君中毒
本城さんとの思い出がほんの数秒の間に
頭の中を駆け巡った
走馬灯かよ
縁起でもねぇ
「止めろ!」
俺が叫ぶのと同時、背後にいたはずの男の拳が腹にめり込んだ
「っ!!」
「喋るな言うたやろ」
今まで受けたどのパンチよりも重い
カクン、と足の力が抜け膝を着いた
胃液が這い上がる
男の刺すような視線が自分に向けられていた
勝算はない、
考えるまでもない
絶望的な力の差
かと言ってこの状況で逃げ道もない
出来ることなんて…
こんなことが通用する相手には思えない
でももう、こうする他なかった
「…………俺で、」
「あ?」
「…俺で勘弁してもらえませんか」
関西弁の二人がちらっと眼を見合わせた
そして無言のまま、なんの会話をすることも無く
俺を見下ろしている男が口を開いた
「それは出来へんなあ、ボウズ。わしらにつっかかってきたのはあっちの兄ちゃんやろ。やったらあの兄ちゃんに落とし前つけなあかん。それが筋っちゅーもんやろ」
予想通りだ
「お願いします……何をしてもらってもいいです。だから…、」
「ボウズ、男が簡単に頭下げるもんやないで」
手を着き頭を下げた俺の言葉を
本城さんの隣に座る男が遮った
若干の蔑みの色を含ませて
「その人は、俺の大事な人なんです。目の前でやられんの黙って見てるわけにはいきません」
こんな風に形振り構わず
必死に頭を下げるのは初めてだった
「お願いします」
もう一度深く頭を下げると
背後の男がヒュウ、と口笛を吹いた
そして屈んで俺の肩を抱く
「……えぇ覚悟や。今時他人の為にそんな風に言える奴なんておらんで。なぁ、ジェリー?」
「、」
予想外の言葉だった
本城さんの隣に居る男も意外だという様子で返答を返さない
ポン、ポン、と肩をゆっくり叩いて男が口を開いた
「よし、ボウズの覚悟に免じて勘弁したろ」
「!」
「よかったな、ボウズ」
雰囲気が一変し男の声色が明るくなった
――助かった…のか?
奇跡だと思った
再びポンポン、と肩を叩かれたことで
高まっていた緊張が解け
俺は頭を上げた
「なんて言うと思たんか?」
見上げた瞬間男は声を出して笑った
呆気に取られている俺を気にすることも無く
まるで悪戯が成功した子供の様に笑っていた
死神なんてものは見たこと無いが
もし居るのならこんな風に笑うのだろうと
意識の外でそう感じていた