心躍るアンラッキー
光信とその他ハゲ達に囲まれた後、気がついたのは病院のベッドの上だった。あと一歩、どうしても光信の野労はぶっ殺してやりたかったが届かなかった。この借りは必ず返す。湧き上がる怒りをと共に体を起こした。
「軍司さん!」
「と、きお?」
ベッドのすぐ横の椅子に座っていたのは弟分だった。十希夫は体調を心配するとすぐに顔を険しく変えた。
「どいつですか、」
鳳仙の動きはすでに探らせている。俺の証言一声でやった奴に報復すると告げた。と同時に、コメとゼットンも襲撃を受けたことを知らされた。鳳仙の先制攻撃は成功したということだろう。秀吉だけが攻撃を受けなかったことも何か理由があるはずだ。自分の報復に動いてくれたことはありがたいが、今鈴蘭がバラバラに動くのは得策ではないと感じた。学校を上げての抗争になる。俺なりの考えを十希夫に伝えた。
「分かりました。秀吉さんと連携とります」
十希夫はすぐに俺の考えを理解してくれた。
翌日から秀吉一派もブッチャーんとこも、クロサーまでも町の至る所で鳳仙と衝突したようで抗争は激化していった。報告の為に毎日十希夫が病室を訪ねてくれた。メールか電話でいいというのに十希夫は好きでやってるからと一日も欠かすことはなかった。その際入院中の暇つぶしやら何やら持ってきてくれる。出来た弟分だ。
天狗の森での対決は4勝を収めた鈴蘭の勝利と思いきや、その場に居た全員での対決となった。こうなれば腕が痛いなどと言っている場合ではない。全員ぶっ殺すつもりで飛び込んだ。
目の前に居たハゲを投げ飛ばして一息つくと、周囲に自分の一派の奴らが居ることに気がついた。なんだかくすぐったい気分になる。隣に居る十希夫に視線をやると目が合った。
「、」
その目は力強く、行けと言っているように感じた。俺は十希夫に頷いてずっと向こう側にいる人物の元へ向かった。
「光信!!」
俺が名前を呼ぶと光信が手に持っていた相手を頭突きで寝かせて正面を向いた。
「よー、岩城。体の具合はどうじゃ?!」
「おかげさまで、絶好調だよ!!」
光信と掴みあう。3年間敵対してきたがこいつとタイマン張るのは初めてだ。多分最初で最後になる。そんな戦いに興奮した。わき腹に膝蹴りを入れ、屈んだところを上から叩き落とした。アドレナリンのせいか、もう腕の痛みなど感じない。立ち上がる光信が笑っている。それを見て俺も笑みが零れた。
光信の足がふらつき始めて止めの刺し時だと感じる。顎にアッパーを入れるとそのまま倒れ込んだ。奴が倒れるのと同時に歓声があがった。驚いて周りを見回すといつの間にか殴り合いを止めて傍観に回っていたようだった。ゼットンが親指を立てて嬉しそうにグーサインを送っている。もちろんそれは無視した。
「軍司さん、」
お疲れ様です、と労ってくれる十希夫に笑顔で返し帰路につく。途中すれ違った中島にいずれな、と声を掛けられた。中島とも小学校以来の付き合いだ。俺もいずれな、と返した。
「着替えたら軍司さん家に行きますね」
各々自分の家へと別れ、二人になると十希夫が言った。どうせ自分で手当てなんてしないでしょ、そう言う後輩に苦笑いを返す。
「軍司さん、俺軍司さんについて来てよかったです」
別れ際の言葉。
「俺も、お前が居てよかった」
じゃあ後で、そう約束して別れる。
残る問題はあと一つ。その男の顔を思い浮かべて俺は腹の底から溜息を吐いた。
「痛みますか?」
勝手知ったるなんとやら、十希夫はうちにくると収納の中からすぐに救急箱を持ってきた。丁寧に薬を塗り、包帯を撒き直してくれる。
腕の包帯を巻き終わると十希夫の指が俺の前髪を上げた。シャワーを浴びたあとまだセットしていない。そして額の傷を撫でた。額から目尻、そして頬を伝って唇に触れる。意図が掴めず十希夫を見ると十希夫の顔が泣きそうに見えた。なぜこんな顔をするのだろう、理由は分からなかったが俺は思わず頭を撫でた。十希夫はいつからか時々こんな顔をするようになった。苦しいのを噛み殺すような。
「どうした?十希夫」
命令と取られないように柔らかく問いかける。ん?と再度聞くと十希夫が気まずそうに俯いた。なんでもありません、すみませんと謝り手当てを再開した。そしてもう一度顔を見合わせたときにはいつもの十希夫に戻っていた。
・・・・・・・・・・・・・
5人で話をした後ゼットン達と屋上で別れ、秀吉の後ろをついて歩いた。行き着いたのは図書室。シンとした部屋の中では相手の息遣いまで聞こえそうな気がした。
「軍司…、」
頼りないこの声は本当にあの秀吉のものだろうか。なぜか一瞬重なったのは俺を手当てしてくれていたときの十希夫。
「男からいきなりこんなこと言われてお前が応えられねぇのも分かってる。でもな、俺もここで諦めきれるようなら最初からお前に云ってねぇ。腹くくってんだ」
