈴蘭では相変わらずちょくちょくと騒ぎは起きているようだがゆりから見れば至って平穏な日々。そんな中、呑気な歌声が廊下に響き渡った。
「ひょっこりひょーたんじーまー♪」
なんでひょっこりひょうたん島なんだよ、曲の選曲と楽しそうな様子に思わず笑ってしまった。
「うおっ!!ゆりちゃん!!」
「楽しそうだね。なんかいいことでもあった?神戸、」
「これからあるんじゃ、」
胸を張って答えた姿、愛らしくなって肩をぽんぽんと叩いた。じゃあ明日いいこと教えてね、そう言って別れた。
その日は幸か不幸か、本屋へ寄り道をして家に帰っていた。店も無く街灯の明かりだけが点々としている住宅街を通る。人の気配はなくゆりの足音だけが暗闇に響く。ひったくり注意の看板を見ながら十字路を右に曲がると高架が見えた。急ぎ足で進む。と、高架下に誰か倒れている姿が見えた。最悪の状況でないことだけを願って、急いで駆け寄るとなんとそれは知った顔だった。
「神戸?!」
血を流して倒れているのを見て息を飲んだ。ぺちぺちと顔を叩いて見るが意識はない。息をしていることを確認して救急車を呼ぼうとバックの中の携帯を探していると、薄暗い灯で照らされていた周囲に影が映った。振り返って見ると黒い服を着た男達に囲まれていた。
「おねーさん、そいつと知り合い?」
男の一人に尋ねられる。どう答えたらいいものか。心臓の音が大きくなる。多分こいつらが神戸をこんな風にしたのだと思った。
「……、」
返答を間違えては駄目だ。
「救急車呼ばせてくれる?お願い、」
相手の目を見て慎重に言葉を選ぶ。しかし男達が下卑た笑いを浮かべた瞬間失敗を悟った。
「呼ばせるわけねーだろ」
男の手が迫ってくる。自分でどうにかなる相手じゃない、咄嗟にバックの中に入れていた手で、持ち歩いていた防犯ベルを鳴らした。
「な!!てめぇ何しやがる!!」
甲高い電子音が鳴り響く。誰か気付いて!あわよくば人が来るのを恐れて男達が逃げてくれるのを願った。
しかしそううまくはいかなかった。逃げたのは男達の一部で、残った数人にとっては火に油を注いだだけのようだった。
「っの女!!」
髪の毛を掴まれ投げられた。勢いで地面に倒れこんだ。
「痛っ!」
やり返すつもりで相手を睨む。そうするとまたそれが気に入らなかったらしく、服を掴まれ振り回される。地面に押さえ付けられながら、どこか殴ってやろうともがくが体勢が悪く力がうまく入らない。必死に考え、膝で股間を蹴り上げた。
「痛ってぇ!!…やっちまうぞバカ女!!」
今度は頬を思い切り殴られた。口の中に血の味が広がる。アドレナリンが出ているのか、痛みはそこまで感じない。男に向き直った。男の手が自分の首を押さえた。
「う…っ……」
苦しくて顔が歪む。もう抵抗という抵抗も出来ずにいるのに相手は一向に力を緩めない。
声も出せず、ダメかもしれないと諦めかけた。
その時、バキッ!!!と鈍い音をたてて突然ゆりを捉えていた男が倒れた。咳き込みながらも必死に息をする。
「…?!」
現れたのは見覚えのある背中。
―――?!
苦しくて声には出せなかったが、岩城と原田がそこに居た。
軍司がゆりの姿を見て眉間に皺を寄せる。
「これ着てろ」
着ていたシャツを渡される。
「神戸、が!」
「分かってる。あんたは少し離れてろ」
「でも!」
「いいから離れてろ!」
怒鳴られて黙るしかない。けれどこの人数に差がありすぎる。神戸の姿と岩城達が重なって背筋が震える。
「テメェら、生きて返さねぇぞ!」
「この人数で勝てると思ってんのか!」
喧嘩の場面には慣れたつもりでいたが、眼前の光景に背筋が震えた。
岩城がさっきまで自分を捕まえていた男を殴り飛ばした。男は壁に激突し、そのままズルズルと倒れ込んだ。その男に目もくれず、次の男を投げ飛ばす。残った男達は逃げ腰になっていた。数秒でこの場の状況を変えてしまったのだった。
「…くそ!覚えてろよ!」
分が悪いのを感じたのか、男達は捨て台詞を残して逃げていった。
「どなたか事情の分かる方一緒に乗って下さい!」
救急車が到着し、神戸が乗せられた。慌しく隊員の人が声をあげる。
「わたしが乗ります」
「あなたは?」
「わたしは、」
「待て」
救急車に乗ると言った自分に岩城が制止をかけた。
「俺が乗ります」
その代わりに原田が乗り込んだ。この中で唯一大人である自分が乗るべきだろうと思っていたので疑問に思った。
「その格好で行くのか?」
「でも、」
「あんたは関わらない方がいい。いつもの事だ、あいつに任せておけ」
そう言っている間に救急車が走り去ってしまった。騒がしさが消え、その場に岩城と二人残る。
「##NAME2##、家はどこだ?」
「え?」
「送るわ」
「いや…」
断りの言葉を言いかけて
首を絞められたときの恐怖が蘇る。
「……お願いします」
俯くと背中をポンと叩かれた。
・・・・・・・・
「あ、これ返さなきゃ」
マンションの下で借りていたシャツを脱ごうとすると止められる。ならば、と着替える為に部屋に上がって貰うことにする。
エントランスの鍵を開け、エレベーターに乗る。狭い無言の空間に少しだけ緊張した。
カードキーを翳して部屋の鍵を開けた。扉を開けると安心した。怖かったのだと自覚する。途端足の力が抜けていくのが分かった。
「おい!##NAME2##?!」
「ごめん、大丈夫。ちょっと疲れただけ」
そう言って立ち上がろうと足に力を入れるもうまくいかない。生まれたての小鹿みたいだな、なんて思っていると急に岩城の肩に引き寄せられた。
「巻き込んで悪かった」
あんたのせいじゃないじゃない、そう言おうと思ったけど声が出ない。涙が溢れないようにと思ったが遅かった。泣いているのを見られたくなくて、仕方なくそのまま岩城の肩に体を預けた。
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