頬をつたう砂糖水の行方(改)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
保健室の窓の外で煙草を吸う生徒に声を掛ける。岩城は顔の向きはそのままに、目だけで私を見た。
「何?」
「いや……、私の前で堂々と煙草を吸うかな」
「あ、」
煙草を持つ手を見て笑った。思わず寛いでしまったと。それに苦笑で返し、再びパソコンに向かう。
「止めねーの?」
「ん?」
「センコーって口煩く言うだろ」
「そりゃそうでしょ。でもあなたは何か切っ掛けがあればきっぱり辞めるタイプだと思うから言わない。」
「切っ掛け?」
「こどもが出来たり、とかかな」
想像できねぇ、と言って笑った。そして携帯灰皿を取り出して煙草をもみ消す。そういうのは持ってるのね。
「あー、空綺麗だな」
「そうだね」
見上げて息を吐く。空も雲も真っ赤に染まり確かに幻想的だった。
岩城の送迎は慎重だった。待ち伏せを警戒してのことらしい、毎日行き帰りの道を変えている。一駅分遠回りして歩くこともあった。ぽつりぽつりと言葉を交わす。
「明日は晴れだな」
「?」
岩城の視線が空から自分へ移動した。
「夕焼けの翌日は晴れって言うだろ?」
「へぇ、そうなんだ」
静かに笑う姿を眺める。
再び空を見上げた。
「どうしたんだ?」
「え?」
「さっきから溜息多い」
「私?溜息吐いてた?」
「無自覚かよ、大丈夫か?」
気遣いが痛い。無意識に溜息を吐くほどの悩みといえば、目の前の人物のこと以外にないのだから。
「大丈夫だよ。そろそろ帰ろう」
私がそう言うとしばらくの沈黙のあと岩城が立ち上がる。
「帰るか」
校舎の外に出ると太陽は沈み掛けていた。
マンションが近づくと、エントランスにいた影から名前を呼ばれた。男が手を振ってから近づいてくる。
「ゆうすけ?!なんでここに?」
「連絡したのに返信無いから」
え?と携帯を取り出す。
ゆうすけは前の学校の同僚だ。たまに飲みに行っていた。
ゆうすけが軍司を見る。
ゆりがその視線に気付く。
「あ、今勤めてる学校の生徒なの」
「あぁ、生徒か」
少し話そうという。
「岩城、ありがとう。気をつけて帰ってね」
次の日
またエントランスの前に男の姿。
「なんでまたそいつと帰ってくるんだ?」
「え?別に…ていうかなんでまた居るの?」
「メッセージ送っただろ」
見てなかった。
「最近この辺で変な奴が出てるんスよ」
「明日は俺が迎えに行くから、こどもの君は早く帰りなさい」
「今日は昨日の男が迎えに来んの?」
保健室に来た岩城が
「来ないよ。暫く忙しいんだって。」
昨日の言葉はなんだったんだよ、と小さく言って岩城が窓の外に出た。
「この角曲がったら走るぞ」
「え?」
コンビニ横を歩いて会話の最中、ちらっとどこかを見た岩城の顔が険しくなったと思うと急に手を引かれた。もうすぐ日が沈む。
「岩城?!」
引かれるままに走り出した。角を曲がり、またすぐ次の角を曲がった。背後から集団の声がする。狭い路地に入り、暗闇に紛れる様に物陰に隠れた。そこから何人かの男達が走り過ぎていくのが見えた。
携帯を取り出して誰かに電話を掛けている。
「出ねぇか」
その間、私は岩城の背中に隠されるようにいた。心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかと思う。
「蠍?」
「多分な」
「よく気付いたね」
「ガラスに映ってたからな」
息を整える。
「まだ走れるか?」
「うん」
「よし、」
それから少し慎重な様子で岩城は歩き始めた。私の手を握ったまま。岩城からすれば多分次の動作に入りやすいようにだと思うし、そうだと分かってるんだけど。どう握り返していいか分からない。手汗かきそう。
「ったく、何人こっちに割いてんだよ」
角で様子を伺って何度か戻る。すぐ角を曲がり、走る。スニーカーだったのでついていけてはいたが、日ごろの運動不足も祟ってか次第に足が動かなくなってきた。そして、足の前に肺が悲鳴を上げ始めた。ハァハァと情けなく息の切れる私を岩城が見る。そして何かを決心したように後ろを振り返り、私に何か言いかけた、その時
ブオォォォーン!!とバイクの音が響いた。
音がした方を向くとライダースを来た金髪の男がこちらを見ている。
すると岩城がそちらへ走り出した。
「河内!この人頼む!」
「はっ?!」
「##NAME2##!乗れ!」
「え?」
ヘルメットを被せられ、バイクに跨る。
「家まで送り届けろ!いいな!」
有無を言わさぬとはこういうことか、という具合に訳の分かっていないその人も事態を察したのかバイクに跨った。
「あんたは?」
後ろからは鉄パイプやら何やらをもった集団が迫っていた。
「大丈夫だ、行け」
「岩城っ!」
「……おっさん死ぬなよ」
金髪はそう言うとバイクを発進させた。振り落とされないように背中にしがみ付く。後ろを振り返ると、岩城の背中の向こうに黒づくめの男達が集まっているのが見えた。ざっとみただけでも、神戸の時よりはるかに多かった。