廻れ。廻れ。
「ドライ?」
「あぁ、」
珍しく屋上に来ていた秀吉が軍司に尋ねた。
経験はあるのか、と。
フェンスにもたれ、二人で煙草を吸う。
紫煙が風に乗って流れた。
「ねぇな」
「じゃあ決まりだな」
トントン、と指先で灰を落としながら言った。
「何がだよ、」
「今話してたろ」
軍司がふー、と細く煙を吐いた。
「お前はあんのかよ」
「あるに決まってんだろ」
決まってねーよ、と心の中で突っ込みを入れる。
「前立腺ちゃんと感じんだろ?」
「いいよ、別に興味ねぇ」
「俺があるんだよ」
「知るか」
「付き合うっつったろ」
約束も守れねーのか、そんな意味合いを含んでいた。
「8時に駅な」
それは来い、という意味だろうか。
一方的に言って秀吉が屋上を出て行った。
すっかり日が落ち、辺りは暗闇に沈んだ。街灯に照らされる駅前で秀吉が座り込んでいる。
「遅ぇ」
「来ねぇとは思わねぇのかよ」
軍司の言うことに返事もせず秀吉が歩き出す。何も言わずに後ろを歩いた。大通りから細い道に入って行くと、派手なネオンがちらつき始めた。そして角を曲がってすぐの自動ドアに入り、秀吉が部屋を選んだ。
「宿泊?休憩でいーだろうが」
「お前がドライ入るまでやんだぞ。そんなすぐにイけんのか?」
「あ、そう…」
言い返さずに従った。気が済むまで好きにすりゃいーけど。軍司はどこか他人事だった。
部屋に入ると先に秀吉がシャワーを浴びた。
軍司はソファに座りテレビをつけた。と、5分も経たない内に秀吉が出てきた。その姿を見て笑みが零れる。
「お前な、全然拭いてねぇじゃねぇか」
軍司がバスタオルを手に取り、まだ水が滴っている秀吉の頭をガシガシと拭いた。
「んなに慌てなくても逃げやしねーよ」
「るせー、お前もさっさと入ってこい」
はいはい、と笑いながら軍司がバスルームへ向かった。
「軍司、」
部屋に戻るとベッドに座ってテレビを見ていた秀吉に名前を呼ばれた。近くに寄ると引き寄せられキスをされる。そのまま引かれてベッドに横になった。
秀吉の手が軍司の額に掛かる髪を掬う。
「意外と長ぇんだな」
「……、」
「別人みてぇ」
そう言って秀吉が軍司の体を確認するように触り始めた。男に体を触られるのも何度目か。当初は感じていた嫌悪感もすっかり消え去っている。軍司は秀吉の指先の感覚を拾った。
何度も、角度を変えて舌を絡ませる。こいつ上手ぇな、と秀吉による口付けを受けながらそんなことを考えた。唇が離れるとお互いの目と目が合った。秀吉が昂揚しているのが分かる。今からこいつに喰われるのだとそんな錯覚さえ覚えた。目を閉じて再び唇を重ねる。
軍司の体がびくっと揺れた。
「感じんのか?」
乳首を摘んで転がしながら問う。
「っ……言わせんのかよ」
「別にいいぜ。その顔見りゃ分かる」
「……、」
「しっかり開発されてんだな」
「る、せ……、」
もう一度秀吉が軍司にキスをする。
深く口付けたあと首に落とした。
鎖骨、胸、腹、太腿と丁寧に舌でなぞっていく。
軍司の呼吸は浅く、短くなっていった。
「、跡っ、付けんな……、」
「いーじゃねぇか……、これ見て村田がどんな反応したか教えてくれよ」
軍司の制止を無視し、体中に秀吉の痕跡を残していく。村田の反応、そんなことを口にする秀吉にほんの少しだけ浮かんだ違和感。だがそれはすぐに消える。チクチクと跡の付けられるその感覚に軍司は身を震わせた。
