軍トキ(短編)







たった一日で世界が変わることがあるんだってこと、忘れてた。










「……十希夫?」

「あ、すみません。起こしちまいましたか?」


振り返ると軍司さんがのそりと布団から起き上がるところだった。


「いや、どうした?」

「雪積もってますよ」


ほら。
軍司さんにもよく見えるよう、体を窓からずらす。


「うお、本当だ」


斜め後ろに立った軍司さんが驚いて声を上げた。窓の外では、はらはらと雪が舞っている。地面も、庭の木々も白く染まり辺り一面銀景色。昨日までのいつもの景色が嘘だったみたいに。窓際の冷気を感じて少し鼻を啜りつつも俺はその光景に見入った。

寒いのは嫌だけど雪が振るとテンションが上がるのはなんでだろう。雪が降れば飛び出していた子供の頃ほどではないにしろ、今も結構ウキウキしている。










ふわっと軍司さんの腕が後ろから廻ってきて首元が温かくなった。


「寒くねぇの、」

「今暖かくなりました」


耳元で感じる息にそう返すと首に唇が触れた。くすぐったくて笑ってしまう。顔を横に向けると今度は唇に振ってきた。軽く合わさってすぐ離れたと思うと至近距離に優しく微笑んだ軍司さんの顔があった。

そして俺の頭をぽんぽんと撫でた後、暖房の電源を入れようと離れていく。俺はその軍司さんの腕を掴んで止めた。


「ね、軍司さん。外出ませんか?」











誰にもまだ踏まれていないそこを歩くとギシッと音がする。雪国ではないここでは、踏んでも地面が見えないほど積もるなんてことは少ない。目の前にあった車に積もっていた雪を取り、ころころと転がして大きくしていく。何回か繰り返しボーリングの玉ほどになったところでもう一つ作って上に重ねてやる。ガタガタで不恰好だけど雪だるまの出来上がりだ。


「ぐん……、うわっ!」


雪だるまを見せようと後ろに居た軍司さんを呼びかけたところでボフッと雪玉を当てられた。


「冷てっ!」

「はっははは!」


嬉しそうに軍司さんが笑っている。その手元には数個の雪玉が積み上げられていた。


「このっ!」


俺も身近な雪をかき集めて応戦する。雪合戦(タイマンだけど)の始まりだ。



そうして二人してびしょびしょになって家に入ったら、中で様子を見ていたおばさんにいつまでたっても子供ねなんて呆れて言われてしまった。














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