だから今断るな。一度真剣に考えてくれ。ここまで言われて拒否出来ず、保留という意味で首を縦に振った。
→
「軍司さん!」
「と、きお?」
ベッドのすぐ横の椅子に座っていたのは弟分だった。十希夫は体調を心配するとすぐに顔を険しく変えた。
「どいつですか、」
鳳仙の動きはすでに探らせている。俺の証言一声でやった奴に報復すると告げた。と同時に、コメとゼットンも襲撃を受けたことを知らされた。鳳仙の先制攻撃は成功したということだろう。秀吉だけが攻撃を受けなかったことも何か理由があるはずだ。自分の報復に動いてくれたことはありがたいが、今鈴蘭がバラバラに動くのは得策ではないと感じた。学校を上げての抗争になる。俺なりの考えを十希夫に伝えた。
「分かりました。秀吉さんと連携とります」
十希夫はすぐに俺の考えを理解してくれた。
翌日から秀吉一派もブッチャーんとこも、クロサーまでも町の至る所で鳳仙と衝突したようで抗争は激化していった。報告の為に毎日十希夫が病室を訪ねてくれた。メールか電話でいいというのに十希夫は好きでやってるからと一日も欠かすことはなかった。その際入院中の暇つぶしやら何やら持ってきてくれる。出来た弟分だ。
天狗の森での対決は4勝を収めた鈴蘭の勝利と思いきや、その場に居た全員での対決となった。こうなれば腕が痛いなどと言っている場合ではない。全員ぶっ殺すつもりで飛び込んだ。
目の前に居たハゲを投げ飛ばして一息つくと、周囲に自分の一派の奴らが居ることに気がついた。なんだかくすぐったい気分になる。隣に居る十希夫に視線をやると目が合った。
「、」
その目は力強く、行けと言っているように感じた。俺は十希夫に頷いてずっと向こう側にいる人物の元へ向かった。
「光信!!」
俺が名前を呼ぶと光信が手に持っていた相手を頭突きで寝かせて正面を向いた。
「よー、岩城。体の具合はどうじゃ?!」
「おかげさまで、絶好調だよ!!」
光信と掴みあう。3年間敵対してきたがこいつとタイマン張るのは初めてだ。多分最初で最後になる。そんな戦いに興奮した。わき腹に膝蹴りを入れ、屈んだところを上から叩き落とした。アドレナリンのせいか、もう腕の痛みなど感じない。立ち上がる光信が笑っている。それを見て俺も笑みが零れた。
光信の足がふらつき始めて止めの刺し時だと感じる。顎にアッパーを入れるとそのまま倒れ込んだ。奴が倒れるのと同時に歓声があがった。驚いて周りを見回すといつの間にか殴り合いを止めて傍観に回っていたようだった。ゼットンが親指を立てて嬉しそうにグーサインを送っている。もちろんそれは無視した。
「軍司さん、」
お疲れ様です、と労ってくれる十希夫に笑顔で返し帰路につく。途中すれ違った中島にいずれな、と声を掛けられた。中島とも小学校以来の付き合いだ。俺もいずれな、と返した。
「着替えたら軍司さん家に行きますね」
各々自分の家へと別れ、二人になると十希夫が言った。どうせ自分で手当てなんてしないでしょ、そう言う後輩に苦笑いを返す。
「軍司さん、俺軍司さんについて来てよかったです」
別れ際の言葉。
「俺も、お前が居てよかった」
じゃあ後で、そう約束して別れる。
残る問題はあと一つ。その男の顔を思い浮かべて俺は腹の底から溜息を吐いた。
「痛みますか?」
勝手知ったるなんとやら、十希夫はうちにくると収納の中からすぐに救急箱を持ってきた。丁寧に薬を塗り、包帯を撒き直してくれる。
腕の包帯を巻き終わると十希夫の指が俺の前髪を上げた。シャワーを浴びたあとまだセットしていない。そして額の傷を撫でた。額から目尻、そして頬を伝って唇に触れる。意図が掴めず十希夫を見ると十希夫の顔が泣きそうに見えた。なぜこんな顔をするのだろう、理由は分からなかったが俺は思わず頭を撫でた。十希夫はいつからか時々こんな顔をするようになった。苦しいのを噛み殺すような。
「どうした?十希夫」
命令と取られないように柔らかく問いかける。ん?と再度聞くと十希夫が気まずそうに俯いた。なんでもありません、すみませんと謝り手当てを再開した。そしてもう一度顔を見合わせたときにはいつもの十希夫に戻っていた。
・・・・・・・・・・・・・
5人で話をした後ゼットン達と屋上で別れ、秀吉の後ろをついて歩いた。行き着いたのは図書室。シンとした部屋の中では相手の息遣いまで聞こえそうな気がした。
「軍司…、」
頼りないこの声は本当にあの秀吉のものだろうか。なぜか一瞬重なったのは俺を手当てしてくれていたときの十希夫。
「男からいきなりこんなこと言われてお前が応えられねぇのも分かってる。でもな、俺もここで諦めきれるようなら最初からお前に云ってねぇ。腹くくってんだ」
だから今断るな。一度真剣に考えてくれ。ここまで言われて拒否出来ず、保留という意味で首を縦に振った。
→