秀吉が備え付けのローションを手に取り、たっぷりと自分の指と今から挿入する箇所に塗りつけた。ゆっくりと指を入れる。穴を広げるように上下左右に動かしていき、ソコが指に慣れてきたところで指の根元まで差し込んだ。関節を曲げて前立腺を探す。
「――っ!!」
僅かだが反応があったのを見て慎重にソコを擦る。
そのゆっくりとした感覚に軍司は焦れた。
「触んな」
自分で前を扱こうと手を伸ばしたところを秀吉に止められた。眉間を寄せて秀吉を見た後、諦めたように手をシーツへ落とす。代わりにといった感じで秀吉が胸の突起を舐めた。小さく漏れる声。軍司の呼吸に合わせて前立腺を触る。延々と繰り返されるその鈍い刺激から少しでも大きな快感を拾おうと軍司は目を閉じた。
どのくらい経っただろうか。最初は小さかった快感が、次第に軍司の中で大きくなっていった。そして背筋を奇妙な違和感が這い上がってくるのを感じていた。射精感とは違う何かが。そして、
「ぁ……ぁ…ああぁっ!!」
数秒痙攣したと思うと、秀吉の指をきつく締め付けた。額に汗が浮かび、手はシーツを握り締めている。尚も秀吉は刺激を続けた。
「やめっ……っ、あっ……」
悶える軍司が布団で口を押さえる。
目の前の光景を見て、秀吉は自分が酷く興奮しているのを自覚しつつ目を細めた。今すぐ挿れたい。思うまま突き上げてめちゃくちゃにしたい。その衝動を押さえ刺激を続ける。
射精するでもなく軍司は先から透明な液体を溢れさせていた。
どれくらい続けられただろうか。
「ぅんん……、んん!」
「入ったか?」
秀吉が布団を除けて軍司の顔を覗いた。潤んだ瞳からは今にも涙が零れ落ちそうだ。
「エロい顔してんな」
にやりと笑って秀吉が自身を取り出した。そのまま挿入する。秀吉も余裕はなかったが、それでもゆっくりと腰を進めた。痛みで快感が飛んでしまうことのないように。全てを埋め込んだ後は前立腺に当たるように突いた。
軍司が再び声を出し始める。顔は横を向け、必死な様子で布団を口に押し当て耐えている。我慢するな、と布団を剥がした。
「も、無理、だ……」
息も絶え絶えに軍司が訴えた。
「バカか。せっかくドライ入ってんだ。ここからだぜ」
秀吉に突かれながら、軍司は与えられる快感に自分が溶かされていくような感覚に陥っていた。
「あ、あ、あ、あ、あっ…………」
何度も、何度も波のように押し寄せる快感に喘ぐ。そして一際大きな快感が来てイくと、力なく意識を手放すように眠りに落ちた。
「体はどうだ?」
ふ、と軍司の意識が覚醒した。間接照明に照らされている秀吉を見上げる。
「……テメェ中に出したろ」
自分の中の違和感に文句を言うと、断られなかったんでな、と悪びれもせず言った。上機嫌な様子の秀吉の声とは対照的に、軍司の声は枯れている。時計を見れば深夜。どのくらい寝ていたかと時刻を数える。
「んで、どうだった?」
「は?」
「よかったろ」
悪人面でニヤニヤと笑っている。
「あぁ、」
軍司はその悪人面が咥えていた煙草を取って咥えた。
「死ぬほどな」
そう言って不敵に笑って見せる軍司に秀吉は自分の中から何かがゾクゾクと這い上がってくるのを感じた。
「嵌りそうだな」
「誰が、」
「俺」
秀吉がそう呟くとお前がかよ、と軍司が呆れた。
元々この一回きりにするつもりなどない。
「次はマジでヤリ殺してやるよ」
腹上死なんて本望だろ、そういう秀吉に軍司は再び呆れて他人事のように好きにしろと言った。
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