心躍るアンラッキー
初めて入った公園のベンチで煙草を一本取り出し口に咥えた。遊具も無く、人気も無い。手入れもされていない。
1人になりたかった。ライターを取り出し火をつけようとしてやめる。考える、柳にそう言ったものの考えるのは自分の病気のことばかり。苛立って取り出したその煙草を地面に投げ捨てた。
「こら、ポイ捨て禁止だぞ」
人が居たとは気づかなかった。驚いて声の方向を向くと、そいつは腰を屈めて煙草に手を伸ばした。
「あん?吸ってねーじゃねぇか。勿体ねぇ。」
言いながら拾ってゴミ箱へ捨てた。
「岩城…」
「武装の頭はマナーってのをを知らねぇのか?」
岩城が目の前に立つ。
「悪かった」
普段ならしねーのにな、頭の中で言い訳をした。
目を僅かに丸くした岩城がベンチの隣に座る。こんなとこで何してんだ、と言った気がした。
「うっ……」
来た……。目の前が暗くなっていく。今度はこのまま目が覚めないかも……不安が頭を過ぎった。
「おい!武田?!」
暗闇の中自分を呼ぶ声にふっと意識が戻るのを感じる。開ける視界。光が戻ってきた。
「どうした。顔色悪いぞ。大丈夫か?」
こんな無様な姿、鈴蘭の奴には見られたくなかった。これ以上は無理だ。
「じゃあな、」
「あ、おい!」
立ち上がり、呼び止める声を無視して歩き出す。すると視界が再び狭くなっていった。
あ……
人の気配がして覚醒した。白い天井と静かな匂い。ベッドの上らしい。
「目ぇ覚めたか」
聞き覚えのある声に自分がまだ生きていることを実感した。向くと岩城が足を組んで座っていた。
「ここは…?」
「病院。ベンチで話してたのは覚えてるか?」
「俺は、また倒れたのか」
「また?お前もしかしてどっか悪ぃんじゃねぇの」
岩城は冗談でそう言ったんだろう。
からかうような口調だった。
けど今の俺には通用しない。
その言葉を聞いた途端カァッと頭に血が上った。
「っ…!」
岩城の胸倉を掴む。目一杯の力を込めて。
「……ったらどうすんだよ」
「痛っ……何……?」
「そうだっつったらどうすんだよ!!」
「…あ?」
握る拳にに力が入る。
「武田?」
――畜生、
「おい、どうした?」
―――畜生……。
「武田?」
「なんで俺が……!!」
軍司の胸に頭を押しつける。
「なんでだよ!!」
「おい?」
「教えてくれよ……なんで俺だけ……」
本当はずっと誰かに縋らなきゃ壊れてしまいそうだった。全部ぶち撒けて、喚き散らしたかった。
一旦溢れ出したそれは止められなかった。何も知らず、訳も判らなかったであろう俺の言葉を岩城は黙って聞いていた。時折俺の背中を摩りながら。俺はそれに甘えて久しぶりに声をあげて泣いた。
泣くだけ泣くと少し落ち着いてきた。岩城に、悪いと言って離れた。
――出発の日
決定打は5代目武装の引退だった。
無理やり事を起こしてくれて柳に今は感謝している。
自分自身では出来なかった決断だ。
おかげですっきりした気分でこの日を迎えることが出来た。
大きく息を吸い、しばらく離れるであろう景色を目に焼き付ける。
「あ、」
道の向こうから見えた姿に笑みが浮かんだ。
どいつもこいつも、
わざわざ来るような間柄じゃねぇだろうに。
「なんだ、その紙袋は」
俺が持つ大きな荷物を指した。
「お前んとこのゼットンがくれたんだよ、入院中の暇つぶしにってな」
ほら、と中を開いて見せる。
「はぁ?!あいつ本物のバカだな、」
「全くだ」
でもこんなんでも嬉しいんだぜ。
そう言うと岩城はお前もバカだなと笑った。
ゼットンもジョーも、そして岩城も
