軍コメ(短編)


雨か……。


米崎は自分の教室から誰とも知らない傘を持って下駄箱に向かった。
廊下の窓から見る雨は次第に強くなっていく。
少し憂鬱な気分になりつつ足を進めた。
すると、出入り口、庇の下、外を恨めしそうに眺める男に気がついた。

「軍司、」

「おう、コメ」

「何やってんだ?」

「傘が無くてよ、止むの待ってたんだけど、止まねぇな、コレ」

目の前には視界を遮るような雨粒が降っている。

「止まねぇよ。降水確率80%だったぜ」

「まじで。ん?お前傘持ってんの?」

「教室からパクッてきた。誰のかは知らねぇけどな」

「ついてんな。俺のとこは全然見当たらなかったよ」

「使うか?」

「あ?お前は」

「俺と相合傘になるけどな」

まー、嫌ならずっとそこに居な。
そう言って傘を開いた。

ドン、と肩を押され横に軍司が並んだ。

「相合傘上等、」

軍司がにっと笑う。
ばーか、と返して雨の中を歩き始めた。
地面を打ち付ける雨で足元が濡れ始める。
そして男二人、肩にも雨が遠慮なく降りかかった。

「つーかこの傘小さくねぇ?」

ボロいし、と軍司が続けた。

「俺の傘を侮辱すると入れてやんねーぞ」

そう言うと教室にあったやつだろ、と言って笑われた。




相変わらず強まる雨。
濡れる靴。
水分を含み纏わりつく服。
男二人相合傘。
くだらないやり取り。
それでも少しだけ晴れた俺の気分。




時々触れる左肩が熱かった。







…end…
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