来てくれたことに対して素直に嬉しいと思った。
「武田、携帯貸せ」
「?」
言われるがまま渡すと岩城が何やら操作しだした。
「少し調べた。やっぱりリハビリってのは大変なんだな」
「、」
「で、上手くいかねぇこともあるだろうし、苦しいこともあるだろ」
「……」
「俺は、武装じゃねぇし、お前の家族でもねぇ。知らねえ仲じゃねぇが、ダチでもねぇ。普段のお前なんて殆ど知らねぇ。」
どうやら赤外線通信をしているらしい。
携帯と携帯を合わせている。
「だから、格好つけられなくなったらなったら俺んとこ連絡しろ」
「――っ!!」
「一回やっちまったんだ。もう俺の前で格好つけるのは諦めろ。そんで、身内や仲間にゃ言えねーこと、そーいうの吐き出さす場所にしろよ。」
「……、」
岩城の言う通りだった。
あの日岩城の前で吐き出したことは家族の前では決して言えない。言ったら苦しめてしまうのが分かっているから。自分以上に苦しんで、心配してくれる家族だからこそ、言えないで胸にしまい込む言葉がある。
軍司が封筒を出した。
「中身は見んな、俺もゼットンと同じで貧乏でな」
何より俺が生きていることを当たり前のように話すのが嬉しかった。
「あぁ、ありがとな」
姉の呼ぶ声が聞こえる。そろそろ時間だ。
「じゃあな」
挨拶をして向きを変える。
「武田」
「ん?」
「まだ役目は終わってねーからな。」
武装のことだと察する。
勝って来い、と送り出された。
俺もそれに拳を握って応えた。
車に乗り込むと姉が優しい目をしていた。
いい友達だねと言った。
友達じゃねーよ。
照れ隠しでも何でもない、真実だ。
車が走り出す。
後ろは振り向かない。
今度この景色を見るのは帰って来たときだ。
そう強く思った。
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1人になりたかった。ライターを取り出し火をつけようとしてやめる。考える、柳にそう言ったものの考えるのは自分の病気のことばかり。苛立って取り出したその煙草を地面に投げ捨てた。
「こら、ポイ捨て禁止だぞ」
人が居たとは気づかなかった。驚いて声の方向を向くと、そいつは腰を屈めて煙草に手を伸ばした。
「あん?吸ってねーじゃねぇか。勿体ねぇ。」
言いながら拾ってゴミ箱へ捨てた。
「岩城…」
「武装の頭はマナーってのをを知らねぇのか?」
岩城が目の前に立つ。
「悪かった」
普段ならしねーのにな、頭の中で言い訳をした。
目を僅かに丸くした岩城がベンチの隣に座る。こんなとこで何してんだ、と言った気がした。
「うっ……」
来た……。目の前が暗くなっていく。今度はこのまま目が覚めないかも……不安が頭を過ぎった。
「おい!武田?!」
暗闇の中自分を呼ぶ声にふっと意識が戻るのを感じる。開ける視界。光が戻ってきた。
「どうした。顔色悪いぞ。大丈夫か?」
こんな無様な姿、鈴蘭の奴には見られたくなかった。これ以上は無理だ。
「じゃあな、」
「あ、おい!」
立ち上がり、呼び止める声を無視して歩き出す。すると視界が再び狭くなっていった。
あ……
人の気配がして覚醒した。白い天井と静かな匂い。ベッドの上らしい。
「目ぇ覚めたか」
聞き覚えのある声に自分がまだ生きていることを実感した。向くと岩城が足を組んで座っていた。
「ここは…?」
「病院。ベンチで話してたのは覚えてるか?」
「俺は、また倒れたのか」
「また?お前もしかしてどっか悪ぃんじゃねぇの」
岩城は冗談でそう言ったんだろう。
からかうような口調だった。
けど今の俺には通用しない。
その言葉を聞いた途端カァッと頭に血が上った。
「っ…!」
岩城の胸倉を掴む。目一杯の力を込めて。
「……ったらどうすんだよ」
「痛っ……何……?」
「そうだっつったらどうすんだよ!!」
「…あ?」
握る拳にに力が入る。
「武田?」
――畜生、
「おい、どうした?」
―――畜生……。
「武田?」
「なんで俺が……!!」
軍司の胸に頭を押しつける。
「なんでだよ!!」
「おい?」
「教えてくれよ……なんで俺だけ……」
本当はずっと誰かに縋らなきゃ壊れてしまいそうだった。全部ぶち撒けて、喚き散らしたかった。
一旦溢れ出したそれは止められなかった。何も知らず、訳も判らなかったであろう俺の言葉を岩城は黙って聞いていた。時折俺の背中を摩りながら。俺はそれに甘えて久しぶりに声をあげて泣いた。
泣くだけ泣くと少し落ち着いてきた。岩城に、悪いと言って離れた。
――出発の日
決定打は5代目武装の引退だった。
無理やり事を起こしてくれて柳に今は感謝している。
自分自身では出来なかった決断だ。
おかげですっきりした気分でこの日を迎えることが出来た。
大きく息を吸い、しばらく離れるであろう景色を目に焼き付ける。
「あ、」
道の向こうから見えた姿に笑みが浮かんだ。
どいつもこいつも、
わざわざ来るような間柄じゃねぇだろうに。
「なんだ、その紙袋は」
俺が持つ大きな荷物を指した。
「お前んとこのゼットンがくれたんだよ、入院中の暇つぶしにってな」
ほら、と中を開いて見せる。
「はぁ?!あいつ本物のバカだな、」
「全くだ」
でもこんなんでも嬉しいんだぜ。
そう言うと岩城はお前もバカだなと笑った。
ゼットンもジョーも、そして岩城も
来てくれたことに対して素直に嬉しいと思った。
「武田、携帯貸せ」
「?」
言われるがまま渡すと岩城が何やら操作しだした。
「少し調べた。やっぱりリハビリってのは大変なんだな」
「、」
「で、上手くいかねぇこともあるだろうし、苦しいこともあるだろ」
「……」
「俺は、武装じゃねぇし、お前の家族でもねぇ。知らねえ仲じゃねぇが、ダチでもねぇ。普段のお前なんて殆ど知らねぇ。」
どうやら赤外線通信をしているらしい。
携帯と携帯を合わせている。
「だから、格好つけられなくなったらなったら俺んとこ連絡しろ」
「――っ!!」
「一回やっちまったんだ。もう俺の前で格好つけるのは諦めろ。そんで、身内や仲間にゃ言えねーこと、そーいうの吐き出さす場所にしろよ。」
「……、」
岩城の言う通りだった。
あの日岩城の前で吐き出したことは家族の前では決して言えない。言ったら苦しめてしまうのが分かっているから。自分以上に苦しんで、心配してくれる家族だからこそ、言えないで胸にしまい込む言葉がある。
軍司が封筒を出した。
「中身は見んな、俺もゼットンと同じで貧乏でな」
何より俺が生きていることを当たり前のように話すのが嬉しかった。
「あぁ、ありがとな」
姉の呼ぶ声が聞こえる。そろそろ時間だ。
「じゃあな」
挨拶をして向きを変える。
「武田」
「ん?」
「まだ役目は終わってねーからな。」
武装のことだと察する。
勝って来い、と送り出された。
俺もそれに拳を握って応えた。
車に乗り込むと姉が優しい目をしていた。
いい友達だねと言った。
友達じゃねーよ。
照れ隠しでも何でもない、真実だ。
車が走り出す。
後ろは振り向かない。
今度この景色を見るのは帰って来たときだ。
そう強く思った